幕間1-2 「七大魔王」
舗装された道には店が連なっており、人間だけでなく動物のような顔をした人や、角が生えていたり肌の色が違ったりと多種多様な人が出入りしている。
「この通りが服屋。高いブランドものなんてないが、動きやすい服や靴が多い。俺の行きつけだ。」
何も知らない俺のためにこの街の観光ツアーを催してくれているのは、先ほど仲直りした小鬼、サフィードだ。ショーケースにはイかした服が並べられているが、看板には"冒険者御用達!!"だったり"安価安全安心!三つの安!!"だったりと、狙う客層がはっきりしている。
「最低限の身だしなみはどんな時でも大切だからな。それで命が助かったやつもいる。俺が選んでやってもいいぞ。」
「シャツ一枚のくせに?」
「今はいいんだよ今は。」
そう、森から抜けたばかりなため、二人して上はシャツ一枚だ。トウガは太めの筋肉が見えて、これはこれでスポーツをしている人というコンセプトにはなるが、オシャレと言われればそうではない。俺は上着を燃やしてからというもののシャツ一枚で過ごしていた。筋肉がある方ではないため、さらにひどいかもしれない。
服もボロボロで小さな傷も見えている。しかしキリッとしたイケメンがそれすらも映えさせている。今まで会った男女みんなそうだ。大して服はよくないのに顔のおかげで見ていられる。
「やっぱ顔か。」
「急にひねくれんな!」
言えるほど酷い顔してないだろとフォローを貰いつつ進むと、毛色が変わってきた。一際にぎわっているその道に入った瞬間、香ばしい匂いが一気に鼻を突き抜ける。なぜこれほどの匂いに、服屋の付近では気づけなかったのか。おそらく魔法か何かで完全に絶っていたのだろう。つくづく便利。
「で、この通りがお待ちかね。飯屋だ!」
「めちゃくちゃ待ってました!!」
ここまでグルっと一周は出来なかったが、半周くらいは見回ってきた。武器や防具、家具、図書館等、区画ごとに何があるかを明確に分けており、ある意味不便ではありそうだが、初めましての俺にとってはわかりやすいことこの上ない。だが、さすがにここが広すぎるため長い距離を歩いていた。森で遭難後というのもあって飯屋ほど待ちわびたものはなかった。
外からでも料理音や賑わう声が響いていて、まるで別世界に迷い込んでいるようだ。和食洋食中華と種類は豊富で、焼いただけの肉と野草を食べていた俺の体は辛抱たまらない。・・・重大な事実に気が付いた。
「なにか食いたいもんがあれば言えよ。大体どこにあるかはわかってる!」
「いや、、それなんだけどよ。・・・俺、金持ってない。」
「・・・」
そもそもこの世界の金はどんな見た目なのかさえ知らない。街へ入る前は、もしかしたら物々交換なのではと考えたりもしたが、こんだけ文明が進んでいるのなら通貨もあるのだろうと。案の上だった。1,000ケヌだの600ケヌだの書かれている。この"ケヌ"が単位なのだろう。トウガに怪しまれている気がする。本当に無一文なのだ俺は。
「・・・しょうがねぇな。奢りだ奢り!貸し一だ!今手持ちはそんなないからそこの定食屋にする。いくぞ!!」
「ホントすまん。ありがとう。」
感謝。いつかこの借りは返すよ。
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店員に席を案内されて注文をとってから15分ほどで食事が運ばれてきた。俺は唐揚げ定食でトウガはカツ定食。キャベツやスープ、米も添えられていて1,200ケヌ。いただきます。
「うっま!」
味も申し分なく、この世界の文明は俺の想像の遥か上を行っていることを再確認した。元の世界となにも変わらないではないか。そのくせ機械は見当たらない。すべて魔法で補えているのだろうか。
「いや~この街はすごいな!広いしいろんな施設がそろってる。飯もうまい!」
「・・・ほんとに何も知らねぇんだな。田舎出だとしてもこれほどじゃないぞ。」
喧騒の響く中、窓際の席で食事にがっつく。お互い空腹だったのか、食べながら会話をする。
「ここは国有数の都市。四大都市の一角。"エトカルディス"だ。こんな場所、そう何か所もあるわけじゃない。」
「都市かぁ。そりゃ警備だっているしこんなに広いわな。」
にしては雑な警備なのではないかと心配になるが、軍事力も相当なものなのだろう。制限制限では他の地域に舐められかねないという思惑か、自信の現れか。
「そんなんじゃ今起きてる事も知らねぇんだろ?」
「あぁ、確かさっきの門番が"魔王"がどうだの言ってたような。」
「七大魔王の出現だ。今までは一体や二体が関の山だったが、近ごろ七体すべての出現が確認された。国の戦力削りながら耐えてたってのに損害が計り知れねぇんだとよ。」
「七大・・・ってことは七人もいんの?それで損害のこと気にするって、案外滅亡の危機って感じではないんだな。」
魔王と言えば一人でもいれば勇者や国総動員の大決戦のイメージがあったが、ここでは一災害の気分と等しいのではないか。というところで水以外の食べ物は食べ終わってしまった。満腹まではいかないが十分。
「滅亡?そりゃねぇだろう。軍の層の厚さに冒険者の上澄みがいれば大抵のことはどうとでもなる。ただ、そいつらがいればの話だ。間に合わなけりゃ都市一つ破滅は免れないな。魔王には内部から破壊していく面倒な能力を持ったやつまでいるらしいし、運が悪ければ滅亡・・・なんてこともあるんじゃないか?」
「対抗する戦力が十分ってだけか。・・・まぁ、俺じゃあなんもできないかなー。任せるしかないってことだ。」
水を飲みほしてごちそうさまと両手合わせて礼をすると軽く返事を返され、二人して席を離れる。
「なにも国の軍や冒険者だけじゃない。魔王らに対抗する存在ってのはたくさんいる。命第一。そういう輩とは距離とるのが一番ってわけだ。」
トウガは従業員と思しき人に声をかけ、会計を済まそうとする。忙しくしているようで申し訳ない気持ちにはなったが、会計場所が見当たらないので仕方がない。と考えている間に、森の時も首に下げていた銅板と従業員の持つ円盤が重なり合っている。ほんのり光った後トウガはこちらへ向き直り、外出を促し始めた。
?もう会計は済んだのだろうか。どうやらあれは、クレジットカード的な役割があるのかもしれない。
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「ここにはクレジットカードなんてのもあるのか。益々便利だなぁ!」
もはや元の世界より利便性が高いのではないかと興奮する俺に、トウガは再度困惑の表情を見せる。
「くれじっとかーど?よくわからんが、金ならこういう身分証に全部詰まってんだ。」
「財布代わりでもあるんだな。・・・ん?でもそれ失くしたら終わりじゃないん?」
パスワードを打ち込むような手順もなかった。赤の他人に拾われでもしたらやりたい放題な気もする。
「本人以外は通じないようになってんだよ。かすめ取ろうとしても無駄だぜ?」
俺には渡すものかと主張するように身分証である銅板を遠ざける。
「おいおい!俺がそんなコソ泥みたいなマネ、するような男に見えるか?」
「・・・・・」
「上等じゃねぇか!!ちゃんと目ぇ見ろコラ!!」
「少なくとも堅気じゃねぇな。」
視線をそらす姿がさも肯定しているかのようで、胸ぐらつかんで問いただしてやろうとしたら的確な返しがきた。そもそも今の俺は無職なわけだが。
「アメル。他人事じゃないからな。これから行くところでお前にもこれを作ってもらう。」
花模様が彫られた銅板を右手に掲げて見せてくる。そんな簡単に作れるものなのだろうか。怪しい取引ではないだろうなと訝しみ、どこでと聞くと。
「冒険者ギルドだ。」
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