【1】ピンク色の家族
甘くて、かわいらしくて、素敵な
ふわふわとしたピンク色の髪を風に揺らし、キャッキャ、と笑って逃げる幼い少女とそれを同じように楽しそうに笑って追いかける両親。
そんな幸せな光景の外れで、木の裏でしゃがみこむ黒髪の少女がいた。
少女の名前は鳳紫苑(オオトリシオン)
幸せそうに鬼ごっこをするピンク色の髪の三人とは家族である。
だが、紫苑はその輪に入れずにしゃがみこみ、その顔からは静かに涙が流れ、膝を濡らしていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
…私が今よりずっと幼い頃。
私はお父さんとお母さんに愛してもらえていた、幸せな時間を過ごしていた記憶がある。
お母さんはピンク色の髪がとっても似合う、優しくてふんわりとした人。
お父さんは私と同じ紫が薄らとかかった黒髪で、物静かな人だったけれど偶に私の頭を撫でてくれる手が、とっても大好きだった。
幼い私は、その幸せな時間がずっと続くのが普通だと、思い込んでいた。
__幸せな時が壊れたのは、早かった。
私がうたた寝をしていた夜に近い夕方頃、
仕事をして帰ってきたお父さんに、お母さんが話しかけた。
いつもならお父さんが帰ってきたらすぐ夜ご飯なのにな、と不思議に思って。リビングから出ていく2人の背中を、開ききっていない瞼を擦りながら見つめた。
お話するのなら夜ご飯までの時間を何かで遊んで過ごそう、と。その時大好きだった童話の絵本を手に取った。
蝶の群れで一番、羽の色と模様が美しくない蝶の子が主人公。その蝶は群れのみんなから黒い蜜をかけられて、羽が真っ黒になって追い出された。
でもその後一匹で色んな場所を旅する中で、様々な動物を助けてお礼に蜜をもらった。その蜜を主人公の蝶が吸う度に、黒い羽が次々に色付いて、物語が終わる頃には虹色の綺麗な羽で空を飛ぶ様子が、とっても綺麗な絵で描かれていたのを覚えている。
でも最後は蜘蛛が…
そう、物語の終盤を読み進めていた頃。
ガシャン!!!!という何がが壊れる音が聞こえてきて、私は声をあげて驚いた。
童話の本をその場に置いて、音のした方に歩いていくと…だんだんと怒鳴るような、悲痛に叫ぶような、そんな声が聞こえてきた。
_お父さんとお母さんのいる部屋から。
扉を少し開けて、中を覗いた。
…叫んでいたのは、お母さん。いつも穏やかで優しいお母さんの、聞いたことが無い怒鳴り声。
お父さんの頬からは、血が流れていて。
何かが壊れたガラスや陶器の破片。そして、倒れた机の上に置かれていたと思う沢山の写真が、床に散らばっていた。
怯え涙でぼやける視界で捉えた、その写真にはお父さんと…知らない黒髪の女性が仲良さげに腕を組んで、何かの建物に入っていく写真、食事をしている写真、__キスをしている写真。
幼い私は、その写真が何を意味するのか分からなかった。
ただ、…何か大事なものが壊れたのだと、何かが変わっていっているのだと…幼い私も感じ取った。それがひたすらに恐ろしく、その場で立ち尽くし震えて涙を流すことしかできなかった。
その夜を最後に、
幸せは崩れ去った。
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