第1話



ある田舎町、



晴天の夏のある日の休日昼時




「俺は何してるんだろう」




何をするでもなく、ぼーっとして過ごす休日、


高校を中退し、現場努めで同級生が


スクールライフを送っている中、


俺は仕事をして日常を過ごしている。




休みの日には、みんな高校の同級生と遊んだりで


中学時代の友達とは合う機会が減っていた。




何もすることがなかった俺は


ふと昔のことを思い出す。




俺は、犬塚白斗、


読み方は「いぬつか はくと」




よくかっこいい名前だねって言われるけど、


俺は昔この名前が嫌いだった。




小学生時代は、犬塚の犬と白斗の白をもじって


「わんぱくボーヤ」ってあだ名がついていた。



わんはどこからきたかと言うと

犬の鳴き声の「ワン」って部分が小学生からしたらピンときたらしい。




今考えたら幼稚な発想だが、


幼稚だからこそ辿り着く発想だったのかもしれない


無邪気な頃は物事の善悪の区別がつかず平気で人を傷つける。




周りはおもしろおかしく俺のことを


わんぱくボーヤと呼んだ。




そこから小さないじめが始まった、






まず最初は上履きを隠された






その度俺が怒ると、


「わんぱくボーヤが怒ったぞー!」


っておもしろおかしくみんな俺をいじるようになった






そこからは教科書を隠されたり、


最初は可愛いいたずらだったのが


暴力にまで発展するようになった。


廊下を歩いていると頭を叩かれたり


後ろからライダーキックと称しての

いきなりの飛び蹴り




それから俺がグレるまでは早かった




自分の身を守る方法が暴力しか思いつかなかった、


ほんとに幼稚な発想だったと思う。




俺自信も周りも、


どいつもこいつもくだらないと思っていた




ある日を境に誰も


俺のことをわんぱくボーヤと呼ばなくなり



誰も寄り付かなくなっていた




ただ一人を除いては。




名前はなんだっけか




人の顔と名前を覚えるのは苦手だ、




どういう見た目だったかもあやふやだ、




ただ人の記憶ってのは不思議な事に

よくわからない事は覚えているもんだ




そいつは俺のことをわんぱくボーヤとは呼ばなかった。




ただわんぱくボーヤと呼ばれるようになったのはそいつが原因でもある。




まずそいつが俺のことを


「ワンちゃん」って呼び出したのが始まりだった。




その頃の俺はまだ気が弱かったから、


嫌だなって思いながらも、何も言い返せなかった。




スクールカースト上位にいるような

女だった、


いつもニコニコして誰に対しても平等で


明るい奴だった記憶はある。




そいつはいじめには参加はしなかった、


どちらかというと、俺に嫌がらせをする奴らを注意したりしていた




ただこうなってるのは全部お前のせいだぞって子供ながらに嫌悪感を抱いていた。




小学校高学年になって


俺へのいじめがなくなったあとも、


そいつは俺のことをワンちゃんと呼び続けた




ほとんど返答をした記憶はなかった、


そいつが一人で俺にずっと話しかけてきていただけで、


何が楽しくてニコニコ俺に話しかけてきてるのかわからなかった。










ただその日はなんだろうな



今となってはその時の感情は忘れたが



珍しくその女とよく話した記憶はある




「ねぇ!ワンちゃん!学校帰り一緒に海行こ!」




俺らの小学校は海の近くにあったから


学校帰りに海沿いを歩く事がおおかった 。




いきなりなんだこいつと思ったけど、




なんでかわからないけど、


なんとなく気まぐれにそいつの話にのってやった




「ワンちゃんはさ、毎日毎日そんなにムスっとしてて楽しい?」




何いってんだこいつ、お前のせいだろと思いながらも、




「別に、逆にお前はいっつもヘラヘラして何が楽しいんだよ」




「何言っての?笑う門には福来たるっていうでしょ?

ムスッとしてるより笑ってるほうが楽しいに決まってんじゃん!」




なんでかわかんないけど、


そう言って髪をかきあげるそいつが


その時の俺にはすごく大人っぽく見えた。




「くだらね」




そう言って反発することしかできなかった自分が


妙に気恥ずかしかった記憶がある。




「ワンちゃんって何型?」




「B型だけど」




「じゃあ一緒だ!B型の人って一つの熱中することを見つけたらそれに必死になれるんだって!」




「まずその熱中できることがないんだよ、見つかる気もしない」




「うーん、じゃああたしがいつかワンちゃんの熱中出来る事を探してあげる!


あたしはこれからワンちゃんが熱中出来ることを探すのに必死になる!」




そう言って無邪気に笑うそいつは、


さっきまでの大人びた雰囲気はどこえやら、


年相応な笑顔を俺に向けて笑った。






なんて無い日常の中の一日


ただ不思議なことにその日の会話はよく覚えていた。








それからそいつは事あるごとに俺に絡んできた、


俺の返事は「あぁ」とか「うん」ばっかで


会話という会話はしてなかったが




何てない日々が実は俺にとっては、


充実した日々だったのかもしれない、




その日々は唐突に終わりを迎えた。




卒業を春に控えたある冬の日、


そいつはある事情で都内に引っ越すことになったらしい。




「ワンちゃん!寂しいと思うけど泣いちゃだめだよ?またすぐに会えるからね!」




「泣くわけないだろ」




「ほんと最後の最後までムスッとして!決めた!あたしの夢!

ワンちゃんのとびっきりの笑顔を見てやる!」




「なんだそれ、自分で言ってて恥ずかしくないのかよ」




「いいの!もう!これ以上話してると別れが寂しくなっちゃうからもういくね!」




そう言ってそいつは笑顔のまま走り去っていった、


少し目元が涙ぐんでいた様な気がしたのは気のせいだったのだろうか。

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