二章九話 「第二の太陽」
日が昇り始める早朝。少量だが睡眠時間のとれた一行は、持ち場についていた。
ーーー「人材なら僕らが、この夜間を使って集める。そんなに多くは無理だろうけど、一方向を防衛するくらいであれば十分なほどは集めてみる。そこからの采配は明日考えよう。」
そこは川の音がよく響く場所。近くには山があり、その周辺を木々で囲っている。まだ眠そうに防壁にもたれかかるのは白馬獣人ハークンと、黒髪女性メクだ。腕を組んでただ静かに時を待つのは、色彩服を身に着けて顔の下半分を隠すサリートだ。
ーーー「それは手間だな。個々の能力を聞いている暇はない。適当に四等分するのが速いだろう。」
「もう食べれねーよバカァ。海苔(のり)中心に・・・!海苔中心に肉とか投げられてもぉ!」
「ふへへ。サリートさんとトウガさんのカプ可愛い・・・!サリトウ・・・!」
寝ぼけが過ぎている二人を叩き起こしてやろうとも思ったが、昨日は忙しかったのだ。さすがに敵が来たら起こすが、今は可愛そうなだけである。
ーーー「四等分も分けなくて良いんじゃないでしょうか。まず邪縁の森、南方面は最近、謎の災害により通行止めと調査に入っています。相手の目的が"都市への奇襲"であれば、それ以前に報告される可能性のある地域で戦闘準備などしないはずです。もし来たとして、そちらは守備が厚い方角です。」
早番の門兵がこちらを不思議そうな目で見るが、すぐさま仕事に戻った。門とは少し離れた位置にいるので、通常業務の邪魔にはならないはずだ。
ーーー「北方面はわかるよー!もし他の都市から助けが来るとき、ほぼそっちから来ちゃうからね!挟み撃ちは嫌うでしょ相手も!」
「・・・・休心の林道のある東方面は、味方を集めた信縁の旗に任せる。こちらは仕込みに入ろう。」
ーーー「はぁ!?じゃあ西方面はおいらたち4人でやるのかよ!?・・・・・は?作戦がある?百を超えそうなやつらに本当に通じるのかよバカ!」
ある程度の道筋は考えたが、実際に目で見ないとわからないものだ。少しのズレでも失敗につながる。失敗は敗北に直結し、敗北は都市の壊滅を意味する。いつも以上に入念に、戦わずともこれで終わらせるつもりで仕掛ける。
ーーー「ひ、避難勧告を出しましょう!どこか広告塔でもあれば良いのですけど・・・。」
注意は出しておいた。冒険者ギルドの長、シュガードは協力的で、即席の広告を都市内に広めてもらった。ソグルコ王も協力はしてくれて、外来の商人や観光客には北方面のみの審査をお願いするよう通達してもらった。昨日の今日なのでどれほどの効果があるかは未知数だが、やっておくに越したことはないだろう。
ーーー「そしてトウガ。お前の役目は、俺たちと共に西の防衛。・・・ではない。」
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ーーー「アメルを救い出せ。それができるのは、お前しかいない。」
そこは公園の端。猛威を振るい始めた暑さを木陰に隠れてやり過ごしながら、計画について反芻する。
「俺がやみくもに突っ込んで行っても意味がねぇ。引っ搔き回して欲しいもん奪う!それが俺の役目だ。」
勝てないことを知った。何もできないことを知った。だからこそできることがある。一人ではできなくとも、できるようにしてくれる人がいる。であれば全力で助けてもらう。それが俺のできることだから。
「緑色のお兄さん!こんなところで何してるの?」
少女の声により我に返り、すぐ目の前を見る。そこにはいつぞやの、おさげの少女が立っていた。親がいないため登園ではない。すると公園に徐々に子どもが集まって来たため、お遊びの時間だと気づいた。
「あい。俺は今から、友達を救いに行くんだ。」
「あ!あいの名前覚えててくれた!いちごうさすが!!」
「いちごうって言うな!俺はトウガだ!」
張り詰めた気が緩くなっていくのがわかり、笑顔が戻っていく。
「・・・・一つお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」
「うん!どんとこい!」
公園は子どもたちで埋め尽くされていき、老人夫婦もベンチで小休憩を取り始めた。二人の子どもが駆け寄ってくる。あの時のタロとカイだろう。
「先生に、今日だけは避難して中にいて欲しいと、冒険者が言っていたと、そう伝えてくれ。」
「?・・・そうするとどうなるの?」
「どうなる!?・・・・俺が嬉しくなる?」
考えてもいなかった返答により、なんだか意味のわからない返しをしてしまった。目的の場所へ行かなければいけないため、子ども伝えに言おうとしたが自分で言うべきだろうか。
「・・・いいよ!」
「ん?」
「あいは好きな人を笑顔にしたいの!!好きな人っていうのは、この世界のみんな!!・・・トウガもこの世界の人でしょ?」
「・・・なんだそれ!そうだよ。俺もこの世界の一員だ。ありがとな!将来のトップアイドル!!」
目いっぱい腕を広げて、自分なりに規模の大きさを示している。お礼と信頼を託して、トウガはその場を後にする。
急がなければならない。この都市を守るなんて大層な目的ではなかったが、少しだけ守りたいものがあった。だから急がなければならない。
昇り切った朝日が暗闇を照らし、住民を輝かせる。いつもと変わらない朝日が暑さを振りまき、いつもと変わらない汗を流させてくれた。
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ゆらゆらと蠢く"なにか"があった。その"なにか"は天高く昇り、都市一体を照らしている。明るいようで暗いそれは徐々に大きさを増すようで、遠くからでもその存在が視認できるようになった。
「なんだあれ。・・・・・太陽が二つある?」
気づく人も増加し、興味本位で撮影する者まで現れる。
どこからか地響きが鳴る。都市全体が揺れているような、防壁が揺れているような。
ドガアアアアアアアァァァァァァン!!!
悪夢は訪れた。
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