幕間1-1 「謝罪デビュー異世界」
以前より木々のかき分け方に慣れが出てきた。あの後一泊中なんのトラブルもなく就寝し、今日の朝には満足に体を動かせるようになっていた。
いや、実際はまだ満足ではない。あの聖剣による様々な強化は戦闘時以外でも発動していたようで、起き上がるときに重力が何倍にも増したかのような辛さがあったのだ。数刻経つと、俺の体はこんなもんだったなとやっと慣れることができた。上回るメリットがあるだけで、猛毒ではないか。あの剣は。
予想通り数時間歩き続けた先には目的地。1㎞前には高い壁がなにかを取り囲むように設置してある。おそらくあれが上から見えた街の外壁だろう。そばまで行って見ると想像以上に高く、外壁の修繕をしている人がほぼ真上であるにもかかわらず点に見える。であれば中はどれだけ広いのだろうか。もはや国である。
さらに近づいたところで入り口を発見した。そこには行列ができている。馬車を引いた馬、にしては下半身がでかすぎる。倍以上あるのではないか。そのせいで前のめりになっており、なんなら前足が地面についていない。前方は見えているのだろうか。そしてその馬車に乗る行商人?一際大きい馬車には十人前後が乗っており、横には『第8馬車』と書いた看板が下げられている。バスのようなものだろうか?
もちろん入るつもりなので、最後尾に並んで待つこと1時間。堅牢な門があり、鎧を着て剣、槍を携えた二人の騎士が立ち、その片方の後ろには書類を地面に置きあぐらをかいて座る一人の青年がいた。
「お次の方~。はい、書類の方お願いしますね~。」
目どころか鼻まで隠れるほど長い白と黒の混じった前髪の青年は、座ったままこちらを見上げている。
「資料・・・?すいませんこちらに来たの初めてなんですけど」
「・・・あ~、もしかして何も持ってない的な?身分証もない?」
ふにゃけた笑顔を見せる彼はあぐらを崩さぬままこちらを見上げ続ける。首が疲れないのだろうか。その時、置きっぱにしていた紙束が風で流されかける。
「ああ!資料飛んでいきますけど!?」
わずかに飛んでく紙の存在にやっと気づいたのか、青年は左手で直接抑えにかかる。
「うおおぉっとと!重りくらいつけときゃよかったかなぁ。ふひっひっひゴホォ!?ガハッ!?おえっ」
妙な引き笑いをかましたと思いきや突然むせ始める青年。いろいろと忙しい男だが、持病もちだろうか。奇妙さより心配が勝ってしまう。
「え、大丈夫ですか!?だれか!医者の方いますか!!」
「かっ・・・か」
「あんま喋らない方が」
「髪の毛が口入った。」
「ふざけんな!!」
あれだけ苦しそうな声を出しておいて、次の瞬間にはケロッとした表情で髪の毛一本を口内から取り出している。普段からこうなのか騎士二人は無反応を貫いていた。
「それで、資料は?」
「何事もなく戻んじゃねぇ!」
後ろがつかえているためできれば早く終わらせたいのだが、そもそも街へ入れないかもしれない。この世界では身分証を持っているのが普通なのか?
「観光目的で来たんですけども、やっぱり身分証は必要でしょうか。」
「そうですね~。最近物騒だからさ。不携帯や犯罪者くらいは防いどきたいじゃない。まぁ、そんな厳重でもないし、安全が保障できればいいんですよ。」
「レカンさん。・・・もう少し緊張感を持っていただかないと。私側も隊長に報告せざるを得ません。魔王まで台頭し始めて、あなたが頼りなんですからね。」
「わかってるよ~。説教はご勘弁! てわけで付き添いなしの一人なら、ここ入れないんでお願いします。」
レカンと呼ばれた青年はその態度もさることながら、頼られるほど偉いようだ。あぐらをかいたまま騎士の言葉を受け流す。
魔王。作品で出てくるラスボスとしてよく使われる表現だが、この世界にはそんなものまでいるのか。先日のエトシアが戦った魔人はそう呼ばれても差し支えないほどの存在であったが、だとすれば討ち取られた報告などは行ってもいいかもしれない。未だ警戒を続けるということは別人なのだろう。
それはそれとして、依然まずい状況のままだ。身分証のない俺は門前払い確定らしい。想像より大きい街だったため、もう少し小さな場所を探せば不携帯でも入れてくれるだろうか。そこで新しいものを発行してから来るのも悪くはないか。面倒だけど。
・・・やっぱすごく面倒くさい。やっと文化的な生活を送れると思った矢先にこれでは萎える一方だ。とりあえずこの列から離れてから考えるか。
「・・・そいつの安全だが。俺が保障しよう。先に並ばせておいたんだが、遅れてしまったようだな。」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、そこには白髪緑肌の男。いつかの小鬼が身分証らしきものを持って立っていた。
「お~、そりゃよかった。ただも~ちっとはやく来てくれないと円滑に進まないから、反省してくれよ。・・・・・よし、大丈夫。"エトカルディス"へようこそ!」
二人の騎士が門を開け、その内部が明かされる。目の端では住宅が軒並み立っており、前方大きな一本道には様々な店がある。人がごった返しており、周りにどんな店があるかゆっくり見ていられない。
二人で中央の道は避けて、路地裏のような道に向かう。その間、周囲の声は大きいものの俺ら自身は会話などなく、気まずい空気が流れていた。横並びで歩く姿は友のようだが、実際は最近殺しあった仲。しばらく歩いた末に耐えかねて
「「ごめん!!」」
ほぼ同時に向き合って頭を下げた。何事かとお互いに顔を見合わせる。
「・・・お先どうぞ。」
「あ、、あぁ。」
まずは小鬼にターンを託すとそのまま話し始める。
「俺にはどうしても許せねぇやつがいた。そいつとお前の顔がそっくりだったんで、その日の疲弊もあって冷静に考えもせず殴り掛かっちまった。少し考えればわかることだ。こんな森の中にはいるはずねぇってのに。・・・ただの俺の勘違いで、お前を危険にさらしてしまったんだ。だから、、ごめん。」
「あの時は俺が悪かったんだ!疲れて考えることも放棄した結果、ついカッとなって手を出した。それに、子どもを盾に使うような戦法して。あんなことして許されるわけねぇ。謝るのは俺の方なんだ。ごめん!」
再度お互いに頭を下げる。
「いや、違う!そもそもの発端は俺なんだ!だから俺が悪ぃ!」
「いいや!手を出したってんなら俺も出してる!後だろうが先だろうが関係ねぇ!そんなことより卑劣な罠を使った俺が悪いんだ!」
「そうじゃねぇだろ!俺が悪い!」
「俺だろうが!」
「俺だ!」
「「ぐ・・・・・・・」」
「「・・・・・ふっ、はは」」
自責の押し付け合い。なんてくだらないことをしているのだと今更気づき、つい笑いがこぼれてしまう。そこからもはや爆笑まで変わり、もしここが路地裏でなければ、傍から見れば完全に頭おかしい二人組になっていた。尻もちをついてしまうほど笑い、またしても先笑っただろと押し付けあっている。
この小鬼とはなぜか、気が合うかもしれない。何となくそう感じた。
「はぁ~あ。そういえば名前も聞いてなかったな。どう呼べばいい?」
「トウガ。お前は?」
「俺はアメルだ。よろしくな、トウガ!」
「おう。よろしく、アメル!」
殴り合った手で握り和解成立。恨みっこなし。知り合いもなく途方に暮れると思われた街デビューは、思いがけない再開により賑やかに迎えることができた。
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