第17話 親ガチャの悲劇
「金田翔平はレイプ犯の子供だ」
「そ、そんな……」
「金田の母親について話しておこう。彼女は中学3年のとき、下校途中で数人の男たちに車で拉致され、そのままレイプされた。本人はそのことを親にも黙っていたが、妊娠が発覚してバレたらしい」
「どうしてすぐに親に言わなかったんですか?」
「女性である君が聞くのか? 日本における性被害者に対する偏見は理解できるだろう? 案の定、金田の母親の父親、金田にとっての祖父になるわけだが、は娘を激しく罵った。そんな淫らな犯罪に巻き込まれるのは、おまえにも非がある、とな」
「そんな酷い! 自分の娘がレイプされたのに、そんな言い方!」
「ああ、酷いし最低だ。だが、この世にそういった考えをする輩が少なからずいる。事件が発覚したものの、時間が経ち過ぎて犯人逮捕には至らなかった。そして最悪だったのは、堕胎のリミットが過ぎていたことだ。金田の母親は、犯罪者の子供と知りながら、憎悪はあっても愛情のない、名前も知らない男の子供を産まされたんだ」
「…最悪です」
「だが、そうでなくても、金田の母親は、子供を産むつもりだったらしい。この子供には罪はない。堕胎をするのは可哀想だと言っていたそうだ。きちんと愛情を注いで善悪を教えれば、子供は真人間に育つと」
だとすれば笑えない皮肉だ。母親の願いもむなしく、金田翔平は犯罪者になった。
「高校にも行けず、親からは勘当同然の扱いで、18の時に家を飛び出した。学のない若い女が働ける場所なんて限られている。金田の母親は金田翔平のために、風俗で働きはじめた。だがそのことが原因で、金田は小学校で浮いた存在となった。母親の教育に問題はなかったと俺は思う。けれど、周囲がそのことで金田を馬鹿にし、金田は彼らに馬鹿にされないよう強さを求めた」
「だとしたら、翔平は被害者です」
「違う。加害者だ。裁判では確かにそんなところを情状酌量として挙げるが、小学生のときにからかわれる経験なんて誰もがすることだ。問題は金田翔平の中にある。犯罪者の遺伝子だ」
「犯罪って遺伝するんですか?」
「本当にしないと思っているのか? 俺たちは知っているはずだ。顔や体形だけでなく、頭の良さや運動神経も遺伝する事実を。よく学力差は親の年収で決まると言われているが、実際はみんな気づいているはずだ。年収も含め、遺伝の影響だと。スポーツや音楽の才能だってそうだろ? どうして犯罪だけは違うと思う?」
「それは…だとしたら救われないからじゃないですか?」
「だったら、ただの現実逃避だ」
「本当に環境の影響はないんですか? 勉強だって、環境が変わってできるようになった人だっています」
「…金田がそのパターンだな」
津愚見は少年院での金田の様子を伝えた。
「遺伝と環境の関係性については、すでに双子を使った調査が行われている。約半分は遺伝子で半分が環境だと言われている」
「だったら─」
「それはあくまで統計的な結果だ。君も大卒ならわかるだろう? 統計データはエビデンスにはならない。そして、人間の精神に関するエビデンスは存在しない」
「なぜですか?」
「厳密にそれを行えば、人体実験になるからだ。仮にできたとしても、精神をどうやって測定するかという問題がある。まさか自己申告でやるわけにはいくまい」
「……」
「話がずれたな。とにかく、俺の結論は変わらない。金田翔平とは関わるな」
「翔平のお母さんの資料はありますか? 見せてください」
津愚見としては嫌な予感がしたが、最終的に決めるのは本人たちだ、という考えをもっていた。自分ができることは、真実を客観的に伝えることだけだろう。
桃果はしばらく資料を読みふけっていた。真剣な表情で、ところどころ涙を目尻にためながら。
「津愚見先生。私決めました。翔平と結婚します」
「今の日本の法律では、結婚は良性の合意においてのみ行われる。たとえ相手が結婚詐欺師でも殺人鬼でも、本人が決めたことならば、実の親でも反対できない。だから忠告をしておく。やめるんだ。いつか必ず、犯罪者の家族だとバレる日がくる。その十字架は、君だけでなく、生まれてくる子供も背負うことになるんだぞ」
「でも、私はその考えを間違っていると思います。理不尽です。先生も理不尽が許せないんですよね?」「子供が犯罪者になったらどうする? 犯罪は遺伝する」
「しませんし、させません。きちんと教育します。翔平も、少し遅かったけど、少年院でまともになることができました。二人でなら、なんとか出来ると思います」
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