第三の犯行
「で、話ってなんだ?
帰る俺を呼び止めるほどの話があるのか、柚牧。」
柚牧に問いかけると、奴は恥ずかしそうに下を向いた。
「実は…貴方の事がすごく気に入ってしまいまして、もし良かったら今度食事なんか行きませんか?」
「行きません。」
俺は奴の質問に間髪入れずに応える。
「どうしてですか!」
「忙しいんだよ、そんな簡単に飯なんか行けるか。」
「それに俺は誰とも仲良しこよしになんざならないって決めてるんだ、諦めな。」
そう言って後ろをくるりと向き、玄関に戻ろうとした途端尻ポケットからスマホが抜き取られた。
「なっ、てめぇっ!返せ!」
柚牧は部屋中駆け回りながら俺のスマホを盗み見る。
「お前捕まりたいのか!刑事のケータイ盗るなんざいい度胸してるなぁ!」
20代前半の奴と30代後半の俺では足の速さが違いすぎて、奴の腕をやっと掴んだ頃には電話番号とメールアドレスがおさえられていた。
「これで貴方に連絡できますね。」
「お前…はぁはぁ、相手が俺で良かったな。他の刑事なら即逮捕案件だぞこの野郎…はぁはぁ。」
「絶対に連絡しますから、見てくださいね。」
「もう好きにしろ…疲れた。帰る…。」
俺は奴を叱る気力も体力も無くなり、諦めて猿渡の待つ車に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日から、本当に奴からメールやら電話がひっきりなしに来た。
最初の方はお断りメールも電話もしていたがあまりに多いので無視。
だが無視も効かないくらいに誘い続ける奴に狂気すら覚え、最終的には半強制的に了承させられた。
「また会えて嬉しいです、藤川さん。」
「俺は会いたくなかったよ…。はぁ…ていうか何処に行くんだよ。」
「そこのファミレスにしましょう。僕、ファミレスに行きたいです。」
奴は嬉しそうに俺の腕を引っ張って行く。
夜遅かったせいか、ファミレスには殆ど人はおらずガランとしていた。
「何食べます?今日は僕、奢ります。」
「いや、年下に奢らせるのは趣味じゃねぇ。好きなの頼め、奢ってやる。」
奴は目をキラキラとさせながらメニューを眺め、次々と注文をした。
「おまたせしました、こちらお品物になります!」
エビのグラタンと五目ピラフにチーズハンバーグ、シチューパイに炒飯…
「どんだけ食うんだよ…てか食い切れるのかよ?」
「はい、僕こう見えてめちゃくちゃ大食いですよ。」
落ち着いた声とは裏腹に腹を空かせた子犬みたいな顔で料理を美味そうに食っている。
「俺が言った事だが、一応奢られる側なんだから少しは遠慮しようとかないんだな。お前は…」
「だって今日沢山奢って貰えれば、そのお礼として今度は僕が奢るっていう約束ができるじゃないですか。」
「そういう事かよ…てか俺が次も行くと思うか?」
「来てくれないんですか?」
奴はうるうるとした子犬の瞳をこちらに向ける。
「言っておくが、俺にそれは聞かないぞ。」
「自他ともに認める人に興味無い冷たい人間なもんでな…」
そんな俺を見て奴は少し表情が暗くなる。
「貴方が人に興味が少しも無い冷たい人なら、刑事になってないだろうしこうやって僕と食事だってしてはいないでしょう?」
「自分をそんな風に言わないで下さい、悲しいから…」
そんな事、生まれて初めて言われた。
悔しいが嬉しい気持ちが溢れてくる。
「………るよ。」
「え、なんですか?」
「仕方ねぇから、あと一回だけ行ってやるって言ったんだよ。」
何故かは分からないが少し照れくさくなり、頭をガリガリと掻く。
奴はにっこりと大きな笑顔を浮かべバタバタと手を動かす。
「やった、嬉しいです。ありがとうございます!」
「嬉しいのは分かったから、とりあえず暴れるな。」
こうして、また奴と出かける予定が出来てしまった。
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