おまけ one-four 「ガキの頃の熱い思いってのは簡単に消えやしない 後編」



 「ほらほら!もう後がないぞ!」



 机の上の戦場に、嬉々として向き合うは冒険者トッカ。一つのピンポンとラケットを握りしめ、余裕の面を見せる。



 「おい、アメル!!マジで後がねぇぞ!!このままだと・・・!」



 こちらに声援を送るのはトウガ。二人の激戦を前にして焦っている。それもそのはず・・・。




 「上も下も丸裸になっちまう!!」




 少年二人がふんどし一丁だからだ。後一点でも取られたら悲惨な事故が起きてしまう。それだけは阻止せねばならない。



 「野球拳方式を申し込んだのは君たちだったね。何を期待したか知らないが、これ以上の恥は望むところではない・・・だろ!」



 対する赤髪の男は何も脱いでいない。精々靴下を脱がせてやったのみ。



 良い男はどこかに欠点を抱えているはず。粗末なモノでも見せつけてやれば、熱い気持ちも冷めるだろの精神で挑んだが、まさか二対一でボコボコにされるとは思わなかった。サーブの仕方がガチやん。




 「だが俺は諦めない!!卓球ってのはなぁ・・・!!」



 思いきり振りかぶる。これまでの傾向を省みて、遥か彼方へ吹き飛ばす勢いを。



 「勢いで上書きすれば、球にも魂は通じるんだよぉ!!!」



 ギュルルルルル!!!



 タアァァン・・・!!



 コートのど真ん中で跳ね、進行方向へと突き進んだ。



 自分のコートにて。



 「ああああああぁぁぁああああ!!!?」



 「なんで上に飛ばしたのに下に行くんだよおおぉぉ!!?」



 傾向と対策を練った結果、さらに上の領域で立ちふさがっていた。俺らには、もうふんどししか残されていない。髪の毛も脱衣って言うだろ、というクソ理論はすでに使った。もう終わりだ。




 「・・・くだらないですね。楽しそうなので水はさせませんが。・・・・・・ラキ?混ざりたそうな顔してませんか?」



 無意識かは知らないが、ラケットを構えかけている。上段まで運んだ。




 「卓球は回転だよ。テクニックがものを言う競技だ。」



 「夜だけじゃなくて昼のテクニックも上手いってかやかましいわ!!漢ならなぁ・・・!!」



 それでも俺は、無茶苦茶理論で押し通す。彼の優しさに付けこんでいると言われれば負けだが、後からならいくらでも言われていい。



 「ふんどし一丁でスポーツすんのが、筋ってもんだろうがぁ!!!」



 「・・・!!」



 ここで脱いだら負けだ。勝負的にも社会的にも。トウガは燃え尽きたように負けムードだ。



 ・・・・・。




 「・・・そうだな。漢なら・・・。」



 様子がおかしい。嘘だろ?漢気でも負けたら、俺は一体何で勝てるんだこのハーレム系主人公に。



 「相手と同じ立場で、ぶつかるべきだ!!!」



 脱ぎやがった!!どうすんのこれ。負けたらマジで脱がなきゃいけないんじゃないの?言い出しっぺの手前、止めるにやめられねぇ。



 「ト・・・トウガ!!最終決戦だ!!お前は右!俺は左!二人で迎え撃つぞ!!」



 「お・・・おし来た!!奇跡掴むぞ!!」



 「経験者の助言は参考であり、打ち破るものなり。僕をどのように打ち破ってくるか、見せてくれ!!」



 ダブルスは交互に撃つのだろうが、関係ない。賭けるは己のふんどし。最終決戦の地が天空なんて、おあつらえ向きじゃないか。押して参る!!





 「はー・・・。あの人はまた変な方向に・・・!・・・・ラキ?こっちに球は飛んでこないですよ・・・?」



 フィーオの隣には、腰を深く落としてラケットを握りしめる女性の姿がある。服を脱がないだけ抑えている方なのか。



 始めは冗談だと受け取って我関せず、であったが、このままだと本当に脱ぎそうなので制止に入ろうとする。彼がサーブを打つ前に横入りしようと手を伸ばし・・・。




 スッ・・・・。




 「!?」


 「動くな。殺されたくなければな。」



 杖が頭に突き付けられる。覆面を被った男が一人、こちらに殺意を向けていた。瞬間、悲鳴が響き渡る。周りを見渡すと覆面集団がこの一部屋を占拠している。



 いくらでも人質を出せる。うかつには動けない。



 「スマアアアアァァァッシュ!!!」



 「ぐはあぁ!?」



 ラキが動いた。振り返りざまに片方の頬をぶつ。強い衝撃により壁へと叩きつけられ、気絶した。当然目立つわけで。



 「な、何しやがんだ小娘ぇ!!殺されてぇのか!!」



 「いや待て!うかつに手を出すな。」



 血気盛んな男Aを男Bが制止する。明らかに警戒の色を見せ、こちらを見据えていた。



 「奴らはあのB級冒険者。信縁の旗だ。雷系統の範囲魔法を得意とするラキ。補助魔法の腕は、かの聖女に迫るほど鍛えられているフィーオ。」



 普段の装備を身に着けていないが、思いのほか知られてしまった。手の内がバレると動きにくい。たとえ一人倒せても、押さえつけられるだろう。




 「そして、その援護を一身に受けて放つ燃える剣技は、どんな相手をも焼き払う。パーティのリーダー、トッカ・・・・ってなんでテメェら裸なんだコラ!!!」



 ふんどし三人衆が目を付けられる。さすがに卓球をする空気ではないと察したのか、直立不動の裸族となった。



 裸族は視線で示しあう。二人は剣を一振り構える。



 「球に魂を・・・・。撃ち込めぇ!!」



 剣士二人に次々とピンポン玉を投げる。場所が重要だ。野球の練習なんて一度もやったことはないが、やぶれかぶれだ。




 ブオォン!!ゴオォ!!ガアァン!!



 「こ、こいつら!!ピンポン玉を剣で飛ばしてきやがる!?」



 剣の平らな部分で、敵の方向へと吹き飛ばす。トッカはそれに加えて炎を乗せる。狙いを定める必要があるため無視する球はあるものの、その分的確に当ててくれる。



 「やめ!?やめろやぁ!!人質がどうなっても・・・!ごばぁ!?」


 「うわぁ!?なんなんだこの裸族!!」



 ピンポン玉をぶつけられた覆面達は次々と倒されていく。たまたま居合わせた冒険者として、旅行客を優先的に救出だ。



 「漢、舐めんじゃねぇ!!!」



 これぞふんどしパワー。三人揃って三倍。






 「・・・相変わらず。ふざけてんなぁ。」



 球や人の間を縫って、一人の覆面が突っ込んでくる。片手に刃物を控え、真っすぐと男に切りかかった。大剣を振り続けるトッカのもとへと。



 「・・・!?君は・・・!」



 ガキイイイィィィン!!



 刃物同士がぶつかり合う。火を纏った大剣は常時火の粉をまき散らしており、覆面へと飛び散った火の粉がその素顔をさらけ出させた。



 「!?お前・・・!ズル野郎!!」



 「・・・・RUNOの少年か。随分と早く会っちまったな。」



 顔に切り傷をつけた男は、戦いながらも思いだす。刃物の大きさに差があるにもかかわらず、トッカとの鍔迫り合いで引けを取らない。



 一時的に気絶させただけのため、いつ起き上がるかわからない。早めに決着をつけて縛り上げなければ。先に動いたのはトウガだ。




 「・・・お前が何なのかは知らんが・・・。それは俺じゃなくて騎士のやつらにでも言ってくれや。今は斬らせてもらう。」



 平らな部分ではなく、斬れる部分で。飛び道具がないからこそピンポン玉を使ったので、懐に潜られたのなら逆に好都合だ。



 「覚悟しろよ!!っぉぉぉ。。。」



 バタン。



 「トウガ・・・!!」



 何の兆候もなく倒れる。これには戦闘中のトッカも心配になるようで、声をかけた。側によることはできない。少年は苦しそうに声をもらす。



 「は・・・腹減った・・・。」



 昼食を抜いたのが響いたか。



 「ったく。情けねぇ。いいか、人はな。水さえあれば7日間は何も食わず生きていけるんだよ。昼食一回抜いたからって、パフォーマンスは下がらねぇ!!燃費のいい俺に任せとけ。」




 これがなければいつも通り依頼をこなすつもりだったのだ。刃物の一つ、持ち合わせている。心もとないが、ナイフを取り出して構えて・・・。




 「天誅(てんちゅう)ううううううぅぅぅぅぅぅ腹減った。」



 バタン。



 「アメル・・・!!」



 よく考えたら夕食の時間だ。二食抜いたら駄目だよ。二食は・・・。




 「・・・・。よくわからねぇが、これで一騎打ちになったな。トッカ。」



 「なんでこんなことをしている・・・!!昔はそうじゃなかっただろ?ティナイ・・・!!」



 ティナイと呼ばれた男は、彼らとつながりがある。いや、あった。



 「数年前から行方不明になったと聞いて、心配したんだぞ!!なんで・・・。」



 「なんでだぁ?今をときめくお前にはわからねぇだろうな!!・・・・・同じ男に師事して、一体どこで変わっちまったんだろうな。俺ら。」



 剣が押し返される。筋力ではそう簡単に負けないと自負していたのに、その小さな刀剣に、何があるというのか。



 「お前はその年にしてB級。俺は未だCだ!!出世できる見込みもねぇ。打ち止めなんだよ。」



 敵ながらも気にかけてしまうトッカに、蹴りが炸裂する。防具がない今、急所が分かりやすい。



 「あ、ぐぁ!?」



 「人質が気になるか?女共が気になるか?そこのガキが気になるか?・・・・それとも・・・。」



 男は剣を振りかぶり、肩を突き刺す。流れ出る血が肉体を直に染め上げた。



 「があああぁ!?」



 「俺に気ぃ使ってんのか!?顔なじみだからって舐めてんのか!?いいか?俺はどんな手を使っても生き延びてやる!!楽に金を稼いでなぁ!!」



 「ティナイ・・・!」





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 「君には、信念があるか?」



 赤い髪をした子どもに、一人の男が語り掛けてくる。



 「信念、ですか?・・・・・ないです。」



 気分が落ち込む。正解など無いだろうが、"信念はない"が不正解であることだけは分かる。



 「それならば、よく覚えておくでござる。」



 道場で、ただどっかりと座り込む背中がたくましくて。そんな男になりたくて。




 「君だけの信念、なんて必要ない。先人から盗め。受け売りの言葉が自分のものであると思い込め。拙者はそれだけを糧にして、今を生きている。」



 借り物の信念?聞こえが悪すぎる。どうせなら、自分の目で見た経験や感じた経験でものを語りたい。



 「高い志を持つのは結構であるが、それに溺れた者は多く見てきたのでな・・・。」



 悲壮感が漂ってくる。本人に自覚はないだろうが、この背中に憧れた者は少なくない。




 「仮初でも、"それ"だけは持っておくでござるよ。たとえ溺れていても、そういう漢は格好良く見えたものだ。」






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 「舐める、か。・・・・それは、そうだろうね。」



 「なに!?」



 肩に深く刺さった剣を引き抜く。動揺する男は追撃をかけようとするが、腕が動かない。



 「ガキども・・・!?」



 後ろには片腕ずつ拘束する二人の少年が、ウザったい顔でにやけている。



 「残念だったなぁ!」 「させねぇよぉ~!」



 口には米粒がついている。元居た位置を見ると、ラキが両手に米粒をつけて親指を立てていた。




 「自分の信念もない君より、敵を嘲笑する少年たちの方が格好良く見えるんだから、舐めたくもなるよ・・・!!」



 フィーオが魔法をかける。流血が収まり、力も湧いて出てきた。



 大剣に炎を灯す。




 「ま、待ってくれ!!俺らは幼馴染だろ!?金は諦める!!だから・・・!!」



 「火剣 ・ 天滅(てんめつ)・・・!!」



 ザン!!!



 「が!?あああアああァァァぁぁぁ!!?」




 傷口が焼ける。流血は控えめだが、痛みに耐えきれなかった男は地に倒れ伏す。リーダーの敗北に戦意を削がれた残党は、結局何もできず拘束された。






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 「変な無茶はしないでください。魔法だって万能ではないのですから。」



 傷の手当てを受けているのは、ただ一人の負傷者。幸い、彼以外に傷を負った者はいなかったという。敵集団は見事、騎士の方へと預けられた。前科者だったらしい。



 「・・・たとえどんな悪行を重ねたとはいえ、それが知り合いだと応えるね・・・。」



 初めて聞いた話だが、二人は同じ門下生だったらしい。有名なホテルの襲撃により金を強奪しようとした犯罪集団の頭。



 「・・・そんな時には、くじ引きに限るってんだ!発散しようぜ。」



 ポケットから一枚、くじを取り出す。



 「おい、なんでもう一枚持ってんだ。」



 一枚で二人分の昼食代ほどもかかるくじ引きなんてあるわけないだろう。二枚だ。




 「確かに、それも悪くないね。」



 その瞬間、トッカが懐から同じくじを取り出した。



 「!?なんで持ってるんですか!?何の金ですか!?まさか、余ったパーティ資金じゃないですよね!?」



 話しかけるフィーオを無視して、二人はくじを開く。1等はすでに出てしまったため、狙うは3等の肉だ。天空の城で豪華肉パーティ!少年なら一度は夢見る贅沢だ!




 ・・・・・。





 「「4等。大きめのぬいぐるみ。」」




 ・・・・・。





 「「金返せ!!」」








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