第一話『マーライオンはシンガポールの名所だが実際に行った事がある奴はあんまりいない』2
「よォーしお前たち、今からミッションの内容を説明するぞ」
遡ること六時間前、無精髭を生やした中年の男性が机の上になにやら図面の書かれた紙を広げていた。男性の体重がかかる度にガタガタと揺れているその机は、どうやらかなりの年季が入ったものらしかった。
「あっ〜! クソねみぃーッ!」
「はいジェームズさん。よろしくお願いします!」
机を挟んだ男の向かいには、気だるそうに姿勢を崩しているソニーと、背筋をピンと立てているマイクが、これまたボロボロの椅子に腰掛けていた。
「う〜ん、元気のいいアイサツにおじさん感動しちゃうなァ。んで一応言っとくとボク、“ジェイソン”・ハリスって名前です」
「あっ、すみません!」
恐らく名乗るのは既に何度目かであろうハリスの嘆くようなツッコミに、マイクがやや青ざめる。
「うんうんいいんだ。緊張してるもんな、仕方ない」
「あ〜!? どっちでも同じじゃね!?」
「うん、ソニーくんはもうちょい緊張しようか」
見るからにハリスは二人の少年に気を使っていた。引き攣った笑みが顔に張り付いていたが、それも無理のないことであった。自身の二分の一か、ともすると三分の一の年端も行かぬ少年が二人、ボス直々の命で彼のファミリー『ペペロンチーノ一家』に送り込まれて来たのである。
ナイーブな時期の少年たちの扱いが、ハリスには全然わからなかった。
「なあ、そういえばもう一人ってどこいんの?」
多少なりとも姿勢を正したソニーが聞いた。
もう一人とはこのファミリーの構成員の事である。逆に言ってしまえば、ペペロンチーノ一家はここにいる三人の他にもう一人だけしかメンバーがいないという超零細ファミリーなのである。
「ああ……今ちょっと不在でな」
そのもう一人というもジェノヴェーゼファミリー指折りの問題児であることを思い出し、ハリスの笑顔はいっそう引き攣った。
「まあともかくだ、二人にこれからやってもらう仕事はだな……」
それら先々の不安を頭から振り払いつつ、ハリスは話を進める。
「これだ」
言いながらハリスは、背後から一抱えばかりの革袋を取り上げ、図面の隣に放った。ドサッという多数の金属が擦れるような音に続いて、机のギシギシと軋む音が聞こえる。
「なんだこれ? 銃?」
ソニーとマイクが革袋を覗き込むと、中には大量の銃器がぎっしりと詰め込まれていた。
「“これ”を、“ここ”に埋めてもらう」
次いでハリスは図面のある箇所を指さした。それは市内に建設中の、或る高層ビルの内部構造を描いたものであった。
「埋めんの? もったいねッ!」
「あの〜……これってもしかして……」
「ああ、“使用済み”だ」
マイクが何か察したように青ざめると、ハリスはにっこりと笑った。
「まぁ、証拠隠滅ってヤツだな」
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