プロローグ『血の日曜日』2

同日、同時刻。

ニューヨーク・コロニアル・ホテル。

ポーターの制服を着た二人の少年が、荷物を満載したバゲージカートを運んでいた。


「なあマイク、神様っていると思うか」

「いたって何もしてくれないよ」


拾われた野犬のような不清潔な印象をあたえる金髪の少年の質問に、これとは対照的な――マイクと呼ばれた――清楚な黒髪の少年が答えた。


「僕らにも、彼らにも」


その質問が礼拝日の任務の際に恒例のものであることをマイクは知っていた。しかし彼がこれ程はっきりと答えを示したのはこの日が初めてであった。


「ローズさんは上手くやってくれたよ」


金髪の方は黙っていた。相手に気を遣ったわけではなく、ただその間を自分で埋める気になれないのだといった様子で黙っていた。

言葉を発した方も、特に返答を期待する様子ではなかった。


「完璧だよ。こういうのは苦手だろうに」


マイクの視線は荷台の後方に積まれた、ひときわ大きなスーツケースへ移る。

その中に綺麗に配列された仕事道具たち、それを手配するはずだった者、そして結局それを手配することになった者と、それぞれいっぺんに思いを馳せ、僅かのあいだ目を閉じた。


「あ〜~」


四半時ぶりに金髪の少年が口を開いた。目の前にはニューヨーク・コロニアルの最大のセールスポイントにあたるバーラウンジが近付いていた。


「このクソ寂れたホテルならおばさんしかいないと思ったのによォ〜。かわいいおねえさんがいっぱいいるじゃねえか!」

「そうだね」

「流れ玉で死ぬよな、いっぱい」

「仕方ないよ。それも作戦に含まれてる」

「はァー……弔い合戦っつーから派手にって思ったのによォー、なァんかやる気なくなりそー……」

「じゃあやめて帰る?」


金髪の方がそれに同意しないことは分かりきった質問だった。しかし、同意したら本当に全てを投げ出して引き返してもおかしくない声色だった。


「いーややるね。どっからかオッサンが見てる気がすんだ」


言うや否や、彼は懐からコルト・パイソンを引き抜くと目の前のガラス扉に左右一発ずつ撃ち込んだ。動作には一切の迷いも、無駄も感じられなかった。


「今日はおっぱいの大きい女だろうと容赦しないぜェー!」

「うん、なるべくそういう人には当てないようにするよ」


ガラスの崩れ落ちるやかましい音に次いで、ラウンジから一斉に悲鳴が上がる。

マイクは素早い動きでスーツケースを開き、中から全長一メートル弱のショットガンを金髪の少年へ投げ渡す。


「早く終わらせて早く帰ろう、サンティノ」


サンティノと呼ばれた--金髪の少年はガラスの散らばった地面を踏み越え、投げ渡されたウィンチェスターM1887を頭上に高く掲げた。


「こんちわァーッ! クソ野郎とその巻き添えの皆々様ァーーッ!」


既に狂乱に包まれ初めたニューヨーク・コロニアルの宴会場に、サンティノのがなるような怒声が響いた。


「このたびはご愁傷さまだぜェーーッ!」

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