第12話

「リンドブルムに?」

 スイの提案を受けた十兵衛とハーデスは、宿泊していた村長宅の居間できょとんと目を丸くした。


 カルナヴァーン討滅の次の日のことだ。ハーデスに「日本に帰るためにはハイリオーレが必要だ」と聞いていた十兵衛は、好意、感謝、尊敬、憧憬という内容から、ハイリオーレを得ることはすなわち、『徳を積むこと』と同義なのではと考えた。ハーデスに確認した所「その解釈でも間違いではない」と言うので、まずは【一日一善】を心がけ、なるべく早く帰るための方法を模索しようと思っていたのだ。

 ――帰った所で、居場所があるかは分からんが。

 浮かんだ思いに、苦く笑う。あれからハーデスは「宣言通り、八剣家が信の置ける家であることを告げさせた」と言っていたが、それは切腹で示したかった理由の一つに過ぎない。内通者に気づけないままに落城させた贖いは果たせていないのだ。「閻魔大王の裁きを頂く前に善行を果たしておくのもいいか」と、いずれ切腹に至る道を思いながら、十兵衛は今日の行動をどうするか考えた。

 その矢先に、「一緒にリンドブルムに行きませんか」とスイから提案があったのだ。二人揃って呼び出され、「なんでだ?」と問うハーデスに同意するように十兵衛も目で問う。

「理由は二つあります」

「二つ?」

「はい。まず一つは、オーウェン領で起こったカルナヴァーン討滅について、領主であるオーウェン公爵に報告する必要があるからです」

 レヴィアルディア王国は、魔族の国ヨルムンガンドと長年戦い続けている。唯一地続きとなっているトルメリア平野などは激戦区だ。七閃将ななせんしょうも含めた一進一退の攻防戦を繰り広げているため、その一角が落ちたという情報は非常に有益であるという。

 領主であるオーウェン公爵に報告すること。それはレヴィアルディア王国に吉報をもたらすだけではなく、十兵衛達が莫大な報奨金を得る事にも繋がった。

「いや、別に俺は金欲しさにやったわけでは」

「何言ってるんですか! 貰えるものは貰ってください!」

「意外とちゃっかりしてるな、スイ」

「ち、違っ……! 貰うのは私じゃなくて十兵衛さん達ですからね!?」

 焦りながら正し、「もう一つは!」と咳払いをして人差し指を上げる。

「カルナヴァーンの魔石の使用用途を定めてください」

の使用用途……?」

「こちらです」

 そう言って、スイは布にくるんだ両手で抱える程の大きな石を差し出した。

 それはまるで紫水晶のような石だった。内部に煌々とした紫紺の光を湛え、見る方向を変えれば紫だけではない様々な色が目に入る。禍々しさと神々しさが半々に感じられるその石に、十兵衛は目を丸くした。

「魔物が落とす石――魔石です。その反応からして、十兵衛さんは初めてご覧に?」

「そう……だな」

「ですよね。ハーデスさんがすごい魔法使いですし、そもそも魔物と出会う機会も無かったんでしょう」

 うんうん、と頷くスイに「魔法使いではないが」と内心で苦笑しつつ、「これがカルナヴァーンの魔石なのか?」と問いかけた。

「そうです。普通はこれの十分の一くらいの大きさです。カルナヴァーンは魔将ですから、大きさも規格外というわけですね」

「なるほど。魔物は全員保有していると?」

「えっと、魔物と人が半々である亜人や、ライラさん達のような人から魔物に変えられた者からは出ません。純粋な魔物のみが保有するものですね。ちなみに同じ『魔』がつく魔獣というのもいますが、そちらも出ません」

「へぇ……」

「生まれつき魔法を使える動物――獣。その総称が魔獣です。とても賢い子が多いので、契約を結んで人の仕事を手伝ってくれる子もいますよ」

「話がそれちゃいましたね」と苦笑して、スイは気を取り直したように魔石を見つめた。

「この魔石が有する力は強大です。力を取り込み魔法使いとしての力量を上げるか、魔石を埋め込む魔道具を作るか、はたまた魔石を取り扱う商会と交渉して莫大な資金を手に入れるか……。どの選択肢でも構いませんが、魔将の魔石は内在する力も強大な上に希少ですからね。その用途も公爵の前で明確に示して頂けるととても助かりま……」

 そこまで言った時だった。机を挟んで向かいに座っていたスイが、何かに気が付いたのか言葉を呑んだ。訝しげに思った十兵衛が彼女の視線を辿り、その先にいたハーデスの顔を見て同じように言葉を失う。

「……何故だ」

 ハーデスは、耐え切れない程の衝撃と悲哀を受けたような表情を浮かべていた。眉根を寄せ、瞳を震わせ、唇をわななかせながら壊れ物に触るかのようにそっとスイの差し出した魔石へと手を伸ばす。

「どうして、ハイリオーレがこんな姿になるんだ」

「……なっ……!」

 掠れた声で呟かれた言葉に、十兵衛は目をみはった。

 ハイリオーレは他者から向けられた善に傾く思いの力だ。転じて、思いの欠片と言ってもいい。

 例えばこれが敬愛するあるじ八神秀治やがみひではるのものであるとするなら、自分は怒髪天を衝く勢いで怒ると十兵衛は思った。もし主のハイリオーレなら、十兵衛だけではなく忠之進達や民草が秀治に向ける好意や感謝、尊敬や憧憬なる思いが詰まっていることとなる。――そんなものが、本人の魂から取り外された状態でここにあるのだ。

 カルナヴァーンは度し難い存在だ。悪辣非道な寄生虫をばらまき、カルド村の住民達から大切な人を失わせた。だが、今世でその生を受けただけであり、前世はどうか知れない。ハイリオーレの大きさの基準は分からずとも、普通の魔石がもっと小さいと称されるということはすなわち、彼が歩んできた道は相当に善行を尽くしたものだったのではと慮った。

 ショックを受けて何も言葉が出ないハーデスに変わり、「はい、りおーれ?」と不思議そうに呟くスイに十兵衛が問う。

「スイ殿。この魔石というものは、先に述べられたような用途で使われるのか?」

「えっと、はい。魔法使いが吸収すれば新たな魔法を会得したり、魔力が強くなって威力が上がったり。魔道具に入れれば高出力の魔法を繰りだせる逸品と……」

「いや、これに限らない。……そうだな、文明に根差している、と聞いた方がいいか」

「あっ、そうですね。ここら辺ではそんなに魔石が出回りませんから、珍しく思われるかもしれませんが」


「都市部の方では、人々の生活に役立つ力として利用されていますよ」


 絶句した。

 十兵衛だけではない。ハーデスもだ。

「聞いていない」とか細い声で述べたハーデスに、十兵衛は固く目を瞑る。

 律の管理者でさえ知らなかった事が起こっている。それだけは確かで、それだけは許せない事でもあった。

 知らぬ間に他者の大切な思いを利用し、意図しない形で日々失わせている。便利な力として何も知らぬ人々に残酷な仕打ちをさせ続けるこの星の在り方に、十兵衛はふつふつと腹の底から怒りを覚えた。

 深呼吸をした後、十兵衛は覚悟を決めてハーデスに問う。

「どうする、ハーデス」

「……どう、とは」

 ハーデスが、沈鬱な表情で十兵衛を見た。担当官からの報告を思い返し、魔石の一切を告げられてないことやマーレに纏わる記述が消されていたことを鑑み、「何故」と「どうして」が繰り返される思考に十兵衛の言葉が鋭く刻まれる。

「俺は、これ以上無為にハイリオーレを失わせたくない」

「――!」

「ハイリオーレは、魂の持ち主の物だ。そうだろう?」

 強く頷くハーデスに、十兵衛が口角を上げる。

「では、返せる方法も含めて探そう。まずはそれが、俺の目指すべき『道』だ」

 目を丸くするハーデスを置いて、「スイ殿、」と話の流れについていけていなかったスイに十兵衛が問うた。

「スイ殿のお知り合いの中に、明晰な頭脳を持ち、徳の高い方はいるだろうか」

「徳の高い……」

「民に慕われている、と言い換えてもいい。その方に相談したいことがあるんだ」

 そう言われて、スイはしばらく「あー」だの「んー」だの悩みつつ頬をぽりぽりと掻き、やがて諦めたように嘆息して十兵衛に微笑んだ。

「では、なおのことリンドブルムに。レヴィアルディア王国随一の大魔法使い、クロイス・オーウェン公爵をご紹介します」



「風呂入って着替えて」

 たまたま村で行き会ったアレンに世間話がてら「リンドブルムでオーウェン公爵に会ってくる」と話した十兵衛は、彼の鋭い指摘に固まった。

「風呂……えっ、風呂があるのかここは」

「村の裏手に、川の水を引いて溜められるようにしてる所があるんだ。そこに焼き石を突っ込むやつだけどね」

「公爵閣下に会うんだったら、確かに身嗜みは整えないとねぇ」と側にいたアイルークも苦笑する。

「すまない、俺は常識が欠けているようで……」

「それっぽい服がないか見繕ってみるよ。十兵衛さんはお風呂入っておいで。アレン、うちの風呂グッズ持って手伝ってあげて」

「はーい」

「ええ~、いいですよ。気にしないですよきっと」

「冒険者さん達が一張羅で来ても構わず会ってますよ」と朗らかに笑うスイに、アレンが「ダメッ!」と顔の前でバツ印を作る。

「スイ様! 十兵衛はカルナヴァーンを討った英雄だよ!? 知る人ぞ知る男になるんだよ!? そんな男がぼろっぼろのくさい状態でやってきたら名声が落ちるでしょ!」

「……ぼろっぼろの……臭い……」

 アレンのあまりにも素直な言葉に、十兵衛は多大なる衝撃を受けた。隣にいたハーデスに「俺は……そんなにか……?」としょんぼりしながら告げると、ハーデスもハーデスで迷いなく頷く。

「あちらでは普通だが、こちらでは異常だ」

「アレンもハーデスも配慮が足りない!」

 わっ! と両手で顔を覆った十兵衛は、「ほら行くよ!」と袖を引くアレンに連れられて風呂に向かうのだった。


 連れられて行った場所にあったのは、小さな川の側に作られた石造りの露天風呂だった。普段は川の一部としてあるのか内部では小魚が泳いでおり、アレンが「ちょいとごめんよ~」と言いながら外の方へ追い出している。

 程近くに大木が枝葉を伸ばし、太い枝の一つに継ぎ接ぎされた大きな皮の敷布がかかっていた。細工がされているのか、四方に丸い鍋の底のようなものがついている。

「ここに焼き石をのせるわけか」

「そうそう。十兵衛も手伝って」

 アレンと二人がかりで川で濯ぎ、広げて露天風呂に沈める。川の境に石を重ね、溜池を作れば出来上がりだ。とはいえ焼き石がまだ来ていないので、敷布は水の張力に従ってぷかぷかと浮いている。

「おまたせ~」

 そうこうする内に、アイルークが鉄鍋を引きながら焼き石を持ってきた。隣にはハーデスがついており、彼の頭上にもいくつもの焼き石が浮いている。

「事情を話したら皆が今日の分で暖めてたのを快く貸してくれてね。ハーデスさんが手伝ってくれたんだ」

「喜べ十兵衛、熱い湯に入れるぞ」

「それは有難い」

 ハーデスが焼き石を放り込み程よい湯加減になったところで、湯桶を持ってきていたアレンが着物を脱いだ十兵衛に遠慮なく湯をかけた。

 細身ながらも筋肉が付き、何より傷跡の多い身体だ。自分とはあまりにもかけ離れたその様相に十兵衛の戦いの歴史を感じつつ、アレンは「これに座ってよ」と持ち込んだ木の椅子に座らせた。

「うち、薬草売りしててさ。トルピーも自家製なんだ。結構いい匂いするよ」

「とるぴぃ?」

「頭を洗う洗剤だよ。それも知らないの?」

「こらアレン」

「それはよくない言い方だよ」と窘めるアイルークに気づかされ、「ごめんな十兵衛」と素直に謝る。

 ガラス瓶からとろりとした液体であるトルピーを手にとったアレンは、濡らした十兵衛の頭にそれをかけて、泡立たない事に驚いた。

「やば……全然泡立たない……」

「これは泡が立つものなのか?」

「普通はね。こりゃ重労働だ」

「世話をかける」と目を瞑りながら言う十兵衛に、「かけられます」とアレンは笑う。そんな時にアイルークから「しまった、髭剃りを忘れたな」という声が上がり、はた、と十兵衛が固まった。

「髭剃り……?」

「あぁ。身嗜みを整えるなら必要だろう?」

「えっ!? 剃る必要が!?」

「えっ!?」

 十兵衛の戸惑いに、アイルークも戸惑うように声を上げる。

「だって十兵衛さんのそれって、伸びっぱなしの無精髭でしょう?」

「ぶしょ……! こ、これでも苦労して伸ばしたんだが!? そうだ、オルドア殿も髭が生えていただろう!? オルドア殿も目上の方に会う時はあれを剃るのか!?」

「いや、村長のはふさふさだから整ってるけど……」

「十兵衛のは無精だよね、どう見ても」

「えーっ!」

「そんなに剃るのが嫌なのか」

 見守っていたハーデスの問いに、十兵衛はもごもごと「はくというものが……」だの「侍は皆生やして……」だの呟く。

「気持ちは分かるがここは日本ではないからなぁ」と思いつつ、「では後で戻せるように私が調節してやろうか」とハーデスは提案した。

「戻す?」

「あの巨大な毛虫にもやっただろう? 毛根の死滅だ。その定義であれば私の方で再生も可能だからな」

「なるほど【死の律】だからか」と、十兵衛はハーデスの正体から推察して納得する。

「では……頼む。鼻から下だぞ。上は僧侶になるからな」

「分かった。下だな」

 言うや否や、ハーデスが指を鳴らした。

 アレンが「おお……」と驚いた声を上げたので、泡が入らないようにと目を瞑っていた十兵衛は自分の顔を確認するようにぺたぺたと触る。

「すごい、毛一つ無い。つるつるしている」

「そうだろうそうだろう」

 十兵衛の賞賛にご満悦となったのか、ハーデスが頷きながら笑みを浮かべた。

 それを目の当たりにしながら、唯一彼の真ん前に立っていたアレンは「確かに、毛一つ無ぇ……」と、十兵衛の鼻から下を眺めて乾いた笑いを零すのだった。



 リンドブルムへの移動はマル―大森林を出るまでは基本的に陸路となる。森を抜けたあとは、近場の町に寄ればパルメア大運河を下る船があるのだ。

 十兵衛が身嗜みを整えている間、馬の手配について村長宅でオルドアに相談していたスイだったが、そこに来訪者があった。門番のトレイルである。

 たれ目の人の好さそうな朴訥ぼくとつとした青年は、会話の邪魔をしたことを詫びつつ「お迎えですよ」と笑みを浮かべた。

 外に出た時、スイは心から驚いた。カルド村までスイを届けてくれた郵便大鷲ポスグルがいたのである。

「郵便大鷲さん!」

 駆け寄り抱き着いたスイに対し、郵便大鷲は「クルル」と機嫌の良さそうな声を上げた。

 昨日、スイは郵便大鷲を地上に下ろすことなく自身が飛び降りる形でカルド村に降り立った。ここには発着塔のような郵便大鷲が風を掴みやすい高所がない。そうした所からの離陸は郵便大鷲自身が【飛翔フライ】の魔法を使って一気に上空まで飛び上がるため、負担が大きいのだ。なにより彼には本来の荷運びという仕事があることを覚えていたスイは、この場を離れる事を願い一人カルド村へと飛び降りたのだった。

 そんな郵便大鷲が、今ここにいる。リンドブルムへの復路かと思ったが、トレイルが「全然荷物を入れさせてくれないんだよ」と彼の持つ空の荷袋を見て苦笑した。

「だから、スイ様を迎えに来たんじゃないかと思って」

「そうなんですか?」

 郵便大鷲は首肯する。スイは目を輝かせて感謝の言葉を述べ、「後で美味しいお肉を差し入れますね」と微笑んだ。

「すみませんオルドアさん。後で別の郵便大鷲さんの派遣をこちらからお願いしますので……」

「どうかお気になさらずに。何より優先すべきはカルナヴァーン討滅の報告です」

「そうですね……。ハーデスさんはともかく、十兵衛さんは高い所は大丈夫でしょうか……」

 そんな時だ。噂をすればなんとやらで、遠くから十兵衛とハーデスの言い争う声が近づいてきた。

「確かに鼻から下と俺は言ったがな! 何もかもつんつるてんにする奴があるか!」

「言われた通りにやっただけだ! 説明が足りないお前が悪い!」

「髭だって話してただろう!? それがなんで下にまで及ぶんだ! 拡大解釈にも程がある! 戻せ!」

「嫌だ! またも私の厚意に難癖つけて! 腹が立ったから絶対に戻さん! 髭を戻す時に戻してやる!」

「お前なーーー!」

「ど、どうしたんですか十兵衛さ……」

 おろおろと場を制しかけたスイだったが、振り向いた十兵衛と目が合った瞬間、言葉を失った。彼のあまりの変わりように、心から驚いたのである。

 身嗜みを整えるにあたって髭を失った十兵衛は、有体に言えばとても整った顔立ちだった。

 以前と変わらず総髪に纏められた髪は、風呂に入ったおかげか湿り気を帯びつつも風に揺れると肩口でさらりと靡き、下ろせば女性と見間違ってもおかしくないほどの長さだ。

 アイルークやトレイルと比べると彫りの深さが無い分どこか幼さが残るが、見据える眼差しは鋭く、しなやかな筋肉を持った体つきからして青年であることは疑うべくもない。

 射干玉ぬばたまのような色合いの黒髪と同じ色をした瞳。日に焼けているのか少し色黒の肌は失った髭も相俟ってつるりとしており、アイルークが見繕った詰襟の黒衣の衣装がとてもよく似合っていた。

「スイ殿!」と笑いかけるあどけない様に思わず見惚れていたスイは、はっと我に返った。

「じゅべ、じゅ、じゅうべえさん」

「ん?」

「あの、つかぬ事をお伺いしますが、お幾つなんですか?」

「二十二だ」

「へっ!?」

「あ、待てスイ。こちらの数え方だと二十一だ」

「えっ!?」

「えっ、そうなのか?」

 驚くスイの隣で目を丸くする十兵衛に、「お前にはまだゼロの概念がないからな」とハーデスが頷く。

「何の話だ」

「こちらの数え方だとお前の年齢は一つ下になると考えろ。それだけだ」

「てことは私の三つ上ってことですか!? 四十歳じゃなく!?」

「えっ!? スイ殿十八歳っ!? いや、それより、ま、待ってくれ、よんじゅ……」

 スイの言葉の一撃に、がっくりと十兵衛が膝を着いた。「すすすみません! お召し物と髭のせいで年齢がよく分からず!」とスイが必死に謝り、アレンが「分かるー」と同意して笑う。

「私もびっくりしたよ。綺麗になったと思ったらおさな……若々しい青年になるんだもの」

「はっきり言ってくれていいぞアイルーク殿……。だから髭は残したかったんだ……」

「あはは。はくの意味がよく分かったよ」

 年嵩には見られたくないが、幼く思われたくもないという十兵衛の難しい男心に、アイルークは優しく同情するのだった。

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