第10話 大学って、めちゃくちゃいいな!

 金田の周囲には大学に行った者はいなかった。いや、例のイケメン弁護士や法務教官などは、大学に行っていただろうが、大学を身近に感じられる友人などはいなかった。

 未知の世界。

 夢あふれる希望の世界。

 キラキラしたキャンパスに頭の良さそうな連中が、キラキラした表情で歩いている。

 しかも大学で受講できるのは5教科だけでなく、心理学や経済学、ゲームや漫画の研究まであった。すっかり勉強の虜になっている金田にはワクワクが止まらない。


 あっという間に一カ月が過ぎ、親しい友人もできたし、何度か飲み会にも参加した。自由に勉強できて、難しい話もできて、最高にフリーダム。こんな世界が日本にあるのかと驚いた。


 そんな金田だったが、サークル活動をどうしようかと迷っていた。

 それこそ学校の掲示板には、さまざまなサークルの勧誘ポスターが貼ってあり、どれもこれも面白そうだったからだ。正直、体がひとつじゃなければ、たくさんのサークルに入っていたことだろう。

 そんな中、金田の興味を引いたのは、ボランティア系のキャンプサークルだった。

 少年院にいた金田は、ボランティア活動を行うことを推奨されていた。どのみちボランティアはやるつもりだったから、キャンプができるなら最高だと思った。


「夏休みや冬休みに、子供たちを連れてキャンプや川遊びを行ったり、月一の自然教室などにリーダーとして参加してもらいます」

 サークルの説明会に参加したが、想像していた内容と少々違った。あまり自分たちはキャンプを楽しめない感じだ。

「ええ! 子供の相手をするんですか!?」

 金田の隣に座っていた女性が素っ頓狂な声をあげた。

「ええ、そうよ」

「うわ~。私、子供苦手なんですよね~。何話したらいいか分からないし」

「いや、ポスターに思いっきり書いてあっただろ? 何しにきたんだ?」

 金田は思わずつっこんでいた。案内のポスターには詳細こそ書いてなかったが「子供も参加します」と明記してあった。

「本当だ! 書いてある! ちっちゃ! キミ、性格細かいんだね」

「褒めてねえだろ、それ」

「キャンプってだけでテンション上がったから、あんまり見てなかった」

「キャンプが好きなの?」

 説明をしていたサークルの先輩が質問してきた。

「いえ、実は一度も行ったことがなくて…」

 そういや俺もキャンプに行った記憶はないな、と金田は思った。小学校のころ一度機会はあったが、風邪を引いて休んでしまったのだ。


「ほかにも初めての人いる?」

 先輩が問うてきたので、金田は手を挙げた。ほかにも数人の入部希望者がいたが、手を挙げたのは金田だけだった。

「小学校のときとか、キャンプなかった?」

「風邪を引いて休んだんです」

「あっちゃー、パクられた」

 隣の女が大袈裟に言った。「パクられた」という意味を逮捕だと思った金田は、一瞬ギョッとする。

「私も風邪を引いて参加できなったんです」

 なんだそっちか、と金田は思った。

「パクってないだろ? 被っただけだ」

「私が先に言おうとしたんだよ~」


 この奇妙な雰囲気の女性は、名前を梶原桃果といった。

 なぜか金田は、桃果と妙にウマが合った。

 サークル内だけでなく、授業もいくつか被っているのがあり、ふたりの仲は急速に近づいていった。

 ふたりが互いを意識しはじめるのは、ある意味当然の成り行きだった。

 それは、金田にとって初めての経験だった。

 自分以外の誰かを大切に思う気持ち。

 常にひとりの女性のことを考えて、もっと近づきたいと願う想い。


 けれども、ふたりが付き合うことはなかった。

 なんとなくだが、お互いに好きなんじゃないかな、と感じることがある。

 両想いだという予感がある。

 だが、金田は桃果を避けていた。自分が犯罪者だからだ。

 自分が女のレイプ小屋をたて、しかも殺害したと知ったら…。

 今更ながら、金田は激しく後悔した。

 桃果に嫌われたくない。

 何度か桃果の前から姿を消そうとしたことがあった。

 けれども、ここの居心地がよくて、桃果と一緒に過ごす時間がキラキラしていて、ずるずるとモラトリアムに浸っていた。

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