おまけ one-seven 「アイドルも体を大切にしよう。後編」



 「冒険者の方々でしたか・・・。お勤めご苦労様です。」



 会場の中ではあるが、どこかよくわからない部屋へと案内された。その服装を見るだけで、舞台に立つ存在であることは容易に想像がつく。



 案内された俺たちは、女性と向かい合わせになる形で椅子に座らされた。



 「どうぞ楽にしてください。・・・・・。・・・あの人は何をやっているのですか?」



 「・・・気にしなくていいです。ただのバカなんで。」



 一番対面しなければならないレカンは、部屋の角っこでうずくまっていた。彼なしで話を進めていくしかない。




 「・・・・単刀直入に聞ききますが、なぜここまで案内を?ご丁寧に茶まで用意して。」



 自分たちの素性を話しただけでここまで連れてきた。のこのことついて来た方も来た方なのだが、一番おかしいのは向こうだ。



 「そういえば、俺の依頼人が見たいって言ってたグループのリーダーにそっくりだな。たしか・・・フォースヘッダーだっけか。」



 「・・・はい。私がフォースヘッダーのリーダーを務めているセーラです。」



 広告のビラにて、衣装ごと何度か見たことがあるので、誰でも正体には気づけるだろう。そんな人物が人目を盗んで部外者を呼んでいることが問題なのだ。




 「実は、この後のライブ、手伝ってほしいんです。」



 想像通り、個人からの依頼の申し込みらしい。時々いるのだが、ギルドの仲介なしに自ら依頼を申し込み、依頼料などは後日相談。迷惑極まりないが、まさか金を持っているであろう人物にやられるとは考えたくもなかった。



 「かなり切羽詰まった状態でして、出合い頭に頼む形になってしまいました。お願いできますでしょうか?」



 人物贔屓してはいけない。何が噂となって面倒事に発展するか、予想するまでもないのだから。




 「悪いですが、そういうのはギルドで正式に依頼の方を」



 スパアアアァァァァン!!!



 アメルにスリッパでひっぱたかれた。



 「??????」



 状況を理解できていない内に、話は展開していく。



 「任せてください!!困り事を抱える者のためならば、たとえ火の中水の中あの子のスカートの中!!では、詳細の方を。」



 水を得た魚のように目に光りの宿った金髪野郎は、さも仕事モードに切り替えた風を醸し出す。仕事への姿勢なんて大して変わらないくせに。



 「おい待て!そんなホイホイと受けて、後で何言われるか・・・!!」



 勝手な行動を塞き止めにかかると、背後から何者かに掴まれる。レカンだ。



 「ほらほら!!内容は彼に任せて、君はこっちで僕と顔縛りゲームでもしよう!!顔を縛って何分間息を止められるか勝負!ほどくかどうかは相手次第!!」



 「ふざけんな!!殺す気満々じゃねぇか!!・・・くそっ!なんで力強くなってんだよ!?」



 抵抗むなしく連れていかれる少年を尻目に、バンドリーダーからの説明が始まった。







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 「ったく。勝手なことしやがって。」



 一度受けると言った手前、断るに断れない。せめてもの愚痴を張本人に小さくぶつける。



 「巻き込んで悪かったよ。けどチャンスだ!席はとれなかったけど、依頼人のための単独ライブを開催してくれればマイナスどころかプラスだ!!」



 「そううまく行くといいけどな。」




 今回の詳細はこうだ。裏方を担当している一人が原因不明の病に襲われる。ライブは一時中断となったが、何とかして続けることにしたそうだ。



 「・・・すごく辛そうな顔をしていたんです。ライブは中止してはいけないって。自分の命が危ないのに、看取ることもさせてくれない・・・。」



 根性だけではどうにもならず人手を増やすことにし、真っ先に出会ったのが俺らというわけだ。力仕事を中心とした裏方作業を任された。




 「今回はお願いを聞いていただき、ありがとうございます。えっと・・・・。」



 快く承諾したアメルに対して、お礼を言う。



 「ノリモトさん。」



 「確かに名乗ってないけど!!普通あてずっぽうで言う!?」



 相当な分の悪い賭けに出た。数憶分の一では済まないだろう。




 「まぁ、案外簡単そうで良かったな。ノリモト。」



 「ノリモト言うな。」



 本番まであと十分。他の裏方が倒れた人の分の技術的作業を行うため、早くも持ち場についている。普通ならこんな事態、中止するはずだが。



 「が、頑張るしかないよね・・・!彼らを求める人たちがいる・・・!!そのみんなのためにも・・・・っ!!」



 「お前力仕事できる?」



 一生懸命に重いものを持ち上げて運んでいる姿に、思わず心配してしまう。




 キ―――――ン・・・!!!




 どこからか音が聞こえた。もうすぐ始まるのだろうか。



 「よし、やるからにはやってやる!急げ!ノリマキ!!」



 「アラレちゃんじゃねぇんだよ。」



 遅れてそれぞれが持ち場につく。指示のあるタイミングで紐を引っ張ったり、照明用具などを運んだりの作業だ。だが、いざ何千人以上の規模で動くとなると緊張する。




 指示が入った瞬間、ドでかい花火を打ち上げる。




 指示役の裏方が、合図を出した。




 ドオオオオオオォォォォン!!!




 照明が強く、メンバーを照らす。




 「みんな!!尺がないから巻きで行くぞ!!!」



 音の波が会場を埋め尽くす。本来であればこんな間近で見ることのできない二人は、頼まれごとはあるものの気分が乗っかっていく。



 一体感に包まれる中、ステージの裏を走り回る。人一人分、しかも重要な一人が離脱したことにより技術班はてんやわんや。仕掛けを起動させるために、三人は奔走する。




 空中に文字が浮かび上がる。花吹雪が舞い落ちる。スモークが勢いよく噴射する。どれもが場を湧きあがらせる演出だ。



 サビでは演出の頻度がさらに高くなる。丁寧な対応をしていたセーラは、汗を流して人が変わったかのように熱唱している。倒れた人の気持ちが、少しだけわかる気がした。このままラストまで突っ走って欲しい。




 そう、裏のいざこざなど気にせず。




 「捕まってもいい!!裏からライブ見るぞぉ!!!」


 「やっと会える!!!」




 会場に入れずへこたれていた者の一部が、非常識を犯した。扉を強引にこじ開けて裏から侵入する。裏口は護衛の数が少ないため、数で押されたのだろう。



 だが、観客からは死角であるため気づかれない。音が大きいため異常に気付かない。ステージでも観客席でも、なだれ込めば大惨事により中止は免れない。




 地を蹴り、懐の剣を引き抜く。犯罪者相手に気絶までなら許されるだろう。二番のサビが終わる。



 「邪魔ぁ、すんなあぁ!!!」



 十数人をまとめて切り伏せた。晴れ舞台に、血までは流させない。



 「!?」



 打ち漏らした一人が、"何か"を会場へ投げ込む。それが迷惑なファンによる物の投げ込みならば、どれほどよかったことか。



 爆弾だ。



 悪事を企む者が、乗り込もうとする迷惑ファンに紛れていたらしい。この距離では間に合わない。観客席からは死角だが、本ステージにおいては死角ではなかった。




 最悪な事態が起きる。ライブが佳境へと突入した。




 本人たちは当然気づかない。観客の中には自分らより強い者もいるはずだが、オフの状態で対応できるのか。考えない方が良い。



 続行だなんだと言っている場合ではない。今すぐに中止しなければ。




 視界に人影が映る。高い場所に待機していたアメルだ。身体強化魔法をかけて高所の足場を思いきり蹴る。



 後はあいつが何とかしてくれる。となると問題は、変な演出と受け止められて会場が盛り下がる可能性があることだ。しかし、そればかりはどうにもできない。




 アメルが公衆の面前へと飛び出す。もう、しょうがない。




 瞬間、視界を埋め尽くすほどのフラッシュと、ステージを埋め尽くすほどのスモークが立ち上がった。裏方が機転を利かせてくれた。




 爆弾を手に掴む。それをとんでもなく高い天井へと投げ飛ばした。威力の予想はつかないが、大きさはそれほど大きくないため、これが最善だと判断する。賭けだ。



 するともう一つの問題が起きる。飛び出したアメルの落下だ。楽器にでも激突すれば、機転による盛り上がりの継続も終わってしまう。



 「・・・!」



 声には出さなくとも、苦痛の色が見える。おじゃんにしたくない。だが、間に合わない。




 「さすが。盛り上がらせ上手!」




 調子のいい声を発する存在が、同じように空中へ飛び出してアメルを会場外へと持って行く。白黒の髪で目元を隠した青年、レカンだ。



 スモークとフラッシュが晴れる。




 ドオオオオオオオオォォォォン!!!!




 轟音に包まれる。



 爆弾が発火材として働き、ライブがこれまで以上の盛り上がりを見せた。



 このまま最後まで突っ走れ。






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 「ハァ・・・ハァ・・・!疲れた・・・!!」




 ライブが終了し、疲労の溜まった一同は解放されたかのように休憩へ入った。観客がどう思うかで話が変わるが、今は成功と言うことにしておこう。



 「お疲れ様!!」



 大量の汗を出すアメルのもとへ、支給された水を持って行く。



 「エホウマキ。」



 「来年の恵方巻は南南東らしいよ。」



 ノリマキからの流れに突っ込む気力もないらしい。今ならどんなノリでも乗ってくれそうだ。




 「干支の巻き。」



 「さぁさぁ!今回の物語は干支!!十二の動物が織り成す感動ストーリーを、その目その耳に焼き付けなさい!!」



 「仙道の柿。」



 「私は8年の時を経て仏を感じました。酸いも甘いもまた、人生。」



 「剣道の負け。」



 「3対1でバスケの勝利!!剣道側、フットワークに負けじと一本を取りますが、バスケ側!!捨て身のスリーポイントシュートが決まり見事!!大逆転勝利!!!」




 疲労ゆえにお互いが何をやっているのかもわからない。謎の流れで二人して盛り上がる中、背後から声をかけられた。



 「今回は、本当にありがとうございました!!」



 リーダーのセーラが、直々にお礼を伝えに来た。相当な疲労があるにもかかわらずこちらへ来るあたり、良い人だ。



 「爆弾のこと聞きました。私たちのこと、身を挺して守っていただいたようで・・・。」



 中止にせずやり切れたことが奇跡に等しい。倒れた人が見届けれたかは知らないが、何かの拍子で見れることを願う。




 「お礼なら弾みます!ギルドの仲介はありませんが、嘘はつきません!」



 思い出したかのようにアメルの目が光る。



 「では俺から一つ!!お疲れかもしれませんが、この後一度!ある人に向けての単独ライブを行ってはくれませんか!?」



 藁にも縋る勢いだが、それを聞いたセーラは顔を悩ませた。




 「・・・今日、ですか・・・。ごめんなさい。この後、仕事の関係で・・・。」



 「・・・・・。」



 あいつは終わった。今を生きるエンターテイナーなので、当然と言えば当然の話だ。それを聞いたアメルは地に四つん這いになってうなだれる。リーダーは申し訳なさそうな顔しなくていいぞ。



 「仕事はしっかりやれってことだ。」



 「はい・・・。その通りでございます・・・。」



 反省させつつもなだめている途中、ふと気づいた。



 「そういえば、レカンがいないな。・・・あなたの兄、見ませんでした?」



 「わたしの、兄・・・・?」



 それとなく聞くと、なんとも言えない顔を見せる。その意味が掴めない間に、またしても背後から声をかけられた。



 おそらく、この中では俺しか覚えがない声。つい最近聞いた覚えのある、記憶に新しい声で。




 「君、護衛の仕事どうしたの?」



 「・・・・あ・・・・。」




 仕事はしっかり、"最後まで"やれってことだ。







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