第15節:子どもたちの勇気と奇跡
私は本能的に自分の死を確信していた。なんだか呆気ない。もう指一本すら動かせない。
「こらぁああぁーっ! お、お姉ちゃんをイジメるなっ!」
薄れゆく視界の片隅に、コナの姿が見える。
彼は私とモンスターの間に立ち塞がり、両手を広げて庇おうとしてくれている。あんなに小さな体で、弱い体で。
逃げなさいよ……バカ……。あんな凶暴なモンスターに勝てるわけないんだから。
くっ……声を出したくても、もうそれすらも出来ない……。
「わぁああああーっ!」
その時だった。私の周りにほかの子たちも集まってきて、コナと同じようにモンスターと対峙する。
女の子や幼い子まで全員が……。
「お姉ちゃん!」
「僕がお姉ちゃんを守るっ!」
「お姉ちゃん、痛いの飛んでくおまじない、してあげる!」
ラナは必死になって私の傷口を手で塞ごうと押さえてくれている。私の血がベットリと手や服に付いて気味が悪いだろうに、そんなことを気にする様子もない。
ラナ……そこまでして私を……。
「お姉ちゃんは僕たちが絶対に守るんだっ!」
「そうだっ! お姉ちゃんはボクたちの本当のお姉ちゃんだ!」
「みんなのお姉ちゃんを守るんだぁっ!」
口々に発せられる優しい言葉。想いの込められた力強い言葉。純粋な気持ち――。
それを聞いていると不思議と体が楽になってくる気がする。
ううんっ、本当に怪我が回復してるんだ! だって私の体にはどんどん力が戻ってきているから。傷口もどんどん塞がり、痛みも消えていく。
もしかしたら、みんなの想いが珠に届いたのかも!?
――これならまだ戦えるっ! 私は体に抱きついていたラナの頭を撫で、ゆっくりと体を起こす。
「軽羽お姉ちゃん!?」
「ラナ、それにみんなもアリガトね。おかげで私、元気が出てきたよ」
「うんっ♪」
「この子たちは私が守ってみせる!」
私は杖を握りしめて立ち上がり、コナの前に出た。彼は私が立ち上がったことに気付いて目を丸くしていたけど、すぐに嬉しそうな顔をして大粒の涙を流す。
安心して、コナ。私、今度は負けない。
――そう、負けなければ良いんだ!
「結界よ、出ろっ! 私たちとリヤカーを守れっ!」
杖を掲げてそう叫ぶと、私たちや作物を積んだリヤカーは光の壁に包まれた。その壁の向こうに、呆然と立ちつくしているモンスターの姿が見える。
ヤツはまだ何が起きたのか理解していないらしい。
ただ、モンスターは程なく考えるのをやめたようで、こちらへ殴りかかってくる。
想定外の事態に直面したら面倒くさくなって、力任せに攻撃する結論にしか至れないなんて、さすが頭の悪い脳筋だ。
当然、その攻撃は光の壁に阻まれる。拳が結界に触れた瞬間、電気がスパークするような音とともにヤツはその場からわずかに弾き飛ばされる。
それでようやく色々と理解して怒り狂っているみたいだけど、もはや全てが襲い。
光の壁はどんなに攻撃を受けてもビクともしない。その様子を見て、子どもたちはモンスターに向かってアッカンベーをしたりお尻ペンペンしたりして挑発している。
「グ……ガ……」
やがてモンスターは諦めたのか、どこかへ去っていってしまった。ようやく最大のピンチを脱したみたい。
ゆえに私は息をつきつつも、まだしばらくは油断せずに結界を展開したままにしておく。
「やったぁっ!」
「モンスターが逃げてったー!」
「ばんざーい!」
子どもたちは手を取り合って喜んでいた。
小さな体が今は私の何倍にも大きく見える。顔立ちも昨日と比べたら一気に大人びたような錯覚さえする。
まさか子どもたちに助けられるなんて想像もしていなかったな……。
でも思い返してみれば、私はみんなに『モンスターと戦おう』って言ったかもしれない。それってこうして本当に戦うんじゃなくて、恐怖に立ち向かおうよって意味だったんだけど。
子どもたちって予想外の行動を取って、たまに奇跡みたいなことを起こす。そしてちょっと見ない間に驚くくらいのペースで成長する。そういうのを見るたびにすごいなって思う。
だから子どもたちのそばにいるのって楽しいし、やめられないんだけどねっ。
「さぁ、みんな! ご領主様の屋敷へ向けて出発しましょう!」
モンスターを退けた私たちは、再びご領主様の屋敷へ向けて歩を進め始めたのだった。
(つづく……)
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