一章七話 「闇の手」
ーーーここは本のような世界だ
「魔法の威力は使い手によって振れ幅がある。難易度は桁違いだが、オリジナルの魔法を編み出す者がいる。例外として、努力や才能なくしてオリジナル魔法を得る方法もある。」
この説明コーナーみたいなのっていつまで続くの?脳内に直接語り掛けるように。
「・・・大分喋れるようになったね。」
案外慣れるもんだな。初めは口すら動かなかったのに。
「そっか。でも一応、念のため。」
・・・・?
「私はあなたを、愛しています。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
嵐が荒れ狂う。中央に渦巻く竜巻は風の魔法で生み出したものではない。だが、確かに暴風が草木や地面までも飲み込んで、その大きさをさらに増す様子が見て取れる。
相対するは二体の竜。自らの体をぶつけあい、尾が渦を巻いており、それが竜巻の元凶のようだ。今なお鳴り続ける轟音は、ぶつけあう場所を中心に起きている。
ゴオオオオオォォォォン!!!!
ドオオオオォォォン!!
お互いの竜は、後方にいる人物に攻撃が当たらぬよう立ち回り、前方にいる人物を討つための機会をうかがっている。暴風で長髪が流されるも依然として美しさを保つ女性と、黒装束を一切乱さず顔の全容を未だ見せない男性。宙に浮き、静かにたたずむ二人とは対照的に、景色はさらに荒れ狂う。
バリリッ!! ガアアアアァァン!!!
暗雲立ち込めて雷が降り始める。さらに竜の間を
これらの魔法はみな、おどろおどろしい色合いをしていた。
「・・・精度、威力拮抗。これほどの"闇魔法"を使えるか。」
人一人の声など聞こえるはずもない音が響いている。しかし男の声は鮮明に届く。
「鍛錬を怠ったつもりはない。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
状況は熾烈を極めた。身体強化魔法を最大限まで使用した結果。できることは技を避けきることのみ。いや、避けきれていない。
暗い色をした弾幕を、追尾型と無造作型に分けて放ってくるヴィクラネオに近づくことすらできず、終いにはそれを軽々と避けて正拳付きをかましてくるリエン。そもそも俺が攻撃できたところで通じるわけがないため、手詰まりだ。
四方八方飛ぶこの魔法をヴィクラネオは"闇魔法"と言っていたが、この威力がバカにできない。ずっと脅威脅威と言っていたリエンの近接攻撃。これが遠距離として無尽蔵に飛んでくる。
「こんなの相手してられるわけねぇだろ!!」
目で見てもよくわからず勘や感覚で動いているため、何度か直撃して血を流し、すでに目まいも起こしている。先ほどのような生半可な策では打開不可能となった今、取れる行動は一つしかない。覚悟を決めて方向を定める。無理やりにでも
「二度もやらせるわけ、ないでしょうが!!!」
「ッ!?・・・ぁ」
その瞬間、前方に突き出しているリエンの両手がピカッと光り、ボボボと音を立てていて。
突如として大爆発が起こった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「貴様自慢の魔法を抑えられ、すでにかなりの時が経った。・・・体力切れや失敗でも待つしか勝利方法がないと悟ったか?」
魔法の勢いは衰えることない。バスメルを残した方向で2度の爆発が起きているのをよそ眼に、交戦を続ける。
静かに様子を見守る大男はその重い口を開き、
「・・・終演にしよう。」
竜が消え、弾幕が消え、行き場を失ったエトシアの魔法が速度を上げる。男の背後、闇が広がる。五本の触手のようなものがその広がりを助長させ、最終的に一つの"手"を形どる。
「・・・仕事柄。信じられるは"己が手"のみ。」
闇一色の手は主の体をすり抜けて静かに、ゆっくりと進む。その大きさはまさに災害。迎え撃つ竜は、比べればまさに髪の毛一本のようで、弾幕は微粒子。
戦場には二人と手だけが残った。
「・・・見るものすべてに恐怖を。触れるものすべてに終焉を。"闇の手"が肯定するだろう。すべての存在を。」
吸い込まれていく。突き放されていく。草木や動物が様々な方向からの力にさらされ、あるものは耐えきれず爆散し、あるものは姿かたちが変形する。地を、世界を撫でるその手は対象をあるべき姿へと変える使命を負って進む。同じ線上を何週と回ろうとも止まることはないだろう。
「ならば私が貴様の存在を否定してやるしかないだろうな。」
塵芥でしかないもの一つ、等しく撫でて肯定する。なにものとも寸分違わず同じ物質として。飲み込まれるか壊れるか。存在感が増していく女性はどのような気持ちを抱えるのか。光り輝くエトシアは、羽のような模様の刻まれた剣を片手に掲げて真っすぐ見据える。
「私は、貴様を討ちにこの森へ来たのだ。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
命からがら逃げだした先は異様な光景だった。地面が捲れてはがされるほどの力が襲う区域にただ一つ光差し込む空間。小動物が数匹と蝶が数匹群がっている。見えないだけでまだまだ潜んでいる虫や動物がいるかもしれないが、それよりも中心の"ソレ"に目がいった。
ーーーソレこそ、あなたを幸せに導く代物ですよ!
手持ち部分や刃に羽のような、燃える炎のような模様が刻まれた一振りの剣。周りの暗い景色の中で明るい空間があることが異様ではあるが、すべてを吹き飛ばすがごとく異彩な輝きを放っていた。
ーーー手にとりなさい。でなければ、死んでしまいますよ!
両足などすでに動かない。右手もただついているだけ。残った左腕だけで体を引きずり、剣のもとへ向かう。片目がつぶされ、もう片目もほぼ見えてはいないが、なぜ情景が映るのか。そんなことも頭で考えられない中、進む。
ーーーほら早く!とって。とってよ。こんなに光り輝く剣、他にないよ!
小動物や虫が自然と道を開ける。無我夢中で左手を伸ばし、その剣を手にした。
ーーー・・・・あらあら。手にとっちゃった!
黒とピンクの髪をした少女、その姿が歪んでいく。
背丈はほぼ変わらない女の子。だが容姿は大幅に変化しており、いたずら好きのピエロのような姿へと変貌していた。
「うひひヒヒヒ!!!慣れとか言っちゃってさ!魔法の進行がめちゃめちゃ進んだだけなのに!」
空中でケタケタと笑うピエロ少女は、倒れ伏すアメルを見下ろしている。調子に乗っているからか、その高度は徐々に下へと降りる。
「てんせいしゃ・・・?だっけ。この世界に初めて来たー!とか言う。・・・利用されちゃったね!原住民に!」
アメルの傷が塞がっていく。流血箇所もなくなり、体力も直ぐに回復するだろう。それを悟って早めに距離をとろうとするピエロだったが。
「・・・!?」
目で捉えられぬ速度で、ピエロの顔を剣の切っ先が掠める。意識がないであろう少年から繰り出された。
「・・・見えてないはずだけど・・・?聞こえてもないはず・・。」
ピエロは冷汗をかくが、それ以降の攻撃がないことから平然とした表情へ戻った。だがもう油断はしない。
「なんか撤退した方がよさそうだね。目的も達成したし。・・・じゃあ、聞こえてないだろうけど、一つアドバイス!」
姿が薄くフェードアウトしていく。だらんと立ち上がったアメルは、最後までその姿を目視できない。
「第一印象が良い人に、ロクなのいないから!・・・じゃ!バイバイ!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魔法発動時は見えていた。だが大きな災害が見えた途端、とてつもない力に引っ張られ、森へ飛ばされてしまった。ヴィクラネオともはぐれただろう。このような無茶苦茶な魔法を使えるのは一人しか知らない。
「師匠。・・・一体、どれほどの敵と。」
逃げることを最優先にした方がよいが、アメルを野放しにしておくと何が起こるかわからない。底知れぬ不安が襲っていたのだ。
あの"爆発魔法"で機能停止したと見てよいはず。実際、気絶に近い状態だった。だが・・・
「やっぱり。生き延びてた。」
目の前には下を向く金髪少年の姿。間違いない、アメルだ。しかし違和感がある。あれほどの攻撃を叩き込んだにもかかわらず損傷が見当たらない。この漆黒の中で周辺がほんのり照らされており、小動物や虫が集まっている。なにより左手に持つ剣一振りが脅威という概念ではなく。
「・・・今、不思議と力が湧いてきてんだよ。・・・俺の都合で悪いけどさ、決着つけようぜ。」
空に光が差し込む。昼を取り戻しつつある森の中へ、動物たちが去っていく。こちらを向く彼の顔は完全には治ってないのか、右ほほに小さな傷跡が残っている。雰囲気は出合った時とは変わらないが、心の余裕が違う。
「ハアアァァァ!!!」
先手必勝だ。両手を掲げてボボボと音を立たせる。渾身の爆発魔法をアメル目がけて放つ。
ドゴオオオオオオォォォォン!!!
轟音が鳴る。避ける素振りは見えなかった。仕留めた・・・と思ったのもつかの間、土煙から剣を構える人影が見えて。
リエンの体から血しぶきが舞った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます