おまけ one-three 「ガキの頃の熱い思いってのは簡単に消えやしない 前編」
「状況が気になる人、この指と~まれ。」
人差し指を差し出され、選択肢を与えられているのは一人しかいない。白髪緑肌のトウガだ。無言で人差し指を握ってきた。
「実は謝りたいことがありましてぇ。」
手ぶらで相対する二人。いや、本来であれば"何か"を持っていなければならない。二人してそれは分かっている。知りたいのは、その理由だ。
「今日の昼代、くじ引きに使っちゃった。」
ゴキィ!!
「いだあああああぁぁ!!?おまっ!?痛ああああぁ!!」
しっかりと握りしめた片手を捻り、指があらぬ方向に曲がる。耐えきれずのたうち回ることしかできない。
「今日は俺が依頼、お前が昼食だって決めたよな!?見ろ!!割のいいやつ5件も持って来たんだぞ!!それをお前・・・!お前コラ・・・!!」
繁盛してようがしてなかろうが、どんな場所の弁当でもいい。ただのお使いができていないことに、もはや言葉が出てこなくなる。
「ごめんよぉ。男なら誰しもあるだろ?一山当ててやろうっていう崇高な願望を持ったことが・・・。それに従ったんだよ。」
「従うな!!冒険者は体が資本だろうが!!なに本物の資本当てに行ってんだよ!?」
「まぁまぁ、待てよ。」
怒り狂う気持ちもわかる。だが、怒るのであれば全てが終わったときにしてほしい。なぜならば・・・。
「今さっき買った"くじ"。まだ中身は見てないんだ・・・!」
「・・・・・。」
たたまれたくじをその場で開く。表には景品一覧が書かれており、ピンからキリまである。5等はティッシュ&たわし。4等は大きめのぬいぐるみ。
「4等が出れば元が取れる・・・!」
「元は取れても飯は摂れねぇんだよ。」
3等は豪華肉セット。2等は人気アイドルの特別席ライブチケット。
「3等で飯が取れる・・・!!」
「ぬいぐるみが出たら金返せよ。」
そして、今回の目玉である1等は・・・。
「・・・いっ!?」
「お?1等の景品、"魅力的な空中泊!2泊3日ドキドキフライトホテル!!"・・・。」
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アメルとトウガは現在、ホテルへの到着を小型飛行船の中で今か今かと待ちわびている。普段は全部屋埋まっているらしいが、まさかの当日OK。この日のために一部屋空けていたらしい。
「いや~!まさかあの有名な、空飛ぶホテルに行けるとはなぁ!!たまには運に任せてみるもんだ!!」
「感謝しろよ?あのくじ引いた俺の英断に。3択まで絞れたんだよ。33%。」
唐突なめでたい出来事により、今回の仕事は急遽中止した。割が良いらしい依頼もすべて掲示板にリリース。代わりに3日間、金なしで贅沢できるのだから安いもんだ。
地上から見ればそれほどでも、いざ目の前にしてみると立派な建物だ。街の中心である宮殿に勝るとも劣らない規模が伺える。誰もが、天空に浮かぶ居城を夢見るもの。それを現実にしてしまうのだから、魔法とは恐ろしい。
「夢は夢のままだからいい場合もあるってのに・・・。」
「大当たり引いて驚いたか知らんが、一周回って落ち着くな。帰ってこい。」
窓から見える景色も壮観だ。まるで、人がゴミのようだ。
今は昼間というのもあって鉢合わせる客は少ない。精々一機か二機ほど、似たような小型飛行船での来客がいる。彼らは一体、どれだけの期間を待ったのだろう。
ようやっと地上へ、いや、空飛ぶ宿泊所へと降り立った。下手に黄金で着色などせず案外渋い。だが、そんなことはどうでもいい。こんな場所へ来たのだから、恥など気にせず遊びまわりたいのだ。
「よし、トウガ!!チェックイン済ませたら、ここら一体を探索するぞ!!」
「うしきた!!アメルが冒険者になって、初めての冒険らしいことだな!!」
「・・・・。それは言うなよ。」
考えたことあるんだから。あれ?雑用したり魔物倒したりしかしてなくねって。冒険者になって初めて冒険する場所がホテルって。攻略どころか掃除されつくしてるよ。
「この2泊3日。最高の思い出になるな!!」
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「RUNO!!」
「嘘だろ!?俺、まだ5枚くらい残ってるぞ・・・。」
卓上の戦況は白熱していた。事の発端は、フロント近くの机にRUNOをプレイしている奴らがいたから。その頃には探索しきって飽きていた。
6人によるカードゲームは、アメルの1位により幕を閉じようとしている。
「景色はいいけど、結局それだけだもんな。俺も初めは夢を持ったものだよ。」
20代くらいの男が、悩みながらも1枚を場に出した。調子に乗って5泊も予約したそうだ。
「あ、RUNOって言ってない。」
「そうさ。夢ってのは遠くから見ている内は輝いて見えるのに、経験しちまえば案外こんなもんなのさ。」
顔に切り傷のついたこの男が、この4人の中でのリーダー格なのか。一際広いソファーに、大胆に腰をかけている。
「おい。RUNOって言ってないだろ。」
「この割高なチケットを買って、一体どれほどのやつが失望したのだろうな。俺は、翼が生えても1日で飽きる自信ができてしまった。」
「いいから2枚とれや。」
最後までペナルティの2枚をとらず、アメルが出せていなかった最後の1枚を場に出して上がる。
「じゃあな、坊主。俺たちは忙しいんだ。また、会えたら会おうぜ・・・。」
彼の号令一つにより、残り3人もソファーから立ち上がって離れていく。卓上には、積み上げられたカードだけが残っていた。
「・・・。ふざけやがってあの野郎・・・!!」
「落ち着けや。勝負は勝負。結果に文句言ったってしょうがねぇだろ?」
慰めるように肩をまわしてご機嫌を取ってくる。
「おまっ!?負け確のやつに俺の気持ちは分かんねぇだろうな!!」
「勿体ねぇなぁ。あのまま続いていれば俺の大逆転勝利が待ってたってのに。」
「嘘つくんじゃねぇよ!!5枚の段階から出すもんなくて引いてただろうが!!」
終わった後ならいくらでも言える。その法則を最大限に有効活用してくるが、何を言い返そうと推測でしかないから質が悪い。
「おや?君たちもこのホテル、予約してたのかい?」
どこからか声が聞こえた。二人して声の方を向くと、数少ない顔なじみの姿が3つもある。
「うわぁ!奇遇だねぇ!私たちも五カ月前から予約してたんだよ!!」
「これでも早くに入れたほうなんですけどね。」
赤い髪のトッカ、黄色い髪のラキ、青い髪のフィーオ。信号組が軽装状態で揃っていた。なぜか鉢合わせなかったが、おそらく湯にでも浸かっていたのだろう。
「まじか。そんな奇跡みたいなことあるんだな。だが、ちっと違うんだよ。」
未だRUNOの余韻を残しながら、ポケットに入れていたくじを見せる。
「くじ引きで1等が当たったんだ。ちょうど今日、な。だから最高の思い出にしてやろう!・・・って意気込んだら・・・。」
「飽きたんだね。わかるよ。」
ラキだけが共感してきた。トッカやフィーオは景色を見ながら酒を一杯、なんてことを好みそうだが、ラキだけはアメルたちと同種であるのは明白だ。
「そんな人用に、三階にはインドアのスポーツ施設があるんだよ!!ちょうど数が増えたらいいななんて思ってたんだ!!行こうよ!」
「おお!!マジか!?これなら負けねぇ!!」
「認めたな?」
自分から尻尾を出してくれるとは思わなかった。RUNOのことを気にしてないように見えて、"これなら"と言う負けず嫌いは扱いやすい。
「銭湯に入ったばかりだけどもう一度入ればいいか。良い景色を見ながら汗を流すのが、僕は癖になっちゃったかもね。仲間である君たちと来れてよかったよ!」
「「トッカ・・・!」」
恋愛ではないのだろう。それでも恋愛に似た何かを感じさせるのが、ハーレムを築くやつの特徴かもしれない。
「イ~チャコラしやがってこの野郎。」
「気にしたら負けだ。奴はあれがデフォルトなんだよ。無意識なタラシだ。」
これも一種の、夢の一つかもしれない。
「実は大変だったりする?」
「?」
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