第六の犯行
「
隣を歩く
「なんでもいい。」
「なんでもいいか…困ったな何がいいかな。」
悩む柚牧にそっと声を出す。
「なんでもいいが、酒が飲みたい…」
「お酒ですか?」
「でも、この間は次の日の仕事に支障が出るから飲まないって言ってませんでしたっけ。」
「どうせ俺は謹慎食らって仕事が出来ないんだ、酒くらい飲ませろ。」
すると、柚牧は俺の手を取った。
「なら僕の家に来ませんか?お酒とおつまみを買って二人で飲みましょう。」
俺はその提案を受けいれ、コンビニに寄った後柚牧の家に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらく飲み進めると、柚牧はまた問いかけてきた。
「何があったんですか。謹慎を言われるなんてなかなか無くないですか?」
「言わねぇよ…言いたくねぇ。」
俺は机に突っ伏し、顔を隠した。
「僕、誰にも言いませんよ。他に友達も知り合いもいないですし、何より貴方の役に立ちたいですもん。」
こいつは謎だ。
「なぁ、なんでお前はそんなに俺に近づくんだ。」
「こんな面白味の欠けらも無いおっさんに、何が楽しくて構うんだよ。」
伏したまま顔を上げ柚牧を見る。
そのなんでも見透かしていそうな目に、俺はどんな風に写っているんだ?
何が俺にお前を構わせるんだ?
「それは…」
柚牧の手が俺の頭に伸びる。
次の瞬間、遠の昔に忘れた筈の感覚が頭に感じた。
撫でられている。
「なっ!?」
「すみません、嫌…ですよね。でも少しだけ触らせてください。」
わしゃわしゃと髪を無造作に撫でられる。
懐かしい感覚、大好きだったはずのこの感じ。
「僕、貴方に会って変わった気がするんです。」
「今までほとんど何も考えず、ただ楽しいからって理由でやっていた事が、貴方に出会ってからそれだけでは満たされなくなってしまった。」
「貴方みたいなものに触れたい、貴方みたいなものに愛されたい……いや…」
「貴方に愛されたいって感情が溢れて止まらないんです。」
柚牧の手が俺の顔に触れる。
「柚…牧。」
「一度だけ、一度だけでいいんです。」
「許してくださいね。」
グイッと強く顔を引っ張り挙げられたかと思うと、ふと唇に柔らかく暖かいものが当たる。
それはすぐに分かった。
「んんっ!?」
柚牧の唇だ。
奴は俺の腰を掴むと、自分の方へ抱き寄せ深いキスをする。
「んっ...ゆ…ぢゅま…ひっ…//」
頭がふわふわとする。
酔っているのか、酒のせいなのか。
静まり返った部屋に、キスをする音だけが響く。
数秒後、やっとの事で開放されたかと思うと柚牧は俺を抱きしめた。
「僕、貴方が好きです。他の何よりも貴方だけを"愛しています"。」
愛している。
その言葉は、聞きたくない…
「離せっ…!」
「っ!待って、藤川さん!」
俺は柚牧を突き飛ばし荷物を持って家を飛び出した。
「藤川さんっ!!」
奴の止める声を無視して。
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