一章六話 「言った言葉は返ってくる」



 ーーーここは本のような世界だ




 「魔法には火、水、風、土、雷、その他がある。五つは基本であり、一人につき1,2つ使える。その他の中には"特別魔法"と"複合魔法"があり、複合魔法は火と水をかけ合わせて氷ができたりするものを言う。」




 ちょっと遠くなった。このくらいの距離がちょうどいい。



 「やっとここまで来たよ。」



 君は誰なんだ?



 「・・・そうだなぁ。道しるべ?」



 自分でもよくわかってないのか?



 「うん。でも、あなたの道は示すから・・・」



 ・・・・・。



 ・・・俺はなにを疑っていたんだ。こんなあどけない少女を。怪しさなんて何もない。純度100で透き通っているではないか。




 「お願い。私を見て。」






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 渾身の一撃だ。小鬼と戦った時の数段速く重い。しかもそれをガードもしない無防備なでこめがけて殴りつけた。それなのにこの少女は



 「む。・・・てっきり商人とか遭難者とかそんなとこだと思ってたのに。膂力あるんだね。」



 その位置から微動だにしない。とにかく肌が固いのだ。敵は余裕なんて段階じゃない。デコピンほどさえ効いていないのだ。




 「あぁ、忘れてた。・・・私、"リエン・リビューテシア"。よろしくね。」



 「ゴッ!?・・・グホァ!」



 明らかに俺より重い一撃をみぞおちにめり込ませ、自己紹介をする。硬化しても到底抑えることのできない衝撃で、嘔吐感とともに膝をつくことになった。強すぎる。攻めと守り、どちらかに偏ってくれていればどうにかできたかもしれないが、そのどちらも俺の倍以上だ。




 近接では絶対に適わない。俊敏上昇中級により後方に全力で後ずさった。わざと木に背をぶつけて勢いを止める。先の二撃に比べれば痛くない。間髪入れず左手を突き出す。



 「サンダーショット!!」



 「電砲でんほう



 バリバリと唸るもの、電砲を直線上に放つも、同じく片手を突き出したリエンに相殺される。




 「すいふうひょう



 続けざまに色とりどりの弾丸が飛んでくる。数弾は横にそれて避けるも、そこから10弾近くはその身に受け続けてしまう。様々な痛みが襲ってくる。身が焼け、撃ち抜かれ、切られ、冷え、、、




 「・・・3種以上の使用は珍しいんじゃないのか?あいつが馬鹿みたいじゃないか。」



 「私は珍しいの。せいぜい崇めることね。」



 「崇められる側ってのはいい思い出がねぇな。」



 「知らないわよ。・・・てかタフね。」



 確かに何発も攻撃を受けてきた。結果一つ分かったことは、魔法の方が数段弱い。




 「・・・リエンっていったか。お前に俺は殺せねぇぞ。」



 「は?」



 「なぜなら・・・」



 この準備時間に俊敏、腕力、硬化をまたしても最大限上げておく。相手の欠点は完全に俺を舐めた思考回路だ。それでも十分と判断しているんだろうが、だからこそ



 「逃げれば俺の勝ちだからだ! じゃあな!」



 突きやすい隙を最大限利用し森の中へ駆け込んだ。







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 「はぁ!? 待てこのっ」



 「お前が待て。」



 一連の行動中、後方で傍観決め込んでいた少年が口を開く。



 「冷静さを欠きすぎているぞ。お前ならこの位置からでも"吹き飛ばせば"終わる話だろう。」



 「・・・ふざけないで。これは私のプライドの問題。口出してこないで。」




 逃げたウサギの処理、狩るだけだ。"使いたくない技"まで使う必要なんてない。ただ、あれは自分の肉体以上にその効果を上げてきている。火事場の馬鹿力では説明がつかないはずだ。であれば身体強化魔法か。さしずめあの女にでも叩き込まれたのだろう。



・・・あの女は私でもわかる。絶対に勝てない。"あれ"を使ったとしても意味がない。これでは一生封印したようなものだが、それでいい。できることなら忘れたい。




 しばらく森の中を走っていると、見失っていた金髪が目に入る。歩きなれていないのか、草木に足止めを食らっている。足取りも想像通り、実戦経験はないようだ。



おそらくこちらの魔法に大した攻撃力がないのは知られている。ならば直接近接を叩き込めれば勝ちになる。ゆえに気づかれないよう、音を立てずに彼への距離を詰めていく。



 「サンダーショット!!」



 「ッ!? チィッ!!」



 正面目がけて放たれた電撃を右手で殴り破壊。近づいていることはすでに感ずかれていたらしい。そして対処したわずかな時間を利用して、また目の前から姿を消してしまった。



道すら歩きなれていないあの体たらくで、すぐに視界から消えれることが可能なのか?否、だとすればすぐ近くに隠れているほかない。大きく息を吸う。




 「聞こえているんだろう!!名も知らぬ男!!・・・攻撃の一切も効かないと知れば即逃亡か?お前には誇りも何もないのか!?あの女もさぞ悲しいことだろうなぁ。時間稼ぎを頼まれたか知らんが、お前に私たちの対処を任されたのだろう?こんな早い段階で私たちが向こうの手助けでも始めれば、お前が逃げたことも全部わかるぞ!それでも」





 「・・・悲しむって柄じゃないだろ。あいつ。」



 「そこかっ!!」



 足元の地面が陥没するほどの速度を付けて、声のした方へ飛びつく。もう面倒くさい行動をされても困るから全力だ。姿はまだ見えないが、近くの木でも殴りつければ衝撃だけで致命傷を負うだろう。本心には違いないが、挑発に乗ってくれてよかった。自分が正しいことの証明にもなる。




 「止まった方がいいよって言っても聞かねぇか。プライド高そうだもんな。」







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 「なんだこれ!?私の力でもちぎれない!?」



 今、俺の目の前には蔓でぐるぐる巻きにされた少女が懸命にほどこうとしている。・・・語弊がありそうだが、そのまんまの状況だ。



 後方で腕組んで見ているだけの男には気づいていた。師弟とかではなくフラットな関係だったため、"自分一人でいい"と事前に決めているのだと思う。そういう手前、やっぱり手伝って~なんてなかなか言えないだろうと予想した。散々俺の前で格下的扱いしていたしな。"逃がしとけあんなの"って扱いされたらそのまま逃げてた。だから、挑発に乗ってくれてよかった。




 「それは釣り蔓だ。内側からはどうにもできないよな。よくわかるよ。」



 「今すぐほどけ!まだ私は戦える!!」



 「そのまま待っとけ。俺にそんな誇りなんてないしな。・・・あ、俺の名前だったか。えーと・・・・」







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 「リエンを殺ったか。なかなかやるな。」



 「殺してねぇよ!?傷一つ与えられそうもなかったから、いっちょ縛り上げてきた。」



 リエンの時より重い威圧を食らい冷汗がだらだらと流れるが、平静を装って自分の片方の手首をつかみ、縛り上げたというジェスチャーを表す。この男は、思い通りには動いてくれなさそうだ。勝てるわけないのだが、先までの経験により胆力はついたのか。




 「まずは、名乗りから入ろうか。・・・私の名は"ヴィクラネオ・リビューテシア"。」




 「俺の名前は・・・"アメル"。」




 偽名を使う必要はなかった。ただの現実逃避だ。状況的に転生時、この体の持ち主がいたということになる。そうなると元の"バスメル"はどこへ行ったのか。考えたくない。それに、俺が"バスメル"を名乗るのは違う気がする。




 「リビューテシア。ってことはリエンと兄妹か?あの舐めプ癖は直させた方がいいと思うけどな。俺なんかに隙をつかれちまって。」



 「であればお互い様だな。アメル。」


 


 ドオオオオォォォン!!!




 「あいつは、俺より"才能"がある。」



 突如爆発音が鳴り響き、爆風に当てられる。振り返るとそこには体を焦がしたリエンの姿。



 「ハァ・・・ハァ・・。勝ち逃げなんて許さない。アメル!!」




 「・・・タフなのはそっちだろうが・・・!」






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