二章二十一話 「託されたもの」



 「サンダー、ショット!!」 「かみなりぃ!!」



 俺とミウが同時に電気魔法を放つ。真っすぐ向かう一筋の電撃と天空から襲う落雷。誰か一人でも被弾してくれればありがたいが、




 「塞キ止メ。」 「上昇雷ポ二グロム・・・。」




 ドオオオォォォ・・・!!



 電砲は無で暴発し、雷は雷により相殺された。ゴブリンコンビの後方相手では、ミウはともかく俺の出る幕はないかもしれない。



 もたついている間に、近距離役の三人は距離を詰めていた。




 「ミウ!!後ろは任せた!!」



 「りょッ!!」




 真っ先に相対するは犬獣人。楽勝だと余裕ぶって大振りを見せてきた。普通に戦っても苦戦する相手を、三人同時は無理だ。ならば確実に、一人ずつ消していく。下に見てくれればそのチャンスが多くなるので、いくらでも見ててくれ。



 「ゲヒヒヒヒッ!!死ねぇ!!」



 敵の爪がすんでのところまで届く。俺は走る足にブレーキをかけて狙いを定める。




 「身体強化全開フルスロットル・・・!」



 バガアァン!!



 すれすれで避けて顎に衝撃をかけてやろうと思ったが、顔にかすり傷を負った上に胸の中心に拳が当たった。戦闘経験ではそこらの兵士に劣っている。挑戦したにしては被害が軽傷で済み、対象も怯ませたので及第点だ。



 第二陣、兎の獣人が気付いたら距離を詰めてきた。



 「うぐっ!?・・・・お、おオオオォォ・・・!!・・・!?」



 腹にジャブを食らい、それでも攻撃を加えようとする。だが、不思議なほどに当たらない。かする寸前を避けるため、当てる機会があると思わせての全弾透かし。技量の差を魅せられた。



 「うおっ!?」



 コケてよろけそうになる俺を見て拳でたたみかけようとする。



 俺は、元から普通に戦うつもりなどない。



 「っらあああぁ!!」



 「!?」



 地面に突き刺した足に力を込め、横を勢いよく通り過ぎる。近距離専門とタイマンを張って三連勝ができるか?否、それならば後方に夢中の二人を狙って飛びついた方が勝ちにつながる。




 「・・・火剣・天滅!!」



 「ぬ、うぅ・・・!!」



 そう簡単にはさせてくれない。髪の赤い大剣使いが姿を見せた。間一髪で避けて地で転がるが、そんなことより状況が掴めないでいる。




 「トッカ!!何してんだぁ!!んなヘマするやつじゃなかっただろ!?」



 「・・・思い出話など無駄だ。・・・俺はすでにトッカではない。」




 大剣に炎を纏い、普段の人を安心させる顔は影も形もなかった。




 「昨日以来だな。・・・俺の名はシャドウだ。」



 「だから、お前なんかに負けるようなヘマをするやつじゃねぇって言ってんだよ・・・!!」




 獣人二人がこちらへ来て、取り囲まれてしまう。ミウは二人を相手にしていて、手助けができる余裕もない。今も上空では魔法の応酬が繰り広げられている。



 先ほど殴った獣人が声を張り上げる。



 「おいリッツァ!!二人でこいつ潰すぞ!!シャドウは、あの変なスライム斬ってこい・・・!!」



 挑戦が裏目に出た。やられて嫌なことをやるのが戦闘の鉄則。隙があれば仕返しされるのは当然のことである。




 シャドウが歩を進め、大剣の炎を強める。こちらの焦りが顔に出てしまい、犬獣人の笑みが深くなっていく。




 「ゲヒッ!ゲヒヒヒヒ!!!脳筋のリッツァを騙して後方を狙う。良い作戦だったが、お前は一つ、わかってねぇな。」




 兎獣人が距離を詰めて殴り掛かる。技術の差を見せつけられたばかりだ。一人だけに集中して真剣に勝とうとするが、変わらず当てることもできない。




 「この都市を半壊させたのは誰だ?どいつらだ!?」




 体中を等しく殴られ、全身が等しく痛い。相手が手二つだけに対しこちらが足まで使っても、状況は変わらない。顔に向けて蹴りを入れようとする。だが足を片方の手でつかみ抑えられ、反対側から拳で潰された。耐えきれず悲鳴がこぼれる。




 「そうだ!俺たちだぜ!?その中でも戦力として数えられたのが、ここにいる五人だ!!」




 機動力を失った俺は、いい様にサンドバッグにされる。威力も上がり、一方的な蹂躙へと変わった。ミウのもとへたどり着いたシャドウは、剣を構えて一太刀で切り捨てる。燃える体に、拮抗状態でせき止められていた魔法がまとめて襲い来る。




 「俺たちは"クリミバリューシェ"!!平和な世界に革命を起こす、最恐の同盟だ!!!」




 ザン・・・!!




 「一突きビラッツ・・・!終わりだ・・・!!」



 胸を爪で一突きにされた。血が流れ出る。




 「ハナから勝てる見込みなんて、ねーんだよぉ。」








━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━







 ギイィン!!ガイイイイィィィ!!!



 縦横無尽に駆け回り、あらゆる角度から、あらゆる部位に牙を立てる。だが、一つとして傷をつけることはない。



 「ガアアアアアアァァァァ!!!」



 抵抗さえしない体に、手数を気にせず打ち込める。それがトウガの誇りを超速度で削りとる。




 「・・・。なぜ無駄だと気づいてなお、続ける?・・・傷が開いているぞ。力も落ちている。同じところを狙っているぞ?照準さえ合わないのではないか?」




 流れているのは、赤い光に照らされた汗だ。そう思わなければ自分の今を知ってしまい、力尽きてしまう。



 「・・・ぁ・・ぉ、ォォオオオオオオオオォ!!!」




 首を狙う太刀筋、何度も狙った位置。それでも撃ち続けるトウガの剣を、手で受け止められる。




 バキンッ!!



 剣の先端が砕け散った。



 飛んで後退し、それでも剣を構える。




 「・・・・本当にわからん。自信を折り、牙を砕き、なぜそれでも立ち向かう?」



 ふらつく姿勢を整えるのに、時間を有している。



 「あの英傑が近くまで来ている。お前が戦わずとも、都市が負けることなどないのだぞ。」




 弱音なら目を閉じた瞬間に、いくらでも言える。今は目を見開き、対象を焼き付けなければならない。




 「・・・・・。お前はよ。どこにでもある飲食店で、友と腹八分目まで食って、足りねぇななんて言い合ったこと、あんのか?」




 「・・・?」




 「つまんねぇことで、街走り回ってバカ騒ぎしたこと、あんのか・・・!!」




 ガギイイイィィン!!



 トウガが、折れた剣でなおも切りかかる。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 ザシュ!!



 アメルは、刺さった爪を力任せに引き抜く。




 「・・・お前は、毎朝顔を見せたら果物くれるばあさんや、金ケチって変な仕事押し付けようとするじいさんのこと、そういう日常、知ってんのか・・・!!」




 すぐ後にリッツァが駆け付け、殴られる。



━━━━━━━━━━━━━━━




 ーーーー「軽く自己紹介を。俺はトッカ。信縁の旗リーダーをやらせてもらってる。冒険者になるにあたって簡単なことを教えるから、二人ともよく聞いてね。」




 ーーーー「手間かもしれないが、詳しく話してほしい。僕に手伝えることがあれば何でもするよ!」




 抵抗されることはなく、視線でのみ追われている。




 「気持ち悪ぃくらい気をかけて先輩面して、来てほしい時も来やがるような、そんなやつがいたこと、知ってんのか・・・!!!」




━━━━━━━━




 ーーーー「今日の課題として、"将来の夢にちなんだコトをやってみよう!"ってのをしてるんです。それが様子を見ていたら変な状況になっていて、ほんとにすみません。」




 ーーーー「こんなご時世なんで、子どもには夢をいっぱい見せてあげたかったんです・・・!」




 殴打の中で次の位置を予測し、その拳を受け止め、放さないように強く握りつける。




 「お前らみたいなやつがいんのに、折れず子どもと向き合おうとするやつがいること、知ってんのか・・・!!!」



━━━━━━




 ーーーー「ごめんなさい・・・!私が。私がもっと早く気づいていれば、こんなことに・・・。」




 ーーーー「ごめん、なさい!!私が!!わたしがもっと!体力管理に気を付けていれば!!!みんなの話を聞いていれば!!こんな・・・ことに・・・・。」




 力が弱まることはない。ないものを出し切る感覚で、折れた得物で勢いを増していく。




 「どうしようもねぇ状況で!てめぇが悪いと悔い続けるやつがいること、知ってんのか!!!!」




━━━━




 ーーーー「・・・っ!!・・・どけよ!!もう、お前らになんか頼らないんだ!!!約束したのに・・・!守ってくれるって約束したのに!!誰も守ってくれやしないじゃないか!!!」




 ーーーー「俺が最強の医者だったら!!今もみんな、笑ってたのかなぁ・・・・!!」




 足で蹴ると見せかけて腕を引っ張り、頭突きで脳を揺らした。足は痛みがぶり返し、満足に動けない。




 「諦めずに!誰かのために動こうとするやつがいること!!知ってんのか!!!」




━━━



 「・・・!?」



 周辺が明るく照らされる。結晶を見ると、赤黒く灯った光が白く、緑色に照らしなおされている。



━━



 「!?し、死にぞこないが意味わかんねぇこと言ってんじゃねーぞぉ!!」



 脳の衝撃で片膝をついたリッツァを見て、モーイは怯みながらも両手の爪を光らせて突撃する。






 トウガの体が薄く光りに包まれる。肌の緑色が薄くなり、小さく白い模様が刻まれる。



 アメルの体を電気がほとばしる。




 ーーーー「なぁ!!兄ちゃんこれあげるっ!!」



 

 ーーーー「次は僕の番だよ。実はさっきまでお兄さんの絵を描いたんだ!あげる!」




 ーーーー「緑色の兄ちゃん!あいは将来ぜったいアイドルになるから、サインあげる!!だいいちごう!」






 「「ガキに、夢託されたことあんのかって聞いてんだァ!!!!!!」」




 剣を構える。先の限界がなかったかのように、息が整う。



 「刀 ・ 豪断・・・!!」



 突き出される爪をすれすれで避け、電気を両手に集約させる。



 「雷"上級"魔法・・・!!」








 ーーーー「あいは好きな人を笑顔にしたいの!!好きな人っていうのは、この世界のみんな!!・・・トウガもこの世界の人でしょ?」




 ーーーー「おれたちのだいすきなみんなが・・・!!ずっと、笑ってたのかなあ・・・!!!」




 

 「猛猪もうい!!!!!」 「シャクティ!!!!!」




 ザン!!!! ドオオオオオォォォン!!!!




 鋼鉄の皮膚を纏うアテンドスの体から血が流れ、モーイの体を電撃の光線が包んで焦がした。








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