第3話 これでようやく俺も一人前

金田は人生には大きく二つの道があると考えていた。

 真面目に生きて、毎日10時間以上も働いて、やっと生活できる程度の金を稼ぎ、特に名を残すこともなく、地味に死んでいく無駄な人生。

 もうひとつは、レールの上から外れ、まっとうには生きられないが、成功すれば有名人になれて大金持ちになり、毎日遊んで暮らせるハイリスクハイリターンな人生。

 金田は後者の道を選んだ。

 大した理由なんてない。そっちのほうが楽しそうだし、性に合っているからだ。だが、こっちの道に進むと決めたからには、中途半場ではなく、天下を取ってやろうと考えていた。


 そのためには、未成年のうちに殺人をする必要があった。


(女だ。普通の女で世間の同情を引ける…)

 金田がその記事を見つけたのは偶然だった。いや、金田は常に捜してはいたのだから、ある意味必然ではあったのかもしれない。

 ネットのニュース記事で、近くの高校に通う女子高生の特集が載っていた。彼女は過去に重い心臓病に掛かっており、ドナーで一命を取り留めた。地元のグループホームでボランティアする姿が載っており、将来の夢は医者と紹介されていた。なかなかの美少女だ。

 これだ、と金田は思った。

 わざわざニュース記事で獲物を紹介してくれた。ニュースは良い。犯罪をするために必要な情報をどんどん流してくれる。


「本当にやるのかよ」

 北村が緊張した表情で言った。

「やるに決まってんだろ。準備に一カ月近くかかってんだぞ。ちゃんと合図しろよ」

 言って、金田は自転車に乗ってスタンバイする。

 ターゲットを決めてから金田は念入りに準備をした。ターゲットの家はもちろん、通学路や通る時間も調べ、今日の計画を立てた。

 反対側の道路にいる北村が合図をする。金田は自分の足をナイフで軽く傷つけたあと、自電車を漕いでT字路に出た。そのタイミングでターゲットの女が飛び出してくる。

「きゃっ!」

 向こうは咄嗟にブレーキをかけて止まったが、金田はわざと転倒してコケて見せた。

「いたたた」

「だ、大丈夫ですか?」

 将来医者になりたい少女は、心配して金田に駆け寄ってきた。

「ああ、大丈夫。つ──。いてっ。足を捻ったかも」

「血も出てますね。救急車呼びましょうか?」

「いや、この程度で大袈裟だよ。家もすぐ近くだし。ほら、あのアパート」

 しかし、自転車を押して帰ろうとする金田は、足を捻ったせいで上手く自転車を押せなかった。──という演技をした。

「あの、自転車押すの手伝いましょうか?」

 金田は少女から見えない位置で、ニヤリと微笑んだ。

 計画通りの展開。自分の天才ぶりに優越感を覚えた。

 この計画のためだけに借りたアパート。家賃はこの女の体で稼ぐ予定だ。

 理由をつけて部屋まで入ってもらい、タイミングを見て少女を押し倒す。そこに北村と鈴原がやってきた。

 なおも女が暴れるので、顔面を殴りつけた。

 人に殴られた経験がないのか、女はすぐに大人しくなった。

「知ってるぜ。小さい頃から心臓が弱くて、いつ死んでもおかしくなかったんだってなぁ。せっかく生き延びたんだろ? 下手に抵抗して殺されてもいいのか? 大人しくしていたら帰してやるからよ」

 もちろん、そんな未来は来ない。

 この女は殺さなくてはならない。

 だけど、傷だらけの女を抱く趣味はなかった。

 大人しくなった女を三人でレイプした。特に鈴原は気に入ったらしく、何度も何度もセックスしていた。金田もそれなりにイイ女だとは思っていたが、さすがに三日も立てば飽きてきた。美人は三日で慣れるという言葉があるが、女が必死こいて執着する「美人」なんてものの価値はその程度でしかない。

 北原も飽きてきたようなので、この女で金を取ることにした。

 友人らをアパートへ招き、ヤリ部屋にした。1時間980円だ。

 部屋に来た連中からは「ショウちゃん、すげえ」「マジで神」と称賛を受けた。冷静を装った態度で返したが、まんざらでもなかった。

 やっぱり、人の認められるのは気持ちがいい。


「なあ、ショウちゃん。本当にあの女殺すのかよ?」

 ある時、鈴原がそんなことを言ってきた。

「なんだよ。情が移ってきたか? エイトのお気に入りだもんな」

「まあな」

「でも、そろそろ殺すぜ。臭くなってきたしよ」

「臭いは風呂に入れば……」

「はぁ? 何言ってんだ? そんなんじゃねえだろ」

 金田はやや苛立った声をあげた。

「あの女は殺すために拉致ったんだ。ヤリ部屋が目的じゃねえ。勘違いすんな」

「うん。……ごめん」

 シュンとなった鈴原の肩を金田は叩いて、優しい声で言った。

「悪かったよ。でも、女が欲しけりゃ、また拉致ってくればいいだろ? あの女を見てみろ。みんなにヤラレまくって穴はガバガバで、今じゃ灰皿変わりだ。マグロ状態になってから、みんながイジメるもんだから、体中痣だらけでせっかく美人が台無しだ。本当にあの女に生きてる意味はあんのか?」


 そして鈴原を強引に説得した金田は、女を殺すことにした。

「もう分かってると思うが、今からおまえを殺す」

 金田のそんな科白を聞いても、女は大した反応をしなかった。以前は笑えるくらい「家に帰してほしい」「殺さないで」と懇願してきていたが、一度逃げ出そうとして、さんざん痛めつけたあたりから、自分がもう生きて戻れないことは理解していたのかもしれない。

「ブンちゃん、ちゃんと撮影しろよ」

 みんなでレイプしたシーンはビデオに収めていた。後で売り払うつもりだからだ。リアタイで流してもよかったが、万が一邪魔が入るのは避けたかった。

 ビデオを売る際に、女を殺すことを告げたら、バイヤーからスナッフビデオの話を振られた。もちろん二つ返事で快諾した。というか、自分が伝説になる貴重な瞬間だ。どうして記録に残そうと思わなかったのか。

 殺害の方法についても、金田は熟考していた。

自分の残虐性をどうアピールするか。ナイフで刺したり、首を絞めたり、殴り殺したりは、普通過ぎてつまらないと思った。

 そこで参考になるのはニュースの記事だ。ニュースはいい、見ているだけで犯罪のアイデアがどんどん湧いてくる。

元ヤクザの男が言っていた。ニュースで犯罪を扱うのは、それで新聞が飛ぶように売れたからだと。昔の人にとって犯罪は、エンターテインメントだったのだ。今も被害者の名前を実名で公表しているのは、何のことはない、より刺激的な内容にするためだけだ。つまりは金儲け。

だったら、それらに負けないくらい刺激的な内容にしないといけない。

生きたまま火をつけて焼き殺すか? ナタで頭蓋骨を叩き割って脳症をぶちまけさせるか? 少しずつ肉をはぎ取って殺す中国の処刑法はどうだろう? 

 考えるだけでワクワクした。

 

 金田が決定した殺害方法は、斬首刑だった。殺される方に苦痛はないとされるが、やはり見た目のインパクトと残虐性は大きい。ナイフで切るのではなく、斧で一刀両断にするのだ。

絶対にバズるぞ。

ただ、女の反応が少ないのが残念だった。

そこで金田は殺す前に、女と話をした。女に過去を語らせ、ドナーが見つかったときの気持ち、生きる勇気をもらったこと。両親への想い。将来の夢。

そしてここで受けた行為。

さらに金田は訊いた。

生きたいか、と。

女は感情を爆発させた。

生きたいです。生きたいです。なんでもします。警察にも言いません。どうか助けてください。お願いします。助けてください。


 涙ながらに懇願する女を見て、金田は思った。

 いい絵が撮れたな、と。


 金田は最後に女に遺言を残させてから、その首を斧で切り落とした。

 女の首が転がり、鈴原のほうを見た。

 鈴原がゲロを吐いた。

 金田は腹を抱えて笑った。メンタル豆腐やん!


 女の死体は、彼女が通っていた学校のホールに設置することにした。

 同級生や教師たちに、全裸の死体を視姦されるのだ。

 きっと学校中がパニックになるはずだ。

 女の裸を見たこともない童貞どもはさぞ喜んで動画を拡散してくれることだろう。


 そんな状況を思いうかべて、金田は満悦の気分に浸った。

 しばらくは年少暮らしだが、学校に行くのと同じだ。「お勤め」を果たしてこよう。しかも3年も行かなくていい。

 ああ。満足満足。楽しくて悔いのない少年時代だったぜ。これにて卒業。これから俺は立派な大人になるんだ!!

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