二章十九話 「リエン vs イージア」



 西の門近辺、数えるほどの人だけを残しており、交わる戦いは一つだけ。だが、その戦いは一方的な痛ぶりである。



 「ぎひひひひひひ!!!どうしたぁ~!?ちょこっとギア上げただけでも~うヘトヘトかぁ!!?」



 木製の武器をいくつも取り出すも、一度防いだだけで割れて使い物にならなくなってしまう。衝撃は腕から伝わっており、痺れる腕を、それでも負けじと対応を試みる。




 「魔法で男女の差が埋められ、差別も横行しない時代ぃ~!?ナマ言ってんじゃねーよぉ!!昔から戦争で戦績を挙げてきたやつのほとんどは、ドべ連中でも女共でもねぇ・・・!!駆り出された男共で埋め尽くされてんだよぉ!!!」




 傷が身に染みていく。壁に激突するたび、骨に染みていく。血を流しすぎたのかもしれない、戦場の空気で気圧されたのかもしれない。どちらにしろ、限界が近づいていた。




 「時代は戦争にあり!!だから時代は男にこそあるんだぜぇ!!!」




 爪が迫りくる。顔を潰してしまうほどの威力を持った攻撃が、眼前に迫り。





 ガアァン!!




 イージアの体が吹き飛ばされた。弾丸のように速く、何が起きたか視認する暇もないまま、ただ茫然と見ることしかできない。



 吹き飛ばしたのは、女性だ。短い髪を振り乱し、力の限り拳を振り下ろしている。そして頭部には、二本の角が生えていた。




 「時代に名ぁ残すのが、そんなに偉いか・・・!虎の威を借りる犬風情が・・・!!」




 彼女の名は"リエン・リビューテシア"。魔人の一人である。思わぬ増援により警戒するも、心のどこかに安堵が芽生えたことで疲れが表面化し、その場で膝をついた。




 「・・・こいつの相手、私がやっていい?」



 「・・・ああ。俺に構うな。」




 二つの意味でだ。味方であったとしても、敵であったとしても、自分に構わず殴り合って欲しい。




 「・・・・。あんた、自分のこと色々隠しても良いことないわよ。」



 「隠しているつもりなどない。」



 「あっそ。」



 隠していないのは事実だ。自分が女であることを隠したつもりはないし、正体を偽った覚えもない。自分の成りたい姿に成ろうとしているだけだ。




 イージアが起き上がる前に、リエンは猛スピードで近づいて行った。







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 「ブゲラッ!?ブヘッ!!?ゴッ?」



 猛攻撃を食らわせ、反撃の隙を与えない。木に激突させて怯んでいるところに追撃をかける。出してくる腕をつかんで放り投げ、木に着地しようとする奴のどてっぱらに膝を食らわす。




 「ギッ・・・がっ・・!?」



 何とかして攻撃しようとし、再び突き出した腕をつかみ、顔面に拳をぶつけた。その手を広げて顔を鷲掴み下へ、地が抉れるほど押し付ける。



 拘束を解き、今がチャンスだと足での不意打ちを狙ってくるが、顎を蹴り飛ばして正面の木ごとはるか彼方へと吹き飛ばした。




 建て直そうとするイージアの口からは、血が流れている。殴打の応酬により体にガタが来ていた。歩み寄る女性には、未だ余裕が見える。



 「チッ・・・!なんでここにテメェがいんだよ・・・!?・・・ッ!?じゃあリビューテシアの野郎もいやがんのか!?」



 「・・・?私とヴィクラネオの二人だけど、あいつのこと?」



 焦り倒したイージアは、今の一言を聞いて深い笑みを浮かべた。



 「ぎ・・・ひひひひひひ!!!じゃああの怪物はいねぇわけだ!!こいつぁ幸運!!!一矢報いてぇと、思っていたところだぁ。」




 雰囲気が変わった。犬歯が光り、充血した目が瞬きもせず見定める。不気味さを感じたリエンは最速で地を蹴り向かう。




 「幻影葬イリュージア・・・!!!」



 拳は空振りに終わり、笑い声が響き渡る。



 「捉えれるもんなら捉えてみやがれぇ!!!闇魔法も使えねぇドベがよぉ!!!」



 存在は確かにそこにいる。だが、場所がわからない。すると、突如として体が切られた。反射で体をずらして致命傷は避けたが、攻撃が収まるわけではない。



 第二第三の切り裂きが迫るも、場所が特定できない。同時に数か所が攻撃されることもあり、分身の可能性も出てきた。そうすると、一人を掴んでももう一人が助けるという戦法が取れてしまう。



 「めんどくさい・・・!!」



 一つでも失敗を犯せば深い傷を負うこと間違いなしであり、気が抜けない。なにかわかりやすい弱点でもあれば良いのだが。



 「・・・!」



 木陰が広くて見えなかったが、少しの木漏れ日に見知らぬ影が映る。試しに拳を振るってみると、悲鳴をあげてなにかがぶつかる感触がした。



 「なるほどね。」



 来た道を引き返す。なぜこれほどまで殴られても勝機を見出していたのか。影が残る弱点を持つのであれば、影が多いこの区域は、彼にとって最高の狩場だったというわけだ。



 フィジカルでは圧倒的に差がある。追いかけっこなら負けはない。場所が特定できれば何人いようと対処ができるだろう。




 「あほかぁ!!させねぇに決まってんだろぅ!?何のために、永遠と殴られてやってたと思ってんだぁ!!」



 「!?」



 自分が対処できないほどに、勢いが増していく。避けや受けに全集中を使われ、一歩が踏み出せない。



 「チッ・・・!あんたさっきまでのヘタレはどうしたの!?」



 空気の感触から感じ取り、顔面に迫る爪を避けた瞬間、胴を足で蹴とばされる。後ろは木。後方から現れることはないため、正面を思いきり殴ろうとするが。



 ザン!!!



 「ぅ・・・ぐ・・・!?」




 右腕が爪に突き刺さり、木に縫い付けられるように止められた。すかさず左腕を出すも、そちらも爪が突き刺さる。




 「・・・俺はよぉ。一生懸命計画を立てたやつの、どん底の顔を見るのが大好きなんだよぉ・・・!!」




 攻撃される恐れがなくなったからか、隠していた姿をさらけ出した。両の手で押し付けるようにして動きを止めてきている。




 「だからこそ、こそこそ動き回るネズミのことをやつらに言わなかった。そしたらどうなったと思う!?立て続けに邪魔が入り、英傑が帰ってきて、作戦はぜぇ~んぶパーだ!!ぎっひひひひひはははははは!!!!顔が見れねぇのは残念だが、さぞ気持ちのいい顔をしているだろうなぁ!!旦那はよぉ!!!」




 「・・・何の話?私には関係ないんだけど。」



 急に高笑いをして、行動不能のこちらを見ずに余裕をかます。まだ動かしていない足で、確実に狙いを定める。



 ボコッ!! ザクッ!!



 「おっと無駄だぜ?俺は計画通り流したい性分なんだ。」



 地面から現れた手に両足を刺された。この間中、ずっと地中で待機していたようだ。




 「知ってるぜ?リエン・リビューテシア。テメェは徒手空拳しか使えねぇらしいな!!俺にとっちゃ、こんな好都合な魔人はいねぇ!!・・・親玉によろしくなぁ。俺の危険度を、いっっっぱい語ってくれや・・・!!」



 長い間話しているイージアの背後から、新たなイージアが出てきて爪を突き出す。本格的に殺しに来た。





 「フン・・・!情報が遅いのね。」




 両の手から火花が散る。異変に気付くも、すぐに対処できるほど小さな技ではない。




 「爆発魔法。EXPNエクスプロージョン・・・!!」





 ドオオオオオオオォォォォォン・・・・・!!!!!




 辺り一帯を丸ごと吹き飛ばした。解放されたリエンは息を整え、追撃に備える。




 「・・・!?・・・!!!???・・・ぐぁぁ・・・!?そりゃ反則だろうぉがぁ・・・!!」




 「もう、あんたを遮る木陰はどこにもないわね。どうするの?もう一回、おびき出してみる?」




 黒こげのイージアは、忌々しくリエンを見ていた。自分が計画を潰されれば、こうも醜い顔となるのか。



 それでも姿を消して、攻撃を試みるらしい。影にみの姿となり、それが四つに分断された。その四つが迫りくる。




 「四牙獣チティビースタ!!」


 どこにいるのかがわかれば容易い。来るであろう場所を予測、空気で感じ取り、避けと共に拳で沈める。それを四回。勢いが増したところで、フィジカルは依然、こちらが上だ。




 「お・・ごぉ・・・!?つ、ぶす・・・!潰す潰す潰すつぶすぅ・・・!!!」



 大きく跳躍して後退し、右腕に力を込めた。メキメキと大量の腕が生えてくる。細い腕や筋肉で膨張した腕、様々なイージアの腕は集合体となり、手ではなく、ただの蠢く巨大な物体となり果てる。




 「幻影万切裂イリュジシーバイトオオォォォ!!!」




 それでも速さは衰えない。すぐにでも距離を詰め、数舜後にはなにもかも引き裂く腹積もりだろう。




 「あんたなんて・・・所詮幻影。ドベでしかない・・・!」



 両手を前方にかざし、比にならないほどの火花を散らす。手元ですでに小さな爆発が起こっているが、それを無視してさらに大きく溜める。




 「FPフルパワー ・ EXPNエクスプロージョン・・・・!!!!」




 辺り一面が爆発の前の発光に包まれる。前を気にせずイージアは突っ込み、腕に生えている大きな物体を力任せに振る。





 ドゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォン・・・・!!!!!!




 ゴオオオォォォ・・・!!!




 空間ごと、爆ぜた。






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 ボロボロの服装をしたリエンは、真っ黒に焦げたイージアを門の前に投げ捨てる。




 「・・・なんでもういないのよ・・・!」



 さっきまで膝をついていたサリートは、姿を消していた。仕方なくそこらへんに放置しようと思った矢先。




 「お、、おね、がいします・・・。」



 声の方へ向くと、一人の女性が、こちらに救けを求めていた。



 「おねがいします・・・!!ハークンを・・・あの子を助けてください!!!」









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