おっぱいが大きすぎる近所の清楚系JDと結婚の約束をして十年後。闇落ちしても、おっぱいだけは変わらない

本町かまくら

 


 

 小学校低学年の頃。


 友達がいなかったミナトは、いつも近所のお姉さんの家に遊びに行っていた。


「みーくん、いらっしゃい」


 名前はカナちゃん。近くの大学に通う女子大学生。


 どんな時でも優しく迎え入れてくれた。


「おねんねするの? じゃあ私の膝の上で寝ていいよ?」


「ありがとう、カナちゃん」


 真っ白な太ももに頭を乗せると、柔らかな感触といい匂いに包まれる。


 見上げると、カナちゃんの優しい顔。


 そして――デカすぎるおっぱい。


 そう、デカすぎるおっぱい。


 カナちゃんは清楚な見た目で、とんでもないおっぱいを持っていたのだ。


「ふふっ、幸せそうな顔。みーくん可愛い」


「カナちゃんも可愛いよ」


 十歳にも満たないミナトだったが、完全におっぱいに取り憑かれていた。

 






 あの頃、ミナトは口癖のように言っていた。


「カナちゃん、俺がおっきくなったら、絶対に結婚しようね!」


 すると決まって、


「いいお嫁さんにしてね?」


と、満面の笑みで返してくれた。


「もちろんだよ! 俺、絶対約束守る! カナちゃんも守る!」


「ふふっ、嬉しいな」


 

 ミナトの引っ越しを機に、カナちゃんとの関係は終わった。





   ***





 ――十年後。


「遂にこの時が来たな……」


 ミナトは天を仰ぎ、我慢の日々を振り返る。


「中学の時大人気の先輩に告白されても断り、高校の時は大人気アイドルに寝込みを襲われても振り切り……あぁ、凄く長い道のりだった」


 すべては今日という日に、約束を果たすためである。


「よし、行くぞ!」


 インターホンの軽快な音が響く。

 

 どたどたと足音が近づくたびに、ミナトの鼓動が速くなった。


 ガチャと扉が開く。


「あ、あの、カナちゃん、俺を覚えて」


「んあ、どちら様ですか」


 出てきたのは、ボサボサの髪に上下ジャージの女の人。


 ほのかにタバコの匂いが香り、ちらりと見えた部屋の中は酒の空き缶で溢れていた。


 カナちゃんじゃない。


 そりゃそうだ。十年も経ったら、カナちゃんも引っ越しているに決まってる。


「すみません、人違いでした」


「あぁ、そう」


 女の人が扉を閉めようとしたその瞬間。


 ふと目を向けた胸元。


 フラッシュバックする幼い頃の記憶。


 はち切れんばかりの――おっぱい。


「か、カナちゃん⁈」


「え……みーくん?」


 十年ぶりの再会だった。







「久しぶり、成長したね」


「じゅ、十年も経ったから」


「元気そうでよかったよ」


「カナちゃんは、その……何があった?」


「何って、十年経っただけだけど?」


 ぽりぽりと左手で綺麗な下腹を掻くカナちゃん。


 右手には酒。


 テーブルには山盛りの灰皿。


 ……知ってるカナちゃんじゃないんだが⁈


 オロオロするミナトをじっとカナが見つめ、バツの悪そうに呟く。


「まぁ少しだけ、社会の荒波に揉まれた」


「少しどこじゃなくない⁈ 変わりすぎじゃない⁈」


「そう?」


「そうだよ!」


 口調も少し違うし、何よりあの頃の瞳の輝きが失われている。


「まぁでも、みーくんも大人になったらわかるよ」


「何が?」


「……社会のドス黒さってやつをさ」


「あのカナちゃんが闇落ちしてる⁈」


「社会なんてものはロクでもないんだ。いいことなんて一つもない。ただ死ぬのが怖くて、私は生きているだけ……」


「陰鬱さがすごい⁈」


 想定していた再会と全く違う。


 カナちゃんが変わりすぎている。


 完全に、闇落ちしている。


 プルル、と電話が鳴り響く。


「あ、ごめんちょっと」


 外に出るカナちゃん。


 その後ろ姿は色々と諦めた人のソレで、ミナトは自然と涙を流した。


「俺のカナちゃんが……」


 もはやおっぱいにしか面影が残っていなかった。


 だが、『おっぱい』には面影が残っていた。


「ごめんみーくん。今から会社に行かなくちゃいけなくなった」


「え、でも今日休日じゃ…」


「みーくん、覚えといて。これが現実だから……」


「ブラック企業だ⁈」


 間違いなくカナちゃんが闇落ちしたのは、ブラック企業のせいだろう。


「じゃあ行ってくるわ」


 一人部屋に取り残されたミナト。


 心の中を混乱が支配していた。


「と、とりあえず部屋でも綺麗にするか」


 ゴミ袋を片手に掃除を始めた。







「クソーあの上司め! 私のことこき使いやがって! ……って、なんかいい匂いする」


「あっ、カナちゃんおかえり」


「ただいま……って、ここ私の部屋⁈」


「軽く掃除したよ」


「軽くどころじゃないでしょ、職人でしょみーくん」


「好きではあるかな」


 キッチンではミナトがエプロンを巻いて鍋を煮込んでいる最中だった。


「この匂いは……カレー?」


「昔にカナちゃんがよくカレー作ってくれたでしょ?」


「そういえばそっか」


 手馴れているのか、手際よく皿に盛りつけるミナト。


 それをカナがあっけに取られたように見ていた。


「はい、どうぞ」


「お、おぉ…!」


 食卓に並べられた久しぶりのまともな食事。


 カナの光を失った瞳がきらりと輝く。


「食べてみて」


「う、うん。い、いただきます。……ん! お、おいしい!」


「ほんと⁈ ならよかったよ!」


 歯を見せて笑うミナトに、昔の姿がカナの脳裏に過る。


 酷使した体はエネルギーを欲していたのか、カレーを食す手が止まらなかった。


「んー美味しかった! 世の中って意外に光はあったんだぁ」


「世の中の地下にずっと潜ってたような発言だ⁉」


「それにしても、掃除もしてもらっちゃって、おまけにカレーまでごちそうしてもらって、何かお礼をしないと」


「別にお礼なんていいよ。カナちゃんには昔、すごくお世話になったわけだし」


「それだと割に合わないよ。なんか私にして欲しいことある? 私にできる事なら何でもしてあげる」


「な、なんでも⁈」


 なんでもというのはなんでもというわけで、つまりなんでもというあのなんでも⁈


 ゴクリと唾を飲みこまずにはいられないほど、男にとっては甘美な響きだ。


 思わず視線が、おっぱいに向いてしまう。


「ん? ……そ、そっか。みーくんももう大人だもんね」


「へ?」


 カナが左右の手で胸をぽよんと弾ませる。


「揉んでもいいよ?」


「な、何言って⁈」


「三十分、私のおっぱいを自由にしていいよ?」


「い、いや、そんな、まだ付き合ってもないのに⁈」


「いいからいいから、遠慮せずに!」


 カナがおっぱいをミナトに押し付ける。

 

 腰が抜けてしまったミナトは、壁際に追いやられ、おっぱいから逃れられなくなった。


「さぁ、ほらっ!!」


「うわあぁぁあああ!!!」


 揉みたい、だけど揉んだら人間としてダメな気がする。

 

 人生最大の葛藤がミナトの中で火花を散らす。


「ダ、ダメだ、こ、こんなの……ガクリ」


 ミナトは幸せの狭間で失神した。







「お、おっぱいの壁がぁ⁈」


「あっ、ようやく起きた。でも、もう少し寝なさい」


 ぱすっ、と力なく倒れる。


 ふわりと舞うように漂ういい匂い。


 後頭部には幸せの感触。


 これは……HIZAMAKURA⁈


「急に起きたらあれでしょ?」


「あ、う、うん」


 動揺しながらも一息つく。


 そして見上げると、見慣れた、大好きな光景があった。


「懐かしいな」


「そう?」


「よくこうしてくれたでしょ?」


「確かに。みーくんは膝枕が大好きだったからね」


「今も好きだよ」


「そ、そっか……」


 少し照れ気味なカナ。


 その姿が昔のカナによく似ていた。


「今日さ、俺約束を果たしに来たんだ」


「約束?」


「そう、結婚の約束」


「あぁ、そんなことしてたね。でもそれは子供の……」



「俺、今も本気、だから」



「っ⁈」


 射抜かれたように顔を真っ赤にするカナ。


 耳まで綺麗に真っ赤だ。


「い、言うようになったじゃんか」


「もう十年経ったからね」


「……でも私、もうおばさんだよ?」


「俺の中では今もお姉さんだよ」


「……世の中捨てたもんじゃないね」


 カナは頬を赤く染めたまま、昔のように笑った。


                   完

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おっぱいが大きすぎる近所の清楚系JDと結婚の約束をして十年後。闇落ちしても、おっぱいだけは変わらない 本町かまくら @mutukiiiti14

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