二章二十話 「邂逅」



 「うぅ・・ぐぁ・・・!・・ってめぇ・・!!いつの間に・・・!?」




 謎の力で壁に押し付けられている。振りほどこうにもまるで緩む気がしない。その間にも、大将であるアテンドスは結晶に近づく。




 「待ち、やがれぇ!!・・ハァ・・ハァ・・・。戦いの途中だろうが!!逃げてんじゃねぇぞ!!!」



 「・・・・!」




 巨体がこちらを向く。根っからの武闘派であろう彼にも、このような決着は不服であるやもしれない。それでも。




 「・・・言ったはずだぞ、ボス。手は抜いてくれるなよ。それを手に取らなければ、ここまで来た意味はないのだぞ。」



 「クスニク・・・。分かっている。見失いはしない。」



 謎の力を放つ元凶、小さい背丈をしたクスニクが大将の勝手を抑制する。足元には、抵抗したであろう老人、ケッテツが壁に打ち付けられて血を流している。




 手を伸ばせば届く距離に、結晶がある。



 「長年追い求めたものを、結果を!!私に、、私を証明してくれ!!!進化の石よ!!」




 発光が強くなる。薄く緑色に輝いていた石の光は、赤黒く色を変えた。




 「おぉ・・・。おおおぉ・・・!!遂に、呪いが解除されたのか・・・!!私のもとにも奇跡が訪れたのか・・・!!!」




 赤い光と黒い闇が交錯する。結晶が放つものは光だけではなくなり、目も開けられぬほどの突風が巻き起こる。



 「がっ・・オオオアアアァァ・・・!!!」



 阻止しなければならない。もし名の通り"進化"でもすれば、手に負えなくなる。そう必死にもがくが、それでも拘束は千切れない。



 黒と赤の渦が彼を取り巻いている。ついに姿も見えなくなるころには、痺れる空気による発汗が抑えられなくなっていた。




 震えが止まらない。吹き出る汗が、光りにより血と遜色なく変えられる。圧力が加えられ、自分の体を滴るこれは、本当に汗なのかさえ分からなくなる。




 「・・・・!?・・・・!ーーーーーーーー!!!!」




 不思議と体の拘束が解けた。クスニクと名乗るものの姿が見えないことに気づき、それよりも止めるべき超常現象があると気づき、歩を進めようとするも進めない。永遠と壁に押し付けられている。





 ーーーー「進化ぁ?ありゃあ生態系を狂わすクソみてぇな道具じゃ。ガラクタ作り続けるわしが言えた事じゃないが、それほどまで物騒なもんだぞ?」




 重い足取りを、それでも進める。止める兆しがミリ単位でも残っているのなら。




 ーーーー「・・・・わかった。場所を教えてやろう。だが!誓って絶対に使うんじゃねぇぞ!?使おうもんなら一生ここへは入れさせねぇし二度と会うこともねぇ!!わかったな!?」




 四肢がもげそうなほどの圧力にさらされながらも、渦に手が届きそうな位置につく。剣は重いため置いていくしかなく、残った手を伸ばす。




 ーーーー「ーーーー・・・・・ねぇ!!トウガはさ!進化してみたいっ!って思ったことないの?・・・・。そっか。そんなに弱いのに?・・・・・・うははははっ!!なにそれ!そんなのおバカでも考えないよ!!・・・でもさーーーー」




 ゴオォッ!!!




 空間が揺れるほどの衝撃が巻き起こる。進んだ事実を上書きするように壁へと吹き飛ばされ、意識が飛びかけた。




 目を覚ますと、先ほどの勢いが嘘のように静寂が広がっていた。結晶は相も変わらず赤黒い。




 そして中心に、やつがいた。




 緑であった肌が赤黒く染められており、黒い模様が刺青のように入っている。多くついた傷が跡形もなくなって消えていた。




 「・・・・不思議だ。私が私でない感覚は予想していたがそれ以上に、これほど冷静でいられるとは。」




 自分の体の変化を一通り見ると、入り口に目を移した。




 「おめでとうございます。ボス。これであなた様も、強者の仲間入りでございます。」



 「・・・あぁ。・・・・・。・・・クスニク・・・」




 アテンドスが話し出そうとする直前、見計らったかのように一人の女性を呼んだ。




 「ボ、ボス!!ついに進化なされたのですね!!おめでとうございます!!」



 「・・・リットオッド。」



 度重なる戦闘で汚れ疲れ切った女性、リットオッドが視界の端に映った。だがその表情は喜び以外のものが色濃く残っており。




 「こんな喜ばしい時に申し訳ないですが、伝えたいことがあります・・・!騎士団長が・・・英傑が現れ、、、デストを始めとした大勢がやられています・・・!!こちらに来るのも時間の問題かと・・・!!」




 「そうか・・・。時間切れか。案外早かったな。」




 ただ静かに、二人は大将の言葉を待っている。目的を果たしたというのに歓喜の色が見えないほど、絶望的な敵が迫っているのだろう。



 アテンドスは天を仰ぎ。




 「お前ら、"最後の命令"だ。生き残りを連れて都市を出ろ。そしていつか私の意思を継ぎ、必ず実行に移せ。」




 リットオッドは放心する。見違えるほど強くなったボスから聞いた最初の言葉が、最後の命令など誰が予想できようか。




 「そん、そんな・・・!!待ってください!!どういうことですか!?アテンドス様!!」




 クスニクが抵抗を許さず、止まらせずに撤退する。見届けた大将は、この場に残ったトウガに視線を戻す。



 「・・・逃げてもいいぞ、トウガ。追いはしない。」



 「・・・阿保か。俺は、ビビっちゃいられねぇんだよ・・・!!」




 剣を握りしめることで震えを止める。少しの笑みを見せられ、余裕に対する対抗心がさらに震えを抑える。




 「刀 ・ 豪断・・・!!」







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 スライムを抱えて、迫りくる恐怖に追いかけられている少年がいた。収まったころには息も絶え絶えで、都市との距離も、門が見え始めるところまで戻ってきていた。




 「・・・ハァ・・・ハァ。だ、大丈夫か!?ミウ!なんかいけると思って太陽吸収させまくったけど、具合悪くないか!?」




 未だ動きによる返答がなく、ますます不安は増すばかり。仕方なしに、都市の方へと歩き出した。



 ーーーウゥ。



 ?なにかうめき声のようなものが聞こえたな。一般人なら避難方向としては合っているかもしれないが、大怪我の可能性がある。だからといって何もできないが、周りを見ても姿が見えない。




 ーーーマスター・・・。



 マスター?どこかに師事しているのだろうか。それでも場所が分からない。図らずも人間を探してしまっていたため、異形種の可能性も考えて見回す。




 「ますたー!!」



 「うおっっぷ!?」




 ぴくりとも動かなかったミウが、勢いよく真っすぐに顔へダイブしてきた。え?どういうこと?とりあえず力任せに引きはがす。




 「ーーー!ちょっと待て!!窒息する!!・・・・。ってか喋れたのか!?」



 「あっ!ホントだ喋れる!マスターと会話できるー!!」




 本人でさえ今気づいたらしい。口なんてものどこにもついてないのに、どうやって喋っているのか。なぜずっと喋らず、今になって話し出したのか。ただそれ以上に、




 「・・・マスターってなに?」



 「?」









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 この戦争が始まってから、大分時間が経った。都市より南に昇った第二の太陽を処理しに向かい、帰宅中のアメル。中央からやや外れた位置の地下にて、親玉と対面中のトウガ。そこからさらに時間が経つ。






 都市から見て南の門。アメルが初めて都市へと入った入口であり、北門と等しく戦争とは遠い場所にあった門の一つだ。人の数は少なく、一般人の避難もここから行われた。



 都市の騒ぎが収まりつつある今、数人がそこでいざこざを起こしていた。




 「オイオイオイ!なに俺らの道塞いでんだよぉ!!クソガキがよぉ!!」




 一人は割れた眼鏡をつけている犬獣人。地に倒れている一人の人を蹴りつけていた。他にも4人の人影が見えるが、状況を静観している。




 「おい!!てめぇらもなんとかしろや!!この場から逃げんだろぉが!!」



 「「「「・・・・・・。」」」」



 「・・・チッ。しけたやつらだぜ。・・・てめぇがどかねぇからこんな空気になってんだろうがよぉ!!そろそろどけや!!」




 痛めつけられ、それでも敵にしがみつくのは一人の少年。




 「どか・・・ない・・・!!おいらが、、ここをどいちまったら。あいつに、サリートに合わせる顔がねぇだろうがぁ!!」



 「知ったこっちゃねーよ!!どけやぁ!!」




 少しの間続いた二人の掛け合いに飽きてきた一人が、謎の力でハークンを持ち上げる。




 「面倒なのはすぐ消せばいい話だろう。」



 「ぐ・・!?うぅ・・。」



 もはや意識を保っているだけでも限界の少年は、今にも失いそうな気を持ちこたえて睨みつける。そして顔に、無理にでも笑みを浮かべる。




 「へへ。殺るなら殺れよ・・・!お前らなんか、サリートが、メクが。めちゃくちゃかっけぇやつらが!絶対にぶっ飛ばしにくる!!逃げ切れると思うなよ・・・!!精々首洗って震えてろ、馬鹿・・・!!!」





 ギギギギギギ・・・!!





 首に圧力がかかる。薄れゆく意識の中、その声は確かに聞こえた。






 「なにやってんだ・・・!!お前ら・・!!!」




 金髪が、怒りの顔をまばゆく照らす。青色で丸い、隣にある明らかに自然物ではないものが、金という色をさらに引き立たせる。





 アメルには見えている。



 威圧しようとする犬獣人、モーイ。不気味なほど表情を変えないリッツァ。気分が最悪でこちらを忌々しく睨むリットオッド。雑魚の一匹だと見下しているクスニク。




 血でまみれているが、確実に自分の意思で動いているであろうトッカ。



 「・・・。おい。その首にかけてるやつ、どっから奪った。」



 低身長のゴブリン、クスニクの首には、とても似つかない首飾りがかかっている。あの日見た子どもがつけていたような、可愛らしい首飾りが。



 「・・・いちいち覚えてはいないな。それがどうした?」




 ミウの雰囲気が変わった。アメルの顔がみるみるうちに鬼の形相と化していく。




 ここにいるほとんどのやつの名前は知らない。だが、そんなことはどうでもいい。





 「覚悟しろよ・・・!!クズ野郎どもが!!!」









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