第八の犯行
目が覚めると、もうすでに昼過ぎになっていた。
こんなに長く眠ったのは久しぶりだ。
携帯を見てみると、案の
俺は折り返し連絡し、猿渡と会うことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「話ってなんだ。」
近所のカフェで猿渡と落ち合い話を聞くことに。
「先輩、俺先輩が嫌われだした理由、ちゃんと聞きました。」
猿渡は俯いたまま、話し出す。
「前からずっと先輩がどうして避けられてるんだろうって気にはなってたんですけど、聞けなくて……」
「
「………」
こいつに知られたところで問題は何も無い。
「で、お前はどう思った?」
「あんな事で人との関わりを絶ってしまう弱いやつだと思ったか?」
「違います!!」
猿渡が急に顔を上げる。
「弱い人って言うよりも、可哀想な人だと思いました。」
「は?」
あまりの答えに俺は眉間にしわがよる。
「そんな辛い経験をしてしまったから、苦しくても誰にも頼れなくなってしまっている。」
「そんなの可哀想じゃないですか。」
猿渡の手が伸びてくる。
「俺なら、貴方を守ってあげるのにって。」
俺の手を取り、少し潤んだ目を向ける。
「俺、先輩の事好きです。」
「誰よりも傷ついているのに誰よりも真っ直ぐに生きている貴方を守りたいんです。」
全身に鳥肌が立つ。
なんて言うか……………
気持ち悪い。
なんでだろうか、こいつに触れられるのがすごく嫌だと感じてしまう。
俺は猿渡の手を振り解き、早足でその場を去った。
「先輩!待ってください!」
カフェを出てしばらくした後、猿渡の走る音がした。
触れられたくなくて、人気のない公園を通り抜けようとしたところで腕を掴まれてしまった。
「先輩…はぁはぁ…なんで、逃げるんですか…はぁ…」
「返事を聞かせて下さい。」
返事なんて決まっている。
「お前のその感情は恋なんかじゃねえよ。」
「そ、そんなことありません!俺はちゃんと先輩が好きです!」
「違う、それはただの哀れみだ。」
猿渡の俺の腕を掴む手に力が入る。
「お前は俺の過去を聞いて同情して哀れんでるだけだ。」
「哀れみと恋心を一緒にするな。」
「っ……」
強引に引き寄せられると、俺は木に押し倒され唇を塞がれる。
「んんっ…!?」
猿渡をつき飛ばそうとするが、力が強すぎて出来ない。
「ぷはっ、やめろっ…離せ猿渡!」
なんとか顔を逸らす事は出来たが身動きが取れない。
「俺は好きなんですよ、なんで分かってくれないの?」
また猿渡の顔が近づく。
嫌だ。
「触るな!俺に触るなっ!」
その瞬間、
「ぐはっっ!!」
猿渡がドサッとその場に倒れる。
「
柚牧がいたのだ。
「柚牧…お前なんで…」
「とりあえず逃げましょう、さぁ早く。」
柚牧に手を引かれ、俺は走り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「すみません、無理に引っ張ってきてしまって。」
俺達はその後、柚牧の家へと向かった。
「その、助かった。感謝する。」
俺は柚牧に握られていた手を見つめる。
さっき猿渡に触れられた時はあんなに気持ち悪いと思っていたのに、奴に触られるのは嫌ではなかった。
「あ、すみません…僕と会いたくなんてなかったですよね。」
「は?なんで…」
「昨日あんな事したのに…」
昨夜の事を思い出す。
そして俺は、ある答えに辿り着いた。
認めたくない、認めてしまえば俺の十年以上もの生き方が全て無意味になってしまう答えに。
「なぁ、お前は…信じてたやつに裏切られた事あるか?」
「え…」
「大事にしていたはずのものが手元からスッと消えてなくなったような感覚になったことは?」
「……嫌なんだよ、誰かを信じる事も、愛す事も…」
また裏切られるから。
「藤川さん…」
ふわりも何かに包まれたかと思うと、ギュッと抱き締められた。
「僕は裏切られた事も、何かを無くしてしまう感覚も分かりません。」
「でも貴方を愛している事だけは分かります。」
「嘘だ…そうやってまた俺を裏切るんだろ!!」
「簡単に切り捨てて、馬鹿にして笑うんだろ!」
俺は叫ぶ。
「貴方が人を信じられないのなら、僕を信じてください。」
「僕だけを見て、感じて、生きてください。」
柚牧は俺の顔にそっと手を添える。
「貴方が望むなら、僕は"神"《かみ》にだってなりますよ。」
そう言われた途端、身体から力が抜けた。
そして涙が溢れ出して止まらなくなった。
「な、なんで…うっ、涙なんか…出てくるんだよ…ううっ…」
ずっと欲しかった言葉を貰ったような、そんな気分だ。
頭を柚牧の手が優しく撫でてくれる。
安心してしまう。
「ならなってくれ…」
「何になるのをご所望ですか?」
もう、認めるしかない。
「俺の
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