12

グレンside


 隣の会議室へと消えていった生徒会長サマと女生徒。その後ろ姿を目で見送り、生徒会室の扉がしっかり閉まったのを確認した後、珈夜が唐突に話し掛けてきた。


「ミドリさんとグレン、サン。」


 珈夜はようやく最近になって先輩を敬うことを覚えたようで。まだたどたどしいが俺にもさん付けで呼ぶまでに成長した。俺の涙ぐましい努力はウンヌンカンヌン。


 しかし何故珈夜は俺を敵対視するのか、俺は知らない。珈夜には無いものを俺がたくさん持っているのが気に食わない、とはこの前言われていたが……なんとなく生徒会長サマ関連なのではないかとは推測出来た。あの崇拝ぶりは相当だからな。


「なんだ? 重要な話ではないのなら聞かないぞ。」


 俺は目の前にある書類から目を離さず、平坦な声を意識して言葉を紡ぐ。なんたってこの生徒会の仕事は多いのか、とイライラしている様を表に出さないように。


「カヨさん怖い顔だよ~? 深刻な話~? お茶飲んで落ち着く~?」


 緑の緩い問いに対して珈夜は横に首を振り、一刻も早く話したいと言わんばかりに口を開いた。


「我が生徒会長シスイ様のことです。最近今まで以上に思い詰めた顔をしていらっしゃるとは思いませんか? 化粧で隠しきれない程顔色も悪いですしクマも酷いですし。」


 ああ、そのことか。確かに俺も気になっていた話題故に、書類に落とした目を上げ、持っていたペンを置く。


 生徒会長サマは誰彼構わず優しさを振り撒き、生徒会の仕事もキッチリこなす。もちろん学生の本分である勉強も完璧だ。学年一位を取り続ける努力は半端なものではないだろう。


 そしてそれら全てを完璧にこなすことが当たり前だと思い込んでいるようだった。


 生徒会長サマは全てにおいて完璧な人間であるが、俺からすれば無理をしているようにしか見えない。


「まあ、確かに気にはなっていた。無理をしているようだからな。ったく、体調管理も仕事のうち、だろうに。」


 頬だって前より少し痩けてきているし、珈夜の指摘通り顔色も悪い。生徒会長サマはどうにか隠しているようだが、よくよく観察すれば分かる程酷いのだ。


 ああイライラする。俺の上に立つ人間なら、もっとドッシリと構えていろ。俺を副会長として引き上げてくれた感謝分くらいは心配してやるから。


 そんな言葉に出来ない想いはグルグルと頭を回るだけに留まった。

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