おまけ one-one 「最初の仕事」



 「まず、冒険者としての最初の活動は掃除と決まっている。」



 「なんだその常識。」



 俺は今、トウガと共にある建物へと来ていた。理由は聞かされておらず、突然竹ぼうきを渡されている状況だ。



 「今日は俺も手伝ってやるから、適当に一軒掃くぞ。」



 というわけで開催された初仕事、掃除。まぁまぁぼろくて汚い家なので、竹ぼうきごときできれいになるわけもなく、結局雑巾で拭くはめになる。




 バキッ!!



 「あぁ~。もうまただよ。また床がぬけた。ってか、ここって本当に使われてんのか?」



 生活感がまるでなく、蜘蛛の巣や小さな虫が至る所にいる。



 「・・・なぁ、聞こえてる?こんな雑巾なんて使わず、魔法でパーッとできないの?・・・・ねぇ。」




 トウガは別の一室で掃除をしているようだが、先ほどまであった返事がない。仕方なしにその一室まで行ってみようと思う。




 「・・・ねぇ、聞いてる?なんでこんなこと・・・おおぉい!!!今剣の鍛錬してんじゃねぇよ!!」



 鞘から剣を抜いて素振りしているトウガは、俺より汗をかいている。よく床ぬけないな。




 「ん?あぁ、アメルか。掃除頑張ってるようだな!」



 「お前も頑張って欲しい・・!・・・って手伝ってもらってる立場だから言えない。」



 「言ってるぞ。」



 こちらに気づくと鍛錬を中止して、剣を鞘に納める。



 「ねぇ、これ魔法でパーッとできないの?」



 「魔法は使っちゃだめだな。このぼろ家を手動で掃除するのが伝統なんだ。それ以外の用途では使われない。」



 「変な伝統。」





 話していたら終わる気配もないので、雑巾を濡らして掃除を再開する。隅から隅まで、なんて面倒くさい。見えるところ拭けばいいか。



 汚い縄が天井に括り付けられている。土台を持ってきていないから、捨てるに捨てられない。




 「トウガー!ちょっと剣貸してくれよ!切り落としたいやつあってさー!」



 返事がない。また鍛錬でもしているんだろう。途中で切り上げさせちゃったしな。普段は魔物でも狩って資金と鍛錬を同時にやりくりしているから、暇なのかもしれない。




 「おーい。トウガ?ちょっと助けて欲しいんだけ・・・おおぉい!!!寝転がって遊んでんじゃねぇ!!よくこんな汚い床で寝転がれるなぁ・・!!」



 部屋のど真ん中で横になり、肩ひじついて本を読んでいた。



 「暇で・・・。」



 「ほんで割と贅沢してるな!!お前さっき菓子と飲み物なんて持ってきてた?」



 そう言ってる矢先に、菓子袋から一つまみして食っている。堕落するにも場所を選んだ方がいいだろ。祟られそう。



 「よく見たら本のタイトルなに!?」



 読んでいる本の表紙には、"全世界が涙した!?掃除のマニュアル本"と書いてある。



 「あんま掃除でこの表現見ないけどね!?手伝ってくれてたラッキー、ともならないし!」



 「ホントだよな。掃除中に涙出たら、薬剤が目に入ってんだろ。」



 「疑問持ってんなら買うなそんなの。」





 剣はすんなり貸してくれて、縄は無事切り落とせた。後はこの縄をゴミ袋に捨てるだけなのだが。やべ。トウガのいる部屋に置いてきた。



 「悪い!トウガ!ゴミ袋そっちにないかー!あったら持ってきてくれー!」



 ・・・また返事がない。仕方ない。取りに行くか。最初に手伝うって言ってんだから、もう少し協力してくれてもいいのになぁ。




 「お~い。トウガ。そっちにゴミ袋・・・すごいピカピカ!!!??」



 なんということでしょう。数分前まで廃墟のようだった部屋が、建て直したかのように綺麗ではありませんか。



 「この本の通りにやったらできた。」



 「あ、あの本役に立つんだ。涙出てきた。」



 もう掃除の範疇ではないだろ。すぐぬける床がまるで新品だよ?文明の利器ってすげぇ。・・・待てよ。薬剤って言っても、異世界だ。魔法の成分かなにかは、少量でも入ってるかもしれないよな?




 「もう魔法でパーッとやっちゃお。」



 「あっ、おい。魔法は・・・」



 想像するならなんでしょう。風魔法?水魔法?いっそのこと全部綺麗になれー!とでも念じれば案外いけるのかもしれない。




 「キレイに・・・なれ!!」



 ドオオオオオオオォォォォォン!!!






━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━







 「あの建物は、魔法を使ったら罰として爆発するんだよ。」



 「罰が雑じゃない?爆発までしなくていいじゃん。」




 たまにやらかす人がいるらしく、その後は新しく一日で建て直すようだ。・・・一日!?もっと時間かけろよ。だから全部があんな汚いのかよ。




 「まぁ、あんまり変な無茶はするなってことだな。自分ができる範囲で、できる限りの工夫をして活動しろってこった。」



 そう言うと、トウガは俺を縛り上げている縄に手をかける。そう、俺は建物を破壊した第二の罰として、ギルドの前でつるされているのだ。体をぐるぐる巻きにされて。




 「・・・そうだな。冒険者の無茶ってのは、命に直結するもんな。」



 「そういうことだ。」



 伝わるかは別として、しっかりとした意味があったのか。それともこじつけなのか。知り合いに真相を知っているものは誰もいない。





 「・・・・あの。・・・ちょっ・・・・こういうのって、解放される流れじゃないの?」



 なんか段々と気持ち悪くなってきた。



 「ね、ねぇ。なんで俺を回転させてんの・・・?」




 視界がぐるぐる回り、時々トウガの顔が見える。何やってだこいつ。




 「しかも一方向に・・・限界ないの!?この縄!!そろそろ逆方向以外に回さなきゃいけないほど固くなるんじゃないの!?」




 そろそろ逆方向に回してくれないと臨界点を越してしまう。ぐるぐるバット嫌いなんだから、俺。




 「あと、おま、、お前!どういう感情で回してんだよさっきから!!反応しろや!!無言無表情怖いって!!」




 回す速度が速くなって、無表情の顔の残像が視界にちらつく。ちょっと苛立ってきた。




 「え?拷問官なの?拷問官なんですか?吐くよ!?二つの意味で吐くから!!」




 白状することなんて何もないけど白状しそう。その・・・趣味とか・・・。




 ブツン!



 耐えきれなくなったのか、縄が千切れた。千切れるほど回したのかな。力強くない?





 「よし。解放されたな。飯でも食いに行くか!」



 「情緒どうなってんだコラ。」




 こうして、冒険者としての一日目が終わり、ファミレスで仲良く飯を食いましたとさ。ちなみに成功報酬はもらえなかったから奢ってもらったけど。





 めでたしめでたし?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る