おまけ one-six 「アイドルも体を大切にしよう。前編」



 そこは一際大きな会場。鼓膜が割れそうなほどの歓声をその身に受けて、一人ずつスポットライトにより照らされていく。




 まずは一人目、ドッグでロックなこの男!!イかしたグラサンにイかれた練習量!そのベースの輝きは、土台の硬さの証明論!!"ニック"だ!!



 「悩んでいたって盛り上がれ!!」



 重低音が、耳に心地よく響く。




 続いて二人目、キャットが心を掴むぜキャッチ!!サラサラヘアーにメラメラド根性!そのヴァイオリンは、熱い歌に繊細さをアクセント!!"パス"だ!!



 「雁首揃えて今を聞け!!」



 打って変わって高音が、心に染みわたる。




 さらに三人目、パンダの音色はサンダーがごとき!!モノクロ模様に轟く喝采!そのドラムの色合いは、大黒柱を物語る!!"ズィーネス"だ!!



 「深海までも音(ね)を揺らす!!」



 気持ちの波に共鳴していく。




 最後にリーダー、ヒューマンが魅せるは十万馬力!!ワイルドな衣装で起こすぞサイクロン!そのギター、他の三人が織り成す土台にどんな色彩をつけるのか!?"セーラ"だ!!



 「見下ろす星さえ塗りつぶす!!」



 キャンバスへ、豪快にも色をつけた。




 知らなきゃ鳴らして聴かせてやろう!!セホキニューアのイチ押しバンドは、人心騒がすニューヒーロー!!誰が呼んだかその名前・・・




 「「「「われら!!"フォースヘッダー"!!!」」」」




 今宵も会場を、音の波が埋め尽くす。





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 あまりにも大音量だと近所の迷惑になるため、会場全体に音を遮断する魔法がかけられている。だが、壁に寄り掛かると大分小さいが漏れてる形跡がある。



 「・・・。まさか魔法の力でも借りてんのか?」



 音響等に対する魔法の行使は、当然のように行われている。舞台役者本人が魔法を使うことを禁止されているのだ。世の中には、変な使い手もいる。



 今日のトウガは護衛の仕事を任されていた。大規模な催しのため、騎士や冒険者等の数十人体勢での護衛。単純な討伐に比べるとつまらないが、割が良いのでしょうがない。それに、今日はなんだかのんびりしたい気分だ。




 同業者の護衛に泣きつく者がいた。それも数人単位ではない。事前にチケットを買えなかった者、当日の時刻に遅れた者と様々だ。もちろん通す者は誰一人いないため、ほぼ死人状態でうなだれる集団となっていた。



 ・・・・・。



 そこにいて欲しくなかったやつがいる。段差にて、膝に肘をのせて座り、目が死んでいる男。



 「・・・・あいつ、何やってんだ。」



 金髪で右ほほにやけど痕のある少年、アメルだ。死にかけ集団に混じっていて気が付かなかった。するとフラフラと歩き出し、会場の外へと移動する。



 周りを不安げに見まわし、こちらに気が付くこともなく安全を確信した。雰囲気が変わる。



 自らより上を見据えて腰を落とす。戦闘態勢ともとれる行動から、何をしようとしているのかわかった。




 跳躍して上から侵入する気だ。




 「3・・・2・・・1・・・!」



 「させるわけねぇだろうが!!!」



 勢いをつけて飛び蹴りをかます。侵入者を一人でも出したら給料から引かれてしまう。ましてや知り合いからとなると、信頼に関わる事態だ。




 「またお前はギャンブルだのバンドだのに手を出そうとしてんのか!?趣味が多いのは良いことだが、その金どっから出てる!?大して稼げてねぇだろ!!」



 「開幕グサグサ刺してくんな!?くじを引いたのはあれ一回きりだし、今回は俺がやりたくてやってるわけじゃないの!!依頼なんだよやべぇんだよ・・・!!」



 焦り倒す姿を見て、大体察しがついた。今日はアメルとは一度も会っていない。D級冒険者に対する依頼は、少しでも油断すると秒でなくなる。



 「大方、寝坊でもしてE級への依頼しか受けられなかったんだろ。適当に受理したらライブの席取り。時間まで余裕があると高をくくっていたら、もう遅い。」



 「1~100まで当てられた。」



 依頼の失敗等は本人の信頼を落とす。信頼を落としすぎると、依頼を受理するのにいちいち審査が必要になる。面倒なうえ行動の範囲が狭まるのは、誰も望むことではない。




 「上からでもライブは見れますよって、屁理屈通そうとした。」



 「壁よじ登って見に行くバカがいるか!!厳重注意じゃ済まねぇぞ!!?」



 下手したらギルドに報告が行く。そもそも、依頼人が登れないのではないか。




 ・・・さっきから何かがいる。




 よじ・・・・・よじ・・・・・。




 「・・・いるじゃん。壁よじ登るバカ。」




 まさかバカの先客がいたとは露ほどにも思わなかった。人一人分の高さしか登れていない、滑稽な青年が見える。




 「何やってんだコラ。」



 「うわ!?ちょっ・・!ちょっと待って!!死んじゃう!!落ちたら死んじゃうかも!!」



 服を後ろから引っ張ると、アメルとは別ベクトルで焦り倒す。地上から手を伸ばして上着の裾を掴めているので、落ちても傷にすらならない。



 「ぁぎゃああああぁぁぁ!!?」



 ルール違反は青年の方だ。躊躇なく下へ引きずり下ろす。冷汗をかいて尻もちをつき、こちらを振り返る顔には見覚えがあった。




 「危害なんて加えないから見逃してくれよぉ~。ふひっひっひゴホォ!?ガハッ!?おえっ髪の毛入った・・・!!」



 白と黒の前髪を鼻まで伸ばしている青年。



 「「門番のやつ。」」



 「そうだよねぇこっちの名前なんて覚えてないよねぇ!!ふひっゴホォ!?ガハッ!?」



 笑うたびに髪の毛が抜けて口に入るなら、髪の毛切ればいいのに。実際問題、彼への印象はおちゃらけた門番でしかないのだ。街を守れているのかも怪しい。




 「そうだ!ここで取引をしよう!見逃してくれたら名前を教えてあげる!!どう!?」



 「いや・・・。別に知りたくねぇし。」



 「僕の名前はレカン!!それじゃバイバイ!」



 「待てコラ。」



 力が無いなりに、必死に抵抗するほど急いでいる。どうせ上へと登りきる頃には日が暮れているので、せめて止めてあげる。もはや優しさになっている。




 「早くしないと・・・!!早く上に行かないと、妹のライブが・・・!!」



 「妹ぉ・・・?」



 抵抗むなしくうなだれた青年は、地に両手をついて絶望を表現した。レカンという男の妹が、この大舞台でライブをしているのだろう。ならば余裕をもって席をとればよかったのに。なぜ誰もかれもギリギリになって行動するのか。




 「てか、ライブ中継なら液晶から見れるだろ。妹ってのには怒られるだろうが、見ないのと比べたらマシじゃねぇのか?」



 「・・・!た、確かに!!見るという行為に意味がある!!」



 表情は見えないが、元気を取り戻したであろうレカンが会場を後にしようとする。後は上を眺めるアメルを追い返したらすべて終わる。



 無事に終わりそうで良かった。



 「・・・・あなたたち、そこで何をしているんですか・・・?」



 声のする方を見ると、派手な衣装を着た女性がこちらを見て警戒していた。その顔を見たレカンは雰囲気を一転。



 「・・・あ・・・。」



 「おい・・・やめろよ・・・。」



 今日は面倒事なしでのんびりしていたかった。アメルがいると、たとえこいつ始まりでなくとも何かしらの出来事が起きる。こいつ、さっきからずっと上見てんな。諦めろ依頼は失敗だよ。




 「間に・・・合わなかった・・・!」




 だろうな。そんな気がした。









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