第五の犯行

『礼君、愛してるわ』

『私は貴方を絶対、裏切らないから。』


あぁ、俺も愛してる。




信じてるよ、ずっと…




『礼君ごめんね、私他に好きな人が出来ちゃったの』

『だから貴方とはもう居られない、さようなら。』


嘘だろ…

待ってくれ、行かないでくれ……


『お前はもう捨てられたんだよw』

『分かったら二度と俺の女に近づくなよ、このクソ雑魚野郎が!』


なんでだよ…

裏切らないって言ったじゃないか。


『礼君、無様でカッコ悪ーい!』

『馬鹿みたい、せいぜい私を忘れられずに苦しんで生きる事ね。』

『あはははははっ!!!』


なんで……

どうしてなんだよ……!!!!!!


──────


「月美っ!!!!!!」


俺は叫びながら飛び起きる。


いつも通りの目覚め方だ。


「もう、やめてくれ……」


最悪な目覚めと共に最悪な朝を迎える。


10年以上もこんな生活を続けていると、人の事を信じられなくなる。


哀れで醜い人間だ。


寝不足の目を擦りながら、仕事へ向かう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「本日から『梶浜町連続男性誘拐殺人事件』の担当になった、松鳥まつどり警部だ。」


「松鳥です、よろしく。」


「は?」


署に来て早々に新しい人間が出てきた。


「そしてこれからこの事件は松鳥と猿渡に行ってもらう。」

藤川とうせんは外れてくれ。」


「な、なんでですか!なんで俺が外れなきゃいけないんだ!」


「上からの命令だ、俺に聞くな。」

「後は松鳥、任せたぞ。」


戸川警視はその場を後にした。


「先輩…」


「なんでなんだよ…」


猿渡さわたりがオロオロとしていると、松鳥警部が口を開く。


「安心してくれ、藤川さんの後もきちんとこの事件の事は解決に導いてみせるからさ。」


松鳥警部は俺の肩に手を置いた。


俺はその手を勢いよく振り払い、睨みつける。


「あんたも信用しない。この事件は俺の担当だ。」

「俺一人でやるから手を出すな。」


そう言って資料を掴み、そのまま捜査へと向かった。


「先輩!待ってください、先輩!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それから数日後、俺は上に呼び出された。

勝手に担当外の捜査を強行したとしてしばらくの謹慎を言い渡された。


「先輩、俺…」


「お前は何もしてないだろ、せいぜい松鳥警部と仲良く仕事してろよ。」


猿渡を背に俺はその場を後にした。


すると廊下で松鳥警部と対面してしまった。


「あーあ、やっちゃいましたね。藤川さん元からここでは嫌われてたのに、これでますます仕事貰えなくなりますよ。」


そして耳元で、囁いた。


「ご愁傷さま、負け犬さん。あははっ!!」


笑いながら松鳥警部は去っていった。


─────────


自宅に着き、携帯を見ると柚牧からのメールが来ていた。


『藤川さんへ、今日一緒にご飯食べに行きません?』


どうしてだろうか、このメールを見て少し胸が楽になった。


もう絶対に人を信じないと決めていた心が、少しづつ変わっている気がする。


スーツを脱ぎ、楽な格好に着替えてから俺は柚牧の元へと向かった。

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