第四の犯行

あれから数ヶ月、俺と柚牧ゆずまきの交流はまだ続いていた。


出かける度に次の予定を決められ、俺も俺であまり抵抗せずに受け入れている。


抵抗しても無意味なことが分かっているからだ。


奴は予定を断れば、俺がうんと言うまで署の前で出待ちをするから。


「あっ、藤川とうせんさーん。」


「げっ、またいる…」


季節はすっかり冬だと言うのに、マフラーひとつ巻かずに待つ姿が見ていられない。


「もっと暖かい格好しろよ…見てるこっちが寒いんだよ。」


「そうですか?僕はそんなに寒…ふぁっ…くしょん!」


柚牧は寒くないといいながら盛大なくしゃみをする。

見れば見るほど子供っぽい奴だ。


俺は首に巻いていたマフラーを取り、柚牧へ手渡す。


「藤川さん、いいんですか?」


「隣でくしゃみされたり風邪ひかれちゃ困るんだよ、おっさん臭いかもしれねぇが文句言うなよ。」


「そんな、ありがとうございます。」


大事そうにそっと首に巻き、顔を埋めて奴は笑う。


「ふふっ、いい匂い。藤川さんの匂いだ。」


俺は首元に寒さを覚えながら、飯を食いに向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その日から四日後、新たな行方不明者と二人の遺体が見つかった。


まず、遺体の方は二体ともが『梶浜町連続男性誘拐殺人事件』の被害者と思われていた二名のものだった。


行方不明になったのは38歳の会社員、斎藤美鶴さいとうみつる


彼は残業を終え、深夜2時に防犯カメラが会社を出るところを捉えて以降一切の目撃情報がなかった。

四日も帰らない事を心配した彼の家族の通報により発覚したのだ。


「あの人はこんなに長く家を空ける人では無いし、何より私や子供達の出迎えを楽しみにしているのに…」

「きっと何か事件に巻き込まれたんだわ、そうに違いない!」


「刑事さん、お父さんを見つけてください。大事なお父さんなんです、これ以上家族の悲しい顔は見たくないから。」


「分かりました、全力を尽くし捜査に当たります!」


そして、俺と猿渡さわたりは聞き込みのため街に出向いた。




「先輩、今回の行方不明も『誘拐殺人事件』の被害者ですかね?」


「多分な…だがそれにしては歳が今までの被害者と離れすぎている。」

「現在行方不明になっている奴らの歳は20歳前後なんだ。下が18歳、上が26歳。」


「確かに、今までは俺の歳に近い人でしたもんね。でも今回はどちらかと言うと先輩に近い歳の人か。」


犯人の趣味が変わったのか、それとも元々年齢なんて関係ないのか……

どちらにせよ、また捜査範囲が広がってしまった。

一刻も早く解決しなければどんどんと被害が大きくなってしまう。


「あれ、藤川さん?」


聞き慣れた声が背後からする。

振り返ると、そこには柚牧が大きな袋を担いで立っていた。


「やっぱり藤川さんだ、こんにちは。」


「なんだお前か。」


「先輩のお知り合いですか?」


猿渡はきょとんとした顔をこちらに向ける。

柚牧の事は覚えていないようだ。


「前に行方不明者の事で訪問に行ったろ、忘れてんな馬鹿が。」


「あっ!あの時の人か。すみません!」


「いえ、気にしないでください。誰でも忘れる事はありますから。」


ペコペコと頭を下げる猿渡に柚牧はにっこりと笑顔を返す。


「ていうかなんだよ、その大きな袋は。」


俺が袋を指差すと、奴は嬉しそうに笑う。


「最近ちょっとモヤモヤしてることがあったんですけど、新しい"玩具"を手に入れたのでそれで遊ぶ為の物なんです。」


おもちゃで遊んで気晴らしなんて、どこまでも子供っぽい。


「まぁいい、俺達は仕事がある。じゃあな。」


「では、失礼します!」


「お仕事頑張って下さいね、お二人共。」


柚牧と別れ、俺達は仕事に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る