一章八話 「リビューテシア」



 ーーーここは本のような世界だ




 「闇魔法、爆発魔法は特殊な魔法に分類される。もとの種類とは違った新規の魔法であり、どちらかと言えば広まっている部類の魔法ではあるが、全く広まることのない魔法もこの世には山ほどある。」




 ・・・残り香のようにこびりついている。あいつの魔法のせいか、不思議と気分は悪くならない。そんな自分にイラついてくる。






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 「見違えたようだな。」



 晴れていく景色の中、ヴィクラネオが姿を現した。俺は剣を利き手である右に持ち替えて対面する。



 「悪いな。道具に頼ったみたいで。」



 実際は身体強化魔法をいくら積んでもダメージにはならず、おそらく刃物系統を使おうが変わらない。覇気にたじろぎ実力に身震いする、文字通りただの小物だ。たまたま剣を見つけ、全回復した上に力が跳ね上がる。ご都合主義もいいところである。




 「気にするな。勝負の世界で"運が悪かった"などという言い訳は通用しない。その強運を誇るといい。」



 「えぇ・・・。すげぇな。俺はそこまで割り切れないわ。」



 まるで気にしているようには見えず、むしろ嬉しささえ見せているように思えた。


 


 腕を横へ薙ぎ、臨戦態勢に入る。



 「もう終わった気でいるようだが、足元すくわれるぞ?・・・垂れ、闇世の幕ラ・フォルト



 幾度となく見た闇魔法の弾幕が目の前へなだれ込んでくる。その一つを剣で切り伏せて問題がないことを知り、すべてを同じように迎え撃った。




 体が恐ろしく軽い。四方八方の魔法のすべてに反応でき、暴発させていく。衝撃による土煙で前方が見えなくなろうが構わない。感覚でわかるため、なにもかもに追いつける。



 攻撃の穴をついて走り近寄るも、そこに集中砲火される。



 「チィッ!」



 誘われている。いくら運動神経が別人でも、思考回路はアメル本人のものだ。戦闘経験のない素人の接近方法など、誘われて当然かもしれない。だが、この世界には魔力という概念がある。魔法を放つ燃料が切れさえすればどうとでもなるはず。




 目と鼻の先に行けたと思いきや後ろに戻されを繰り返し数回。俺自身も疲れが来て、被弾し始める。・・・やっとその時期が来た。ヴィクラネオの額に汗が流れ、弾幕の勢いが弱まった。




 ーーー「"魔人随一の闇魔法"を背負う家系、"リビューテシア"。跡継ぎのいない貴様はその技術を継ぐため、血の繋がりはない二人の弟子をとった。」




 被弾覚悟で間を詰める。身を守る左腕に激痛が走るが、右腕に力を込めて振りかぶる。




 ーーー「片や姓に恥じぬ才を見せ、将来有望。片や闇魔法の才能は絶望的で、多彩な魔法は使えようとも質がない。」




 ヴィクラネオは闇による壁を何重にも出すもことごとくを破壊し、その胸部を切る。




 ーーー「ある時、鍛錬の日。全力を出すよう煽る貴様に向けて放たれた魔法は期待通りのものではなく、貴様の左腕を吹き飛ばした。」




 しかし、触れたのは切っ先。背後に跳躍し、損傷を軽減したようだ。両の手のひらを向かい合わせ、集中する。禍々しい剣が姿を現した。



 「顕現!・・・光ある世の断絶デ・スパーサ。」




 ーーー「それから貴様と兄弟子は普段通りの態度で接したが、彼女の心には後悔がこびりつき、全力の魔法を出せずじまいであった。」




 模様などない。闇魔法で作られたそれは闇一色で、俺の持つ剣とは違った異彩を放っている。



 「ガアアアァァァッ!!!!」



 「オオオアアアァァッ!!!」



 ギイイィィン!! ガキンッ!!ガアアアァァン!!!



 剣と剣がぶつかり合う。双方、遠距離で魔法を放つ魔力はもう残ってはいない。一瞬でも緩めれば互いに致命傷は避けられないため、声の振り絞りに伴い、残りの力を振り絞る。



 切っ先が体に当たるも急所には程遠い。若干こちらが力で押しているが、油断はできない。心なしか剣の放つ光が弱くなってきているからだ。早急に手を打たねばこの剣戟、負けてしまう可能性が十分にある。






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 「闇とは別の、そいつの才能があったわけだな。」



 「・・・よく知っているな。」



 晴れた空の下、無数の切り傷をつけられた大男が片膝をついている。肩から先の左腕はなく、右腕はだらんと下がっている。



 対するエトシアは、大した傷もなく大男を見下ろす。



 「言っただろう。私は貴様を討ちに来たと。」



 覚悟を決めている大男に片手を掲げ今、災害級の戦いに幕を下ろす。



 右手に力を溜め込みその放出を促すと、発光しながら音を立てる。






 「エトシアー!!助けてくれ!!」



 剣を片手に猛スピードで走ってくる金髪少年、バスメルの姿が見える。その後方には遅めではあるが、後を追う魔人の姿もあった。



 「・・・ヴィクラネオ。」



 「・・・間が悪いな。泣きつきに来たか。」



 男は弟子の名前を呼ぶも、距離がありすぎて届いてはいない。今にもたどり着きそうなバスメルは話を続ける。



 「そうだ!泣きつきに来た!攻撃のための勢いが欲しい!今すぐドでかい一撃俺に撃ってくれ!!」



 「ほう、私が直接倒した方がはやいと思うが。」



 「俺の意地だ。俺がとどめを刺したい!・・・無理そうか?」




 無理そうか、と決して心配で言ったのではないのはわかる。だが、冗談でも挑発のように受け取れる発言をしたこの男に対し、嫌とは言えなくなってしまったではないか。



 「プライドが高いな。いいぞ。その代わり、加減はしないからな。」



 「ありがとう!どんと来い!」



 バスメルは笑みを浮かべて背後を向き、歯を食いしばる。遠く迫る魔人を見据えて剣を両手で握りしめた。



 腰を落として構える調子乗った男の首根っこをつかんで、え、待ってと言うのを無視し、天高く放り投げる。




 「貴様のとどめも済ませてしまおう。再度覚悟を決めておけ。」



 「・・・いつでもいい。」



 すでに終わっていると言わんばかりの表情で最後の時を待つ男は、不思議と達成感が感じられる。



 そしていよいよ幕を下ろす。



 「さようなら。・・・オルシカル先生。」



 天高く浮かび上がり、バスメルが横に来るタイミングを見計らって、斜め下方へ向けて魔法が放たれた。






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 比にならない爆発を身に受けた。背中が焼け死ぬような感覚に襲われるが、剣による効果か、損傷は少なく瞬時に戦いに集中する。



 「ムギギギギギッ!!」



 勢いで舌をかまないよう歯に力を込める。空から奇襲するアメルに驚きを隠せないヴィクラネオは、対応がかなり遅れている。先ほどまで俺に気づかず、なにやら正面を向いて立ち止まっていた。おそらく、主がとどめを刺されたことにより呆然としているのかもしれない。



 「くっ!?」



 反射的に剣で守りの体勢に入ってしまっている。構わない。剣ごと叩き切る。



 「らあああああぁぁぁ!!」



 勢いに押されて重くなる剣を何とか振り切る。



 ドオオオォン・・・!



 大きな土煙の柱を立てた。






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