第4話

「準備はいいか?坊っちゃん」



目的地につくやいなや龍矢は俺を挑発してくる。



「はーぁ」



俺は大きくため息を吐く、



今から自分がしようとしてることへの馬鹿さ加減と目の前の奴に対する呆れからくるものだ



「御託は良いからさっさとこい」



龍矢の取り巻きの一人が手に石を持った状態でスタンバっている。

あの石を投げて地面に付いた時が喧嘩開始の合図だ



「じゃあさっさと始めようぜ!」



龍矢が取り巻きにアイコンタクトをし、

取り巻きが無言でうなずく、

スタートの合図が切られようとしたときに

それはおきた。



「おーい!!お前ら何してんだぁ?」



誰も来ないはずの場所にずらずらと見知らぬ五人がやってきた。



「お前ら今年の一年だな?調子乗った一年が入って来たって聞いたから、とりあえずお前らそこ並べ」



瞬時に状況を理解した。



こいつらは2年か3年かわからないが、

とりあえず目立ってる新入生にお灸を据えに来たってところだろう。



本当にテンプレすぎて笑う。



とりあえずどうする?って感じで龍矢の方をふと見てみた。



ビビるどころか不機嫌が顔に出ている

邪魔された事に対する嫌悪感からくるものだろう。



俺に予知能力はない、

しかし、この後の出来事が容易に予想できた。



脳内に地面に転がる先輩たちの姿が映し出されたのだ。



ただそんな事を思ってもやはり俺はただの凡人だった、










俺の予想なんかとは裏腹の出来事が起きたのだから











想像できるはずも無いだろう、










思いもよらない形で先輩が地面に転がることになったのだから










一触即発の状況の中











龍矢が動く前に後ろから走ってきた一人の少女が

その先輩の中のひとりにドロップキックをかましたのだから。



「うごぉっ!」



なんとも情けない声をあげて先輩の一人が地面に倒れ込んだ。



俺は突然の事に唖然とし周りの様子を伺うと、さっきまで苛立ちを隠せない様子だった竜也も

ぽかーんとなんとも間抜けな面になっていた。



周りの取り巻きも、その場にいた全員が状況を読み込めずにいた。



体感にしては長い沈黙だった、



しかしおそらく数秒の間だろう沈黙を破ったのは

他の誰でもない、その少女だった。



「あなた達!暴力ふるおうとしてたでしょ!あなた達がそんな事してちょっとでも高校受験が不利になったらどうするつもり!!」



長い黒髪をかきあげながらその少女は声を荒げた。



一瞬ふと、名前も忘れたあの気の強い少女の事を思い出す。



だがそれもつかの間

思い出にひたる時間など誰も待ってはくれなかった。



ドロップキックをかまされた先輩が起き上がり少女に怒鳴りだす。



「おい!!いきなりなにすんだお前!」



確かにごもっともだと思う。

少女の言ってることは一理あるが、まだ誰も血を流していない状況の中

一番クレイジーな行動をとったのは他の誰でも無くこの少女なのだ。



「なに!?なんか文句あるわけ!?」



「あるに決まってるだろ!頭おかしいのかお前!」



これに関しては先輩に同情する他ない。

龍矢の方を見ると、先程までの怒りが嘘のように、ニヤニヤして黙ってその場を見ていた。


この状況を楽しんでるかのようにも思える。



なんだこの茶番は、

どうやって収集つかせるんだよ。



もう用がないなら帰りてぇな



俺自信も先程まででてたアドレナリンはどこえやら、

龍矢のように別に面白いわけでもなければ

この先の展開に全く興味はなかった。



「お前女だからって何もされないと思ってんのか?」



「ほんっとくだらない!あなた達先輩でしょ!?後輩の女の子脅して恥ずかしくないわけ!?」



おそらくこの少女は俺達と同じ新入生だろう



今にも少女に殴り掛かりそうな先輩を見て、

おいおい流石にそれはと思ったが、俺が止めるまでもなく、

蹴られた先輩とはまた別の先輩がその場を制止した。



「もしかして桜ちゃん?」



「そうですけど誰ですか!?あなた!」



「誰って、、総司君の妹の桜ちゃんでしょ?昔家が近所でちょくちょく遊んでたんだけど、、」



「知らない!」



どうやらこの少女は桜と言う名前らしい。

この先輩にはちょっと同情する。


忘れられた先輩はちょっと残念そうにそっか、と引き下がり、

蹴られた先輩が総司君と言う名前に反応した。



「え、、、、総司君の、妹、?」



「だから、そうだけど何?関係ないでしょ!」



「え、いや、なんでもない、この事総司君には黙っててくれる、?」



「だからお兄ちゃんは関係ないでしょって!なんでいちいちそんな事言わないとだめなのよ!」



「わ、わかったよ、じゃあ俺らはいくから」



そう言って先輩たちはぞろぞろとそれ以上は何も言わずに退散していった。

去り際、総司君の妹って知ってたならもっと早く言えよ、とか

あぶねぇ、殺されるとこだったぞとか聞こえてきた。



話の流れ的に今のは2年生か?その総司君ってのが3年生だった場合だが、



とりあえず、もうなんか拍子抜けだ、

龍矢もこの状態で喧嘩したいとかは思わないだろう。



「ねぇちょっと、あんた達もだからね。関係ない生徒に迷惑かけないでよ」



続いて桜と言う少女は龍矢に突っかかる。

一番目立つからだろうが、

本当に気の強い女だな

大丈夫か?



「あぁ、わかったよ、悪かったな」



!?



!?



おそらく俺を含めた取り巻きの全員が同じ反応をしたと思う。

まだ出会って数時間しか立っていないが、こいつが誰かに謝る姿は

想像もできなかったからだ、

総司って先輩の妹だから?

いやそこは関係なさそうだ、



「まあわかったならいいけど、あんたも早く帰りなさいよ」



そう言って次に俺の方に向かって桜と言う少女が話しかけてきた。

とりあえず俺はあぁとだけ返事を返す。



桜と言う少女は去り際、ボソボソと

どこがいいのよあんなやつ

ただの獰猛な犬じゃないのよ。

全然可愛げもあったもんじゃないわね。。

だの何だのぶつぶつと

つぶやきながら去っていった。



龍矢の事だろう、こいつ顔はいいからな

あの少女のクラスで龍矢の事が気になる女子でもいたんだろう

まあまさに獰猛な犬だな。



なんて事を考えながら俺も帰ろうとすると龍矢が声をかけてきた。



「おい、お前白斗っつったか?興ざめしちまってどうでもよくなっちまったんだがどうするよ?」



「俺もどうでもいいから帰るわ」



「はっ!感情が薄い奴だな、まあいいや、根性だけはあるっぽいしな」



「ふん」



どこまでもヤンキー漫画の登場人物みたいなセリフをはくやつだ。



去り際龍矢が後ろから、また明日なと白斗と声をかけてきたので、

とりあえず手をひらひらさせといた。



入学初日はこうして濃い一日で幕を閉じた。

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