二章八話 「役者は揃った」
「時間がないんだ。そろそろ本題に行こう。」
出されたハンバーグ定食をつまみつつ話を始める。今にでも襲撃が開始される可能性があるのだ。早急に決めるが吉である。
「・・・にしても4人か。」
ケッテツは戦闘員ではないため、実質的に対抗戦力はこの机を囲む4人のみとなってしまう。明らかに無謀な挑戦であり、迎え撃とうものなら頭にさえ辿り着かず沈むのが目に見えている。
「一点集中を読んで張るか、東西南北の門ごとに分かれるか、どちらにしろ時間稼ぎが精一杯だが、より長く粘れるように一点集中を狙うか?」
「四分の一を引き当てる自信があるか?襲撃したっていう事実があれば他のやつらは嫌でも動くんだ。長時間粘る必要もないだろ。」
暗殺のような手口さえされなければ、たとえ一点集中でもわざと煙か音を起こして他に知らせれば良い。門番もいる。軍や冒険者が動くまでの時間は長くはないだろうが短くもない。4人が一堂に集まり総力戦を起こせば、数分くらいであれば粘れるはずだ。
「も、もし四方に分かれたとして、何百の規模なんですか?ひ、一人で百以上なんて荷が重いですよ!」
「ビビってんのか?メク!!おいらなら雑兵の十でも百でもぶっとばしてやるけどな!!」
椅子から立ち、調子に乗って足を振り上げたハークンは、鉄の机に小指を強打してうずくまる。
「お!!??・・・オオォォ・・・!」
バーカと吐き捨てるトウガに反応する余力も残っていない。負傷者一名は、計画にどのような影響を与えてしまうのか。
「要するにじゃろ?敵共の動向が知れれば言い訳だ。」
ケッテツは出てきた扉へと入っていき、すぐに手のひらほどのモノを抱えて戻ってきた。鳥が翼を広げたような姿をしており、しかしよく見ると無機質な機械であることがわかる。
「こいつの名は"ムーンライトK-102"。初期型だが、空中からの索敵はお手の物だぞ!」
「おぉ!やっぱじじいの発明品はすげぇな!!便利だ!」
目を光らせてほめちぎる少年に、まんざらでもない老人。始めは仲が悪そうに見えたが、なにか通ずるものがあるらしい。だからこそここを集合場所にしたのだろうが。
「なら今からでも頼めるか?休心の林道方面へ向かわせれば何かはあるはずだ。」
「うむ。任せておけ。名の通りこいつは月光が輝く今こそ、本来の用途として使える優れ者よ!」
出入りした方向へと飛び立つK-102は羽を羽ばたかせず、見る人が見れば一瞬で分かってしまいそうである。自信満々の老人はモニターを設置して、リモコンにより操作することに集中する。
「おいちょっと待て。夜にしか使えないのかよ。」
冷静さを取り戻したトウガは一日中の使用を夢見ていたらしく、無視するケッテツを見ることで確信し、モニターを注視した。
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結果は見事的中した。小さく集団が見えており、大きく灯りを灯して騒いでいる。食を頬張る者や酒を浴びる者もいるため、どうやら野営をしているようであった。テントのような野営道具も出しているため、今夜は襲撃の気はないらしい。それだけでも十分な情報と言えるだろう。
中央には見覚えのある緑肌の総大将。気味の悪い笑顔をする犬獣人などのその他大勢が集まって食事していた。
「・・・え?これ音は聞こえないのか?」
ジジジ・・と耳障りな音が聞こえる他、一切の音は取得できていない。この映像だけでも御の字だが、それでは計画における進歩はない。
「鳥を基としたじゃろ?だからかもしれんなぁ・・・」
「鳥は耳良いんだよ。」
初期型と言っていたため、大方故障で間違いない。もう少し近くで動向を探ろうとしたその時、
「ァ・・・」
トウガだけには見えていた。小屋の中で吊るされている少年の姿が。だが、今注目すべきは別にある。
「ん?さっきの気持ち悪い狼どこ行った?」
じっと見ていたハークンが異変に気付き、それを聞いたサリートは急いで引き返してくれ!と慌てるも、次の瞬間には
ガガッ!ザ・・ザーーーー・・・
画面いっぱいに爪を光らせる獣の手が現れ、砂嵐のように故障画面が覆いつくした。
「な!?・・・こんな長距離飛行、向こうからは豆粒ほどにしか見えないはずじゃが。」
「・・・・敵にはとんだ手練れがいたもんだな。」
普通ではできない芸当で、感嘆を表す一同。モニターの前から席に戻る姿は、あのハークンでさえその困難さを理解したようであった。
「やることは変わらない。それぞれ四方に散らばり、そこに来た軍勢を押しとどめる。念のため煙か開戦の音を立てろ。状況によっては助けに向かえない可能性の方が高いが、万が一がある。そもそも一点集中ならほぼ負けだ。」
報告の前に物量で押されてしまえば、ただの奇襲と状況は変わらなくなってしまうため、一点集中はこちらが不利になる最悪の択だ。願うしかない。
「あ、朝までなら休めそうですね!疲労のときよりかは動けるかも。」
「いや。僥倖には違いないが、おちおち寝てもいられない。協力者を少しでも多く集める最後の機会だ。一人より二人、二人より三人の方が防衛の質は上がる。」
夕方はやらかしてしまった分、形勢逆転を測らなければならない。冒険者パーティに声をかける方が効率的であるが、夜間は治安が悪い。変なやつらに絡まれるリスクを考えると、少人数の集団こそ効率的なのか。
簡単に計画の全容は決まるも、絶望的な面が大きい。元より決めていた俺らならまだしも、後から来た二人に死にに行けと言っているようなものだ。死なない自信もあり、それを承知で来てくれてはいるのだろうが、まだ年も若い彼らに決断させるのはあまりに酷だ。
ガアァン!!
外から音がした。
人を呼んだ覚えはない。知り合いによる用事かとも思ったが、ケッテツの顔からそのような感じはしなかった。
ここがバレたのか。思えばあの鳥は純粋な機械だと、見てしまえばわかる。どのように突き止めたかは知らないが、現に来客がいる。
4人で臨戦態勢に入り、老人はより後方へと待機する。冷汗が流れ、緊張が高まってきた。壁に出現したボタンを押す。床が開く音がし、何かが落ちてきた。
マットに落ちるは3つの人影。深く沈み込む人体の頭部には、赤青黄の三色がその個性を出していた。その中でも深紅に染まった髪色の男が前に立ち、見まわして言う。
「随分なご挨拶だね。君たちの仲間に、僕も入れてもらっていいかな?」
「トッカ!!?ってことは、お前らは"信縁の旗"か!?」
馴染みのある顔つきに、トウガは驚きを隠せない。信縁の旗はこの都市ではそこそこ知られているため、他の3人も自然と肩の力を抜き始める。
「そうだよー!最近夜間やってたんだけど、懐かしいもの見ちゃってね。あの鳥おじいちゃんのでしょ?だから来ちゃった!」
「・・・ただの興味本位ではなくてですね。あなたが偵察機なんて、非常時でしか使わないものを使っていたので心配になりまして。」
後ろから現れた黄色と青色の女性らは、ここに来た理由を詳しく話してくれた。確かに夜間であればあれを見ていてもおかしくはない。そんなことよりも、敵でない事実に安心してあまり耳が活動していないのだが。
「それに、問題児君が問題を起こしたと聞いてね。慰めに行こうとしたからグッドタイミングさ。」
「だからそれ止めろ。」
デフォルトで問題児君呼びが定着したのはいつからであろうか。実際に問題を起こした回数など高が知れているというのに。・・・起こしたこと自体が異常なのか。
「手間かもしれないが、詳しく話してほしい。僕に手伝えることがあれば何でもするよ!」
行動せずして協力者を増やすことができ、一同の目に光が灯りはじめた。行けるかもしれない。そう思わせてくれるヒーロー性が、彼らにはあったのだ。
「・・・あっ。インターホンのカメラ見ておけばよかったじゃん。わし。」
来客時の行動に、一人だけ後悔していた。
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