【とある蝶の昔噺】小説版

アゲハ

【プロローグ】


微かに揺れるバスの中で、窓枠に肘をつき進む景色を眺めている、

楽しげに笑い、談笑する周りとは切り離されたかのように微動だにしない少女。


黒髪に窓からの光が差し、照らされた所は紫が淡く色を見せた。

流れる景色を映す瞳はどこか憂いを帯びており、紫と桃色が混ざったような色は浮世離れした美しさを持っている。

例えるなら、精巧に造られた人形(ドール)のよう。


ふと瞳が動くと、その少女の手荷物である黒いポシェットに視線が向いた。

楽しげな乗客達の荷物はボストンバッグやトラベルバッグなどの旅行向きカバンなのに対して、少女の手荷物はそのポシェットとリュック一つという少なさだ。


少女はそのポシェットを持ち膝の上に置き、止められていたボタンをパチン、と外して中を見た。

中には、黒い布巻きにされた物が四つほど入っていた。


その中で一番大きなものを指でス、と横になぞり、少女は瞼を閉じた。



「……やっと、終わらせることができる」



そう小さく呟いた言葉は、楽しげな周りの人々の耳に入ることなく消えた。


___この旅行は、

桜ヶ丘高校二年生、修学旅行。




この旅行の中で、


少女は自殺すると決めていたのだ。




【プロローグ】end.



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