第12節:自由への道
モンスターを追い払ったあと、私はみんなを建物のひとつに集めた。そして珠の力を使って食べ物を出す。
もちろん、好き嫌いをしないように野菜もたっぷりとね。肉やご飯だけじゃなくて、色々なものをバランスよく食べることが大切だから。
でも私の
すごいなぁ、ピーマンとかタマネギとか喜んで食べてるもん。ひとりくらいは嫌がる子がいてもおかしくないんだけど。
もちろん、好き嫌いなく食べるのは良いことなんだけどちょっと違和感を覚える。
「うわ~んっ!」
突然、食器を落としたような物音とともに女の子の泣き声が聞こえてきた。
その音や声がしている方を見ると、どうやら男の子と女の子がケンカをしているようだった。私は急いでそのふたりのところへ駆け寄る。
男の子は私と同じ日本人っぽい感じで、黒髪の短髪。裕福な家庭のお坊ちゃまといった印象を受ける6歳くらいの子。名前は確かノボルだったかな。
女の子はヨーロッパ系の顔立ちに、透き通るような白い肌。サラサラの明るい茶髪を肩の下くらいまでストレートに伸ばしている。年齢は5歳で名前はラナだ。
「ふたりともどうしたのっ? ケンカの原因は何?」
「コイツがモタモタ食べてるから注意しただけだよ! 俺は悪くない!」
「無理だよぉ……。私、そんなに急にお腹の中に入らないもん……」
完全に意固地になっているノボルとしゃくり上げているラナ。
しまったなぁ、私が食べ物を出したことでケンカの引き金を引いてしまったみたいだ。私は心の中で自省しつつ、何とかこの場を収めるべく動く。
「ノボル、そんな言い方しちゃダメでしょ。女の子には優しくしてあげないと」
「だってさぁ……なんかイライラするんだよぉ……」
「仲良くして助け合わないとダメだぞ。お姉ちゃん、悪い子は嫌いになっちゃうかもなぁ?」
「えぇっ!? そ、そんなのヤダ~っ!」
「じゃ、ノボル。ラナと仲良くするって約束しよ。ラナも食べきれる分を少しずつ取って食べようね。お姉ちゃんがいる限り、いくらでも食べ物を用意してあげるんだから」
私が優しい声で問いかけると、ノボルもラナも素直に頷いた。そしてふたりはお互いに握手をして、すっかり仲直りをする。
蹴ったりぶったりモノを投げたり、そんな大ごとになる前にケンカが収まって私もひと安心だ。
最後に私はしゃがみ込んで、ふたりを抱き寄せた。私もふたりも自然に笑みが浮かんでくる。こうして再び穏やかな時が戻り、私はさっきまで座っていた場所に戻って水を一口啜る。
すると一部始終を見守っていたコナが羨望の眼差しで私を見つめてくる。
「すごいです。お姉ちゃんにはみんなに慕われる力があるのかもしれませんね」
「そうなのかな?」
「はい、僕はそんな気がします。だって今までケンカがあっても、あんなに簡単に収まることってなかったですから」
「そういえば、ここの子たちはみんな素直に私の言うことを聞いてくれてるかも」
保育所で預かってた子どもたちは、わがままを言ってなかなか聞き分けてくれないことがよくあった。でもここにいる子たちはコナを筆頭にみんな比較的素直だ。
食べ物の好き嫌いはないし、畑仕事も一生懸命にするし、私としては手がかからなくてすごく助かる。もう少しヤンチャでもいいとは思うけど……。
◆
それからしばらくして食事が終わったあと、私はみんなの前に立って『計画』を打ち明けることにした。これがうまくいけばみんなは自由になれる。
「ねぇ、聞いて。ご領主様に納める作物を育てるために、みんなには協力してほしいの。お願いできるかな? 私ひとりでは無理だから……」
まだモンスターが襲ってきたばかりだし、みんなは今まで何度も収穫を邪魔されてきた。
だから元気がなくなったり怯えたり尻込みしたりするる子がいるかもなって不安だったんだけど、私が呼びかけた途端にみんなは瞳を輝かせて駆け寄ってくる。
「もちろんだよっ! お姉ちゃんの言うことなら何でもするよっ!」
「ボクたちに水や食べ物をくれたんだもんねっ! モンスターから村を守った伝説の勇者だもんねっ!」
「バカ、お姉ちゃんは勇者じゃなくてスーパーヒーローだよ」
「お腹いっぱいで元気も出てきたし、私はなんでもやるっ!」
「お姉ちゃん、何をすればいいの?」
子どもたちは口々に賛同してくれている。
あまり深く考えが至っていない可能性もあるけど、その気持ちだけで私は泣きたくなるくらいに嬉しい。勇敢さが頼もしい。私まで気持ちが奮い立ってくる。
「明日は一緒に畑を耕そう。タネを植えよう。そしてモンスターと戦おう! それで自由を手に入れようっ! もちろん、私が先頭に立つから! みんなで力を合わせれば何も怖くないよっ!」
その呼びかけに対してみんなは声を揃えて『おーっ!』と返事をする。すっかり私たちの心はひとつだ。なんか不安に思っていた自分がバカみたい。
そうだよね、やる前からネガティブなことを考えてたら余計に負の空気を引き寄せちゃう。
そうだ、私たちは絶対にやり遂げるんだっ!
(つづく……)
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