第8節:起死回生の新たな力

 

 ご領主様は子どもたちに食べ物を分けてくれるっていうから良い人なのかなって思ってたのに、とんでもない思い違いだった。会った時には絶対に文句を言ってやるんだからっ!


 そしてコナの話を聞いて、私は今後のことを即決する。迷いなんて全くない。むしろこれは使命なのだと確信さえしている。


「コナ、それならなおさら次の収穫の時には豊作になるようにがんばろうね。私、それまでこの地に残ることに決めた!」


「……っ……。ありがとうございます。お姉ちゃんがいてくれると心強いです。嬉しいです。事情を話せば僕たちの力になってくれると思ってました。――でもお姉ちゃんを危険な目に遭わせたくない。だから最初、話すのを躊躇ったんです」


「それってどういうこと?」


「収穫の時期になると、いつもモンスターが作物を食い荒らしに来るんです。無力な僕たちは見ていることしか出来なくて。だからいつになっても自由になれなくて。収穫の時に限ってあいつら……僕たちの作物を……うぅっ……」


 今まであれだけ気丈に振る舞っていたコナがボロボロと泣き出してしまった。奥歯を噛み締め、肩を大きく震わせている。よっぽど悔しいんだろうなぁ。私も胸が張り裂けそうになる。


 思わず私はコナを抱きしめ、頭を優しく撫でてあげた。それでもコナは激しく嗚咽したまま、なかなか落ち着いてくれない。


 それを目の当たりにして、私の心の中ではモンスターやご領主様への怒りが大きく膨れあがる。


「許せないっ! こんな可愛い子どもたちを悲しませるなんてっ!」


「えぐっ……ひくっ……」


「悔しいなぁ。せめてモンスターを畑に近付けさせない電気柵みたいな仕掛けがあったらなぁ。ファンタジーな世界観なら結界魔法ってことになるんだろうけど」


 せめて電気柵とまではいかなくても、堅牢な柵や壁があるだけでも畑の防御力は格段に上がる。でもこの村には大した道具はないみたいだし、土や岩で万里の長城みたいな壁を作るにしても子どもたちや私じゃ力が弱くて無理だ。


 椎谷さんがいれば、こき使ってでも実行させるんだけどなぁ。保育所でも力仕事は彼の担当だったし。あらためて男手のありがたみをひしひしと感じる。


 ――となると、私に出来るのはせいぜいクワでモンスターに戦いを挑むくらいか。そもそも倒せる自信なんてないけど。こんなことなら武術でも習っておくんだった。



 …………。



 ちょっと待てよ? 椎谷さんといえば……。


「――あっ!」


 その時、ふと私は『アレ』のことを思い出した。


 そう、それはこの世界にやってきた時に椎谷さんから受け取った杖と珠。今もって用途不明だけど、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。


 私はポケットの中を手で探り、珠を取り出した。手のひらに載せてじっと見ていると、だんだん珠が温かくなってきているような気がする。


「これに念じたら何か出ないかな? 例えば『モンスターに有効な電気柵よ、出ろっ!』とか叫ぶと、ポンっと――」


 私が冗談半分に話していた時のことだった。


 不意に私の目の前には電気柵と思われる道具一式が白い煙とともに現れる。ご丁寧にも設置方法が書かれた説明書や組み立て図まで添えられて……。


「ホ、ホントに出た……」


 自分でやったこととはいえ、全く想定外の事態に私は度肝を抜かれていた。ベタだけど今回も頬をつねってみて、現実かどうかを確認する。


 ――うん、痛い。たぶん現実。でもまさかここまでトンデモな世界だったなんて。


 もう何度も常識外れの出来事を目の当たりにしているし、そういう世界なんだって分かっていても、いざそれが起きるとやっぱり動揺してしまう。


「お姉ちゃん、すごいっ! 何もない空間から色々な道具が出ましたよ!? さすが伝説の乙女ですっ!!」


 コナは驚きと興奮が抑えきれないのか、目を輝かせながら何度も跳び跳ねてはしゃいでいる。すっかり涙は止まっているようだ。


 いやいやいや、実は驚いているのは私も同じなんだけどね。だってまさか珠に念じたら、望みのモノが出てくるなんて。しかも7つ集めないといけないみたいなことじゃなくて、これは1つでいくつでも願いを叶えてくれそう。


「ん? ちょっと待って? この珠に念じればご領主様に納める作物も出るんじゃないの?」


 もし作物が出るのなら、コナたちを今すぐにでも自由にしてあげられる。もちろん、そんなにうまくいくとは思えないけど、ダメならダメで別の手段を考えればいいんだもんね。試してみる価値はある。



(つづく……)

 

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