第11節:もうひとつの力
思い悩みながら杖を見ていたその時、私はあることに気が付いた。それはこの杖が魔法でも使えそうなデザインだということ!
そうだ、珠に力があったんだもん、杖にだって何か不思議な力があったとしてもおかしくないッ!!
ダメ元で私は杖を握りしめ、念じてみる。
「炎よっ、出ろっ! モンスターを焼き尽くせーっ!」
直後、私の声に応じて杖の先端から猛火の塊が飛び出した。
それはまるで燃えている野球のボールがピッチングマシンから放たれたかのような感じ。スピードは男子のクラスメイトが放り投げたくらいだからプロ選手並みというわけではないけど、それがモンスターへ真っ直ぐ向かっていく。
やっぱり想像した通り、この杖は魔法を使うことが出来るんだっ! あの炎を食らったらどんな相手だって黒こげになるはずっ!
そして程なく炎はそのままモンスターに命中。でも私の予想に反し、炸裂した炎は燃え広がることなくすぐに消え失せてしまう。
まるでモンスターの体全体には炎を弾くコーティングでもされているかのようだ。
つまり炎には耐性があってことかもしれない。でもそれなら――っ!
「吹雪よ、出ろっ! モンスターを凍らせろっ!」
今度は杖の先から凍てつく冷気と鋭い氷の針が無数に飛び出した。
モンスターはそれを食らい、今回は
「やった! よしっ、トドメだっ!」
この優位な流れが変わらないうちに決着を付けようと、私は魔法で氷の刃を作り出してモンスターに攻撃しようとした。
ちょっとでも隙を与えたら危険だし、逃がしてしまったらまたいつ襲ってくるか分からない。
でも魔法を使おうと思った直前、私は目まいと全身の痺れを感じて立っていられなくなってしまった。
杖に寄りかかりながら、思わず膝をつく。
「……っ……」
やばい……体が……寒い……。
はぁ……はぁ……ぁ……。視界が歪んで……音が……薄れて……。はぁっ……はぁっ……冷や汗が全身から……。
ダメ……なのに……こんな……の……。私が倒れたら……みんなが……。
「お姉ちゃん!」
「っ!?」
暗くなりつつあった視界の片隅に、泣きそうなコナの姿が見えた。ほかの子たちもその後ろからこっちの様子をうかがっている。
バカ……出てきちゃダメ……だよ……。
でもそんな私の願いも虚しく、コナがこっちへ向かって駆け寄ってくる。すると堰を切ったように、みんなも一緒にそのあとへ続く。
結局、私の想いとは裏腹に子どもたち全員がそばまでやってきてしまった。私は杖に体重を預けながらなんとか声をひねり出す。
「バカ……隠れて……なさい……」
「大丈夫です。モンスターは逃げていきました」
「えっ……?」
顔を上げ、さっきまでモンスターのいた辺りを見てみるとそこにヤツの姿はなかった。コナに指摘されるまで気が付かなかった。
そしてそれを認識した途端、私の体の不調は不思議と消えていき、数秒後には普通の状態に戻っていたのだった。
食らったダメージもいつの間にか吹き飛んでいる。自分でも何がどうなったのか分からない。
ただ、みんなが無事だったならそれでいいや。モンスターを倒すことが目的じゃないんだし。またいつか襲ってくるかもって懸念はあるけど……。
…………。
……んっ? もしかして、モンスターを倒しちゃいけないのかな?
そうだ、私はモンスターにトドメを刺そうとしたら体がおかしくなった。戦意がなくなったら目まいも痺れも受けたダメージさえも消えて、元の状態に戻った。
珠の力で作物が出せなかったように、モンスターを倒してはいけないという
まだ予測の範囲内に過ぎないけど、一応はこのことを心に留めておこう。
「ありがとう、お姉ちゃん! ホントにありがとう……」
「軽羽お姉ちゃーん!」
「さすが軽羽お姉ちゃんだ!」
「あははははっ♪」
「わーいわーいっ」
私はみんなに抱きつかれ、もみくちゃにされてしまった。押しくらまんじゅうでもしているみたい。少しくすぐったいけど嬉しい。
周りに広がる笑顔の輪。それを見た瞬間、私は疲れも苦労も瞬時に吹き飛んだ。
そうだ、みんなにはいつも笑っていてほしい。もちろん、悪いことをしたらきちんと叱る。その時は泣いちゃうかもだけど、そのあとはギュって抱きしめてあげる。そうやって子どもは成長していくんだ。
私もその助けになれたらいいな……。
(つづく……)
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