第九の犯行
あれから二週間、先輩から連絡が帰って来ない。
その代わりとでも言うのだろうか。
『梶浜町連続男性失踪事件』改め『梶浜町連続男性誘拐殺人事件』の被害者と見られていた人々が遺体となって全員が発見されたのだ。
それも、警察がマークしていなかった倉庫街付近の海で。
ある人物が容疑者候補として浮上した。
柚牧
先輩は一度事情聴取に当たった柚牧 神と私的な交流があった事から何か関係があるとして捜査を進めている。
先輩がいなくなった途端、みんな嬉々として事件について関わり始めた。
嫌な感じだ。
先輩の家に行ってもしばらく帰った様子は無く大家に鍵を借り、部屋の中を見て回るもほとんど荷物は置いたままになっていた。
職務を完全に放棄し、その上容疑者として名前が上がった先輩は事実上の懲戒免職扱いだ。
「先輩、どこにいるんですか…あんなに仕事に真っ直ぐな貴方が…嘘だとみんなに教えてください。」
そうして柚牧と藤川、両名の捜索が始まり二年が経過するも未だに発見されていない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
寒い……
あぁ、裸だからか。
「
寝惚けながら奴が俺の名を呼ぶ。
「なんだ
「はい…礼さんは暖かくて気持ちがいいです。」
布団の中で優しく包み込むように神は抱きしめてくれた。
「あれからもう二年ですか…早いですねぇ。」
「そうだな、だがまだお前は外に出るなよ。」
「分かってますよ、貴方の傍にずっと居ますから。」
体の向きを変え、神の方を見る。
にっこりと笑う恋人に口付けをする。
「どうしたんですか、そんな可愛い事してくれて。」
「ヤリたくなったから…」
俺は神の足へと手を回し、誘っている事を伝える。
「スケベですね、礼さんは。」
「嫌いか?」
「いいえまさか、やらしくて大好きです。」
そのまま俺と神はお互いを求め合い、体を重ねた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕は異常者だ。
それは理解しているし、認めている。
小学生の頃の楽しみは、昆虫の体を分解する事。
生き物の体が不思議と気になり仕方がなかったのだ。
同級生は気味悪がり、両親は心の病を心配した。
中学生の頃の楽しみは、人を殴り続ける事。
昆虫は小さいし、何を思っているのか分からないけど人間は殴ると泣くし痛いと感情を言葉に出してくれるから分かりやすくて楽しかった。
両親は呆れ、教師と一緒に僕を責め立てた。
高校生の頃の楽しみは、人の体温を生身で感じる事。
殴ると痛みで泣くけど、セックスをすると快楽で泣くことを知った。
女の子も触ったけど、男の子の方が心地良かった。
両親は僕に興味を無くし、病院の先生は手の施しようがないと匙を投げた。
両親は世間体を気にして高校は卒業させてくれたけど、その後はお金を沢山渡されて『二度と帰ってくるな』と追い出されてしまった。
一人になったことは悲しくなかったし、むしろこれからは周りでごちゃごちゃ言う人がいないからと楽しみもあったくらい。
お金を渡して誘えば人は隣で寝てくれたし、セックスもしてくれた。
ちょっと痛い事をしても、お金をあげればみんな黙っててくれた。
だけどある日、ちょっと力を入れすぎてうっかり殺しちゃった。
殺しちゃった人は名前が思い出せなくて、でも忘れているとモヤモヤしちゃうから思い出せるまで傍に置いておいたんだ。
それでも思い出せなかった人達はちょっとずつ色んな所に捨てて行った。
そんな時だ…
初めて藤川さんを、いや礼さんを見かけたのは。
最初は夜の抱き枕にいいなと思ったけど、ぼくが持って帰っちゃった子の事で礼さんが家に来た時は運命だと思った。
容疑者として疑われるのも良かったけど、攫いに行く前の動画がたまたまあったからわざと出して怪しくないと見せつけた。
こんな出会いきっと二度とないから、連絡先もう無理矢理ゲットしたし無理にでもご飯に誘った。
なんか普通の人みたいで楽しくて仕方なかった。
会う度に自分が抱く感情が分かるようになっていった。
あぁ、恋してるんだって。
礼さんに出会ってまともな人間になりたくて、礼さんの歳に近い人を攫ってからは誰にも手を出さなかった。
歳の近い人なら欲しいものとか分かるかと思ったけど、がたがた震えてるだけで何も教えてはくれなかった。
礼さんとデートした後は、興奮が治まらなくてその人を犯してなんとかしていた。
本人にしたら嫌われちゃいそうなことも、代わりにやって楽しんでた。
でも次第に満足できなくなって、それが逆に苦しくなった。
あの人に代わりなんていないんだって気付かされたから。
貴方のためになら、僕は犬でも猫でも、殺人鬼でも
その代わり、僕の前では素直でいて欲しい。
信じています。
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