第13節:収穫の喜びを……
翌日、私たちは手分けして作業を進めた。
私やコナ、比較的年上の子たちを中心としたグループは電気柵の設置。そのほかの子たちは畑を耕すのを担当している。みんな張り切って作業をしてくれていて、私は嬉しいと同時に心強く感じている。
「よーっし、電気柵の設置は終わりっと。あとは電源を入れれば完了だね」
「これでもうモンスターは畑に入ってこられないでしょう」
私とコナはハイタッチして電気柵の完成を喜んだ。畑の周りをぐるりと囲うように隙間なく設置してあるから、これでモンスターに収穫を邪魔されることはないはずだ。
次は畑の手伝いに向かおうかなと思っていると、ラナがこっちへ向かって走ってくる。
「お姉ちゃん、種まき終わったぁっ!」
「そうなの? がんばったわねぇ! それなら作物を育てて、収穫しにいきましょう」
「魔法を使うんですね?」
「そっ! 作物を生長させる魔法。でもその前に――リヤカー、出ろっ!」
私は珠に念を込め、目の前にリヤカーを出した。
収穫した作物を手で運ぶのは大変だもんね。コナの話だと、ご領主様の屋敷は村から少し離れた場所にあるらしいし。
でもこれがあれば一気に大量に運ぶことが出来る。
「このリヤカーに収穫した作物を載せましょう」
その後、私たちはリヤカーを引っ張りながら畑へ移動した。
ただ、畑の横に立つのは私だけで、子どもたちは外側の少し離れた位置で待機させる。
植物の生長する力って大きいから、近付きすぎて巻き添えを食ってしまうと危ないもんね。転んで怪我をしたり体が持ち上げられたりしちゃうかもしれないし。
そしてみんなが安全だと思われる位置に集まっているのを確認して、私は珠を掲げて叫ぶ!
「畑に植えられたタネよ、作物が収穫できるくらいまで育てっ! 豊かに実れ!」
珠から放たれた緑色の光が畑全体へ降り注いだ。地面全体が淡い光を帯び、まるで生命の息吹が宿ったかのような印象を受ける。
直後、土の中から次々に芽が出たかと思うと、どんどん成長して茎や葉が広がっていく。
こうして赤茶けた大地の真ん中に鮮やかな緑の
その奇跡の光景をはしゃいで眺める子どもたち――。
「よしっ! 適度に雨よ、降れ!」
私の念に応じ、今度は空に雨雲が生まれた。
ポツリと私の頬に雨粒がひとつ。さらに雨粒は優しいシャワーとなって畑を潤し、村や周囲の地域まで肥沃な土地へと変化していく。
深呼吸すると鼻に土や水の匂いが漂ってきて心地良い。
「きゃはははっ! シャワーだシャワーだ!」
「わーいっ!」
子どもたちは雨の中で水遊びを始めた。
あんまり体が濡れると風邪をひいちゃうから気をつけないといけないけど、少しくらいは自由にさせてあげてもいいのかもね。
だって砂漠に近いような乾燥した土地だったんだもん、あんな風に水遊びをしたことなんてなかったと思うから。肌に受ける雨の刺激、足の裏に伝わる泥の感触、何もかもが新鮮で楽しいに違いない。
やがて雨は上がり、空には雲もなくなった。そこには澄んだ青空が広がっている。また、植物の葉についた雫が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
私は珠の力でタオルを出して、子どもたちの髪や体を拭いてあげた。ただ、全員が私に拭いてほしいとねだってきたから、長い列が出来ちゃって大変。私としては嬉しい悲鳴だけどっ♪
そして畑に植えたタネは健康に育ち、作物がたわわに実ったのだった。
植物の種類によって育つ季節はバラバラなのに、全てが収穫できるようになっているのは珠の力の賜物なのだろう。
「ついでにこの辺の土地も豊かにしちゃいましょう。殺風景だし。――土地よ、豊かになれっ! 清らかな水よ、湧き出して川となれ!」
どこまで可能か半信半疑だったけど、私の願いは無事に叶い、周りの土地は緑に包まれていった。
たくさんの花も咲いて、まるで里山にでもいるみたい。
ここに来た当初は砂っぽい熱風が吹いていたけど、今は穏やかで心地よくて優しい風が漂っている。これならもし私がいなくなっても、みんなは心豊かに成長していけると思う。
「さぁ、みんな! 作物を収穫するよーっ!」
私たちは収穫作業を始めた。
お芋を掘ったり麦を刈り取ったり桃をもいだり。中にはつまみ食い――じゃなくて、味見をしている子もいるけどちょっとくらいなら許してあげようかな。今までモンスターに荒らされて収穫の喜びを味わえなかったんだもん。それを知ってほしいし。
――っていうか、収穫した作物をそのまま食べることが出来るなんて、これも珠の力が影響しているのかもしれない。
(つづく……)
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