幕間1-3 「夢へのスタートライン」



 今いる都市、"エトカルディス"の中央。店や住居と比べて大きい建物が辺りを埋め尽くしている。真っ先に目についたのが、中でもダントツで大きい病院と書かれた建物。その近くには宮殿もある。



 今アメルらがいるのは子どもが数十人遊びまわっている公園。側には託児所と書かれた建物があり、普段から使われているのだろう。ベンチに座り眺める老夫婦に子どもの一人が花を渡していて、ほのぼのした光景が映し出されている。




 「なぁ!!兄ちゃんこれあげるっ!!」



 目の前には右手を軽く握り、歯を大きく見せた笑顔をする少年。手首に擦り傷があるため、やんちゃな子なのだろう。俺は視線を合わせてこぼさないように両手を差し出し、できる限りの笑顔を見せる。疲れが顔に出ていないだろうか。



 「おし!ボロボロのお兄さんに恵んでくれ。・・・ん?なんだこれ?」



 子どもが手を広げると小さく黒い何かが落ち、アメルの手で転がっている。




 「ダンゴムシ!死んじゃったからあげる!!」



 「残酷。」




 こちらの知るダンゴムシとは大差なく、違和感があるとすれば一回り以上小さいことだろうか。・・・よく見たら背中に足が生えている。うねうね動いてちょっと気持ち悪い。生きてんじゃん。



 そっと野に返すとゆっくり逃げ始める。逃がしたことにショックで子どもがあっと声を出した後、生きていることを確認すると



 「生き返ったぁ!!やっぱ俺はお医者さんに向いてるんだよっ!!なぁ!カイ!」



 カイという言葉に反応したのは隣にいた子ども。先ほどから熱心に作業をしているようだったが、終わったようで作業に使った紙を差し出す。




 「うん!タロはすごいお医者さんになれるよ!」



 細身の少年がおだてるとタロ君はご満悦のようだ。そうだろと言わんばかりに胸を張る。




 「次は僕の番だよ。実はさっきまでお兄さんの絵を描いたんだ!あげる!」



 「どれどれ、、おお!上手だなぁ!将来は画家さんかな?」



 期待半分で紙を受け取ると、案外上手に書けている。順調に練習していけば相当うまくなりそうだ。さっきまでといえば、この二人が近寄ってきたのは何分前の話だ。5分も経っていない気もする。




 「それにしても早いな。どんだけ練習したんだ。」



 「そりゃお前。描きやすそうだもん。」



 「あるだろ特徴!ほら、、な?」



 背後から無粋なことを言う輩はトウガ。腕を組んで一連のやりとりを覗いていたらしく、タロが爆笑している。カイが黙秘を貫く。頬にやけど痕があるが、絵に描けば数秒もかからなそうだ。




 「緑色の兄ちゃん!あいは将来ぜったいアイドルになるから、サインあげる!!だいいちごう!」



 そばでソワソワしていたおさげの少女が、手に持つ紙を手渡した。平仮名で大きく"あい"と書かれている。




 「サイン?有名になってから作るもんじゃないのか?そういうのって。」



 受け取らずにいると少女はみるみるうちに目に涙を浮かべ始めてしまう。



 「あー!悪い!悪かった!!ありがたく受け取るよ!!」



 奪うようにサインを貰い、ズボンのポケットにしまうトウガを見て涙を引っこめると笑顔を見せて指をさす。




 「受け取っちゃった!ばっきん100万円!!」



 「なんでだよ!?」



 手のひらを返したかのようにあいは、アイドルは高いんだい!などと言い続ける。




 「お困りですか?良ければ私が弁護しましょうかね?」



 「やかましいんだよ!!どういう茶番だ!!」



 背後から近寄り、眼鏡をつけていないのにクイッとする動作をしてさらに追い詰める。タロが相変わらず笑う中、一人の女性が来た。





 「付き合ってもらっちゃってすいません。ありがとうございます。」



 茶髪を後ろで縛るその女性の服には、"エトカルディス託児所"と書かれているため、保母なのだろう。来た瞬間に少年たちが先生先生と集まる。



 「僕の絵受け取ってもらったよ!」

 「あいもちゃんと渡せた!」

 「俺も治したぜ!ダンゴムシ!」



 各々が喋りだして一人ひとり聞いてから、良かったね、まだ時間あるから遊んでおいでなどと話すと子どもたちは遊具の方へ走り出した。




 「今日の課題として、"将来の夢にちなんだコトをやってみよう!"ってのをしてるんです。それが様子を見ていたら変な状況になっていて、ほんとにすみません。」



 「いや大丈夫です!全然気にしてないですよ。」



 「お前が言うな。」




 気にしていないのは本当だが、悪乗りした張本人に代弁されると不服らしい。軽く頭を小突かれた。




 「こんなご時世なんで、子どもには夢をいっぱい見せてあげたかったんです・・・!」



 ジャングルジムや滑り台、遊具を使わず走り回る子どもたちを優しく見守る。




 「でも、悪いことばかりじゃない!頼りになる騎士の方々がいる!強い冒険者の方々がいる!助けを求めれば救いの手が必ず来るんです!!」



 「その通り!市民を救うことが俺たち冒険者の役目さ!!」




 大剣を背負う深紅の髪の男性が歩み寄る。両脇にはそれぞれ女性が控えており、金髪ショートと青髪ロング。髪の長さに呼応するような大きさの杖を持っていた。



 「神様は、日々の努力を見てくれています。」



 あからさまにプリースト衣装を纏った青髪女性が印象通りの言葉を言う。



 「そうそ!頑張ってるぞーって見せつけとけば何とかなんのよ!」



 杖でペン回しをする女性にジト目で返すプリースト。現れた3人の首元には花が描かれた銀の丸い板が下げられている。




 「・・・・?」



 「あなた方は!あの"信縁の旗"ですか!?」



 そうです。お疲れ様です。などと挨拶を交わし始めた。もちろん何も知らないアメルだが、保母さんの目が輝きだした。言葉通り受け取れば彼らは冒険者だろうか。そう考えると、トウガも同じような身分証を下げていた。




 「"信縁の旗"?」



 「名の売れた冒険者チームだ。慈善活動大好きで、民衆からの評判が高い。」



 髪色赤青黄の信号組は有名人らしい。遊びに夢中だった子どもたちも、走って3人を取り囲んでしまう。困り顔すら見せないプロは、ほぼ全員と握手をする。ファンサービスからもプロさが垣間見えた。



 一通り落ち着いた後、赤髪の男が主にトウガを見ながらこちらへ来た。




 「それで、、問題児トウガ君は約一週間もの間どこへ行っていたのかな?」



 「問題なんて起こしてねぇ!!・・・そんなことよりお前らにとっちゃ、嬉しい嬉しい土産連れてきたぞ。」




 またしても何も知らないアメルは、もはや空気に徹した方がよいのではないかと考えた矢先に注目させられる。金髪の女性が駆け寄り



 「もしかして新入り!?歓迎だよ~!一緒にいい世の中にしていこうね!!」



 両手を上下にブンブンと振られる。相当嬉しいようだが俺はそこまで強い思いは持っていない。



 「落ち着いてラキ。誰もが皆、志高く冒険者を目指すわけではないですよ。」



 代弁してくれたようで、しぶしぶと解放された。




 「どっちにしろ大歓迎だ!来るもの拒まず。それがいいところだからね。トウガ君が知っているとは思うが、ギルドまで案内しよう。」



 トウガは少し嫌な顔をしたが、ここは先輩の気持ちを遮るわけにはいかないので乗らせてもらう。保母さんや子どものありがとうを聞きながらその場を後にした。





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 「軽く自己紹介を。俺はトッカ。信縁の旗リーダーをやらせてもらってる。冒険者になるにあたって簡単なことを教えるから、二人ともよく聞いてね。」



 「なんで俺まで・・・。」



 中央街を歩くと繁華街とは違った形でにぎわっている。仕事をこなす人々が多くいて、宮殿が近いからか鎧を着た騎士を定期的に見かけた。




 「まず制度からだ。至る所から来た依頼を職員の方が大きなボードに張り出すから、受けたい依頼を持ち出すとその時点で開始。条件を満たしてから窓口の方へ行くと報酬がもらえるという仕組みなんだ。だが、その中には人命救助や討伐依頼という難しい内容もある。誰でも簡単に受けられるわけではない。」



 ギルドの内装はまだ見ていないが、なんとなく想像がついた。依頼を張るためのボードと窓口があり、酒場のような休憩所でもあるのだろう。




 「そこで次、階級だ。冒険者はその熟練度に対して六段階で分けられ、上からS、A、B、C、D、Eだ。依頼にも推定難易度で同じように付けられていて、例外はあるが同ランク帯までの依頼しか受けることができないようになっている。ランク別での報酬差は如実に表れるから、つい無謀な挑戦をしようとする若い者が後を絶たないが、成果に応じて昇格すればいずれ受けることができるんだ。焦らない。初めはそれが一番大事なんだよ。」




 「そういうことだ。ちなみに信縁の旗は・・・C級だったか。」



 「最近B級に上がったんだよ。ね~フィーオ!」



 「きゃっ!?何するんですか!」



 ラキが横から抱き着いて女性同士のイチャイチャを展開し始めた。




 「見分け方はこの身分証。銅、黒、銀と上がっていくからわかりやすいんだ。ランク以上の依頼を受けようとしても、監視の職員が見逃さない。俺もたまに協力するんだ。」



 命を救うことに誇りを持っているであろう彼らなら、いくらでも手を貸しそうではある。順番通りであれば、信縁の旗が銀でB、トウガは黒空いてからの銅でDといったところか。

 



 「ランクの昇格は依頼数で決まるのか?」



 「そうだね。ただ、ランクに応じて必要依頼数は激増するから一苦労だよ。その分実力が大事になってくる。A級のトップは、同じA級なりたての冒険者をデコピンで倒せちゃうんじゃないかな?それくらい高ランク帯というのは魔境だよ。S級なんて英雄と同義さ!」




 説明側のテンションが上がってきたところで、冒険者ギルドの看板を掲げた建物が姿を現した。高さは2,3階がいいところだが、範囲が広い。この広い都市の冒険者が集う場所であれば、このくらいの広さは必要か。窓口20か所くらいありそう。



 「いろいろ説明したから覚えきれないかな?でも、百聞は一見に如かずさ!ようこそ冒険者ギルドへ!」




 主人公アメルのてんやわんや冒険者ストーリーが、今この場から始まった。




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