第10節:モンスターを追い払え

 

 畑では見るからに凶暴そうなモンスターが佇んでいた。


 ファンタジー作品のことはよく分からないんだけど、オーガーって名前のやつかな? 私の倍くらいの身長があって、全身はゴリラみたいな筋肉で包まれている。典型的な脳筋パワータイプって感じだ。



 多くの子たちはこの場から逃げられたみたいだけど、何人かはその場にへたり込んで大泣きしている。逃げる途中に転んで、膝や手を擦りむいて泣いている子もいるし。


 とりあえずモンスターの気を私の方へかなきゃ。そして子どもたちから引き離さないと。


「モンスターっ! あなたの相手は私よっ! こっちに来なさいっ!」


 私は足下に落ちていた石ころをモンスターに向かって力の限り投げた。


 するとそれはモンスターの頭に当たり、ゆらりと顔をこちらに向けながら血走った目で私を睨み付けてくる。



 ――よし、うまくいった。


「ガァアアアアァーッ!!」


「絶対に子どもたちを守ってみせるっ!」


 私は強い心でモンスターから目を逸らさず、お互いに牽制しながら村はずれの何もない方へ少しずつ誘導していく。


 正直、怖くて逃げ出したい。足も少し震えてる。漏らしちゃうかもしれない。でも私が子どもたちを守らなかったら、誰が守るっていうの?




 その後、私はモンスターを村はずれまでおびきよせ、子どもたちから充分に引き離すことに成功した。


 この辺まで来れば、子どもたちは大丈夫だと思う。私自身はどうなっちゃうか分からないけど。


「あなたはなぜ村を襲うの? なぜ子どもたちを襲うの?」


「…………」


「やっぱ話は通じないか……」


 ダメ元で話しかけてみたんだけど、モンスターは声すら発さない。単にこちらを睨み付けたまま沈黙している。


 意思疎通が出来れば少しは状況が変わるかもって思ったんだけど、言語能力はそこまで高くはないようだ。畑を襲って作物を横取りする程度の知能――というか、本能に近い思考能力くらいしか持ち合わせていないんだろうな……。




 覚悟を決めた私は、杖を握りしめてモンスターへ突進していった。


 思った以上に体が軽く感じ、左右のステップでモンスターを翻弄ほんろう。その隙に杖で打撃を加える。でもモンスターの体は想像以上に硬く、杖を通じて衝撃が両腕に跳ね返ってくる。


 そして私が攻撃した隙にモンスターがその巨木のような腕で反撃を――


「しまっ!? がはっ! ……っ……」


 お腹にズンと伝わる重い衝撃。


 直後に浮遊感を覚えたかと思っているうちに背中全体に激しい痛みが広がる。


 気が付けば私は十数メートルほど弾き飛ばされ、仰向けに倒れ込んでいた。思わず咳き込み、口の中に鉄のような味が広がる。全身が痛い。


 それでも私は根性で痛みを堪え、なんとか上半身を上げる。




 攻撃を受けた一瞬、息が出来なかった……。


 死ななかったのが不思議なくらい。もしかしたら咄嗟に後方へジャンプしたことで、衝撃をいくらか受け流すことが出来たのかもしれない。だからこそ意識が飛ばず、痛みに苦しめられているわけだけど。


 はは……運がいいのやら悪いのやら……。



 いずれにしても、こんな攻撃をまた食らったらその時はどうなるか分からない。


 今の感じだと接近戦は私が不利だと思う。パワーでは到底かなわないし、スピードだって無傷の状態だったら多少は私の方が上だったかもしれないけど、こうしてダメージを受けた今はその優位性も失われた。


 ボウガンとか拳銃とか投石機とか、離れた位置から攻撃できる武器を珠の力で出すしかないかなぁ……。


 でも出せたとしても、そうした武器の使い方なんて知らない。だからといってこんな杖じゃ、間合いなんてないに等しいし。


 どうすればいいんだろう……。



(つづく……)

 

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