おまけ one-two 「モーニングルーティン1」
D級冒険者の朝は早い。依頼の競争率が高く、少しでも後れをとればあっという間に仕事がなくなるからだ。あっても低賃金。
だからこそ早く起き、宿で出される飯を食う。体が資本なため、朝飯は食わなければやっていけない。すでに何人かは起きており、冒険者の率が若干多い。
「よぉ、兄ちゃん。ここでの生活も慣れてきたかい?」
気さくに話しかけてくれたのは、C級冒険者をやってる年上の先輩だ。食堂は一階にあり、大体そいつは階段の前にいるので、たぶんおしゃべり好き。
「いや、まだ慣れねぇよぉ。ついに睡眠時間が五時間切ったんだぞ?」
「だっはっは!!そんだけ寝れれば大丈夫だな!!俺なんて遊びほうけて五日間一睡もしないなんてざらだった!C級に上がるまでの辛抱だよ!!」
そんなこと言って今ここにいるのは、習慣から抜け出せていないからだ。彼がC級に上がったのは最近で、それまではこの時間起きが普通だった。
そんなこんなで朝飯を食べたら、ある程度の用意を済ませる。まぁ、身だしなみは整えとかないとな。"アメル"ならともかく、"バスメル"とした時の彼ならどうするか。未だにわからない以上、最低限のことはした方が良い。
トウガとの待ち合わせ場所は、決まって小さなベンチだ。初心者の俺は、まだ教えてもらわなければならないことが山積みで・・・。
・・・・団子がある。入れ物に入れられたみたらし団子が三つ。たぶんトウガのかもしれない。
ーーーいない、よな?
そこからの手際は早かった。計算により導かれた俺の位置から団子までの最短の距離を、一寸の狂いもなく攻略。どれほど蓋を開ければ団子がとれるかも一瞬にして計算、はできなかったため、勘で開き、一つの団子をつかみ取る。先ほどの計算で導かれた最短距離で口元まで戻り、戻る勢いのまま口の中へ放り込む。串は近くのごみ箱へ放り投げ、証拠隠ぺいを計る。突然なくなることはないので、蓋をあえて開けておき、手についたタレをベンチに散らしていくことで、外部の犯人が慌てて盗っていったように見せかける。「俺は目撃し、追いかけようとしたんだけど」これで乗り切る。恐ろしく速い動作。俺でなきゃ見逃しちゃうね。俺がやってるんだけど。
我ながら完璧。さて。団子のうまみを味わいながらベンチに腰掛けて、悠々と待ちましょうか。
「おい。」
・・・・。
「・・・見てました?・・・全部。」
「・・・・当たり前だろ。」
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「待てコラァ!!!」
「違うんです!!聞いてください!!これ俺じゃなくてぇ!!!えっと、乗っ取られてるというかぁ!!」
「バカ言うな!!そんなハッキリとした乗っ取りなんてあるか!?純度100のお前だろうがぁ!!」
広大な都市を縦横無尽に走り回る少年二人。声や存在として迷惑をかけてはいるが、形としては迷惑にならないよう、道行く人の全てを避け、物の全てを丁重に扱っている。
「はい、リンゴあげる。気をつけて走りなさいよぉ・・!!」
「お、いつもありがとう!!」
気さくなおばあちゃんが、走る俺を呼び止めてリンゴを一個くれた。おいしいんだこれが。いつかお金でも払うつもり。トウガも貰ってた。
「おい!クソガキィ!!そろそろわしの宝物、鑑定してくれやぁ!!」
「だから専門外だって言ってんだろぉ!!正式に依頼出せぇ!!!」
決まってこの通りでは、鑑定して欲しいじいさんが呼び止めてくる。ゴミから本物までの宝物が数多くあるようで、一つ一つ依頼を出すと出費がかさむようだ。知ったこっちゃない。
あれこれ奔走していると、路地裏にまで来てしまった。三次元的な動作が必要となり、なかなかしんどい。
「俺は目撃したんだよ!!犯人を!!」
「そりゃお前だからなぁ!!目撃もくそもねぇだろうな!!俺も目撃したよ!!」
入り組む通路を走ると、高い壁に囲まれた行き止まりがあった。こういう話で逃げきれてる奴は決まっていない。
「ハァ・・ハァ・・・・。手間取らせやがって・・・!」
「・・ハァ・・・ハァ。"次も"バレないと思ったんだけどなぁ。まさか近くにいたとは。」
もはや逃げ場はない。おとなしく沙汰を待つしかなくなってしまった。
「・・・"次"?おい。お前まさか、一昨日のプリンも。」
「あ、やべ。」
「味占めてんじゃねぇ!!!」
「ごめ"んなざい・・・!!!」
この後俺は、こっぴどくシバかれた。
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やっとこさ冒険者ギルドまで着くと、依頼が少なくなっていた。自業自得だ。
「・・・君らは、毎朝疲れ切るのがデフォなのかい?」
信縁の旗が後ろからやってきた。B級冒険者の朝は遅い。
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