第二の犯行
『梶浜町連続男性失踪事件』改め『梶浜町連続男性誘拐殺人事件』。
その第一の被害者である澤田 凛の遺体が発見されてから一ヶ月、なんの証拠も手がかりも掴めずにいる。
そして今日、新たに被害者と思われる男の情報が入った。
名は真澄 翔。20歳の大学生でコンビニのアルバイトをしていたそうだ。
通報したのは彼の両親。
二週間以上も連絡が取れず、大学にも訪れていないという。
元々家をよくあける方だったが、さすがに何かおかしいと思ったそうだ。
彼が最後にとった通話は彼女とのものだった。
彼女は彼の自分勝手な振る舞いに愛想を尽かし、デートの予定をドタキャンした。
それに怒り真澄が彼女に電話したらしい。
「私、こんなことになるなんて思わなくて。いつもみたいに私の話とか聞いてくんないんだろうなと思って…」
「私がちゃんと行っていれば…こんな事には…うぅ…」
「刑事さん…どうか息子を、翔を見つけてやってください!お願いします!」
弱々しく向けられた手を猿渡は涙を流しながらしっかりと掴んだ。
「安心してください!必ず俺達が、息子さんを見つけ出してみせます!」
両親はお願いしますと言いながらその場に膝から崩れ落ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回の件に関しては、他の被害者と違う点があった。
それは行方不明になったと思われる日の前日の夜、被害者である真澄 翔の目撃情報がある事だ。
真澄は彼女との電話を終えた時間の少し後に、よく行く居酒屋にいる姿が店員や周りの常連客にもしっかりと目撃されていた。
真澄は一人ではなく、見知らぬ男と来店したそう。
その様子は防犯カメラにもしっかりと写っていた。
金髪の真澄より背の高い、顔立ちの整った男だ。
「ん、コイツどこかで見た気が…」
そいつはすぐに分かった。
俺と猿渡はその男の家に向かい、インターホンを押す。
『はい、どちら様でしょうか?』
「警察の者です、少しお話伺えませんか。
数日前から行方不明になっている真澄 翔さんのことなのですが。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「柚牧 神(ゆずまき じん)さんですね?」
「はい、僕は柚牧 神です。」
「俺は藤川、こっちは猿渡です。」
「さっそくですが、あなたは二週間程前に写真の彼と『酒豪館』という居酒屋に行きましたね?」
俺は柚牧の前に、真澄と居酒屋の写真を置く。
「はい、確かに僕は彼とこの居酒屋に行きました。」
柚牧が軽く微笑みを浮かべながら頷く。
「彼とはどういう経緯で出会ったんですか?」
そう言うと柚牧は、出会った経緯を話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの日、僕は少し嬉しい事があってどこかにご飯を食べに行こうとしてたんです。
その時に彼…翔くんと出会いました。
スマホを耳に当て、誰かにすごく怒鳴っていました。
電話が切れたのか、ものすごい怒っていて今にも暴れだしそうな勢いだったんです。
そんな翔くんのことが無性に気になって、声をかけました。
『僕なんかで良ければ話を聞こうか?』って。
最初は怒りで興奮していた翔くんも、僕が本気で心配してるんだと分かると、
『話を聞いてくれるなら、あっちに行こう。』と言ってこの居酒屋に連れて行ってくれました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「その後はどうしましたか?」
「翔くんが酔いつぶれてしまったので、家までタクシーで送ろうとしたんですけど、いらないってそのまま歩いて帰ってしまいました。」
どうも嘘くさい…
初対面にも関わらず、しかも怒り狂っていた相手にそんなにグイグイいけるものか?
超がつくお人好しなのか、それか……
すると猿渡が口を開く。
「何か真澄さんが一人で帰った証拠になるものなどはありませんか?」
その言葉を聞いて、柚牧は何か思い出したように立ち上がり何かを取りに行った。
「そう、その時タクシーを呼ぼうとしたんですけど、翔くんを支えていたからあまり上手く操作出来なくて。」
「間違えて開いたカメラでなんか動画撮っちゃってたんですよね。
消そうと思って忘れてました。画面ブレブレですけど、よかったら見てください。」
そう言って柚牧は俺達にスマホの画面を見せる。
───────────────────────
『大丈夫?翔くん流石に飲み過ぎだよ。』
『ヒック、いいんだよ〜。あの女のせいだぁ〜〜』
『タクシー呼ぶけどいいよね?』
『たくしぃだぁ?だぁからいらねぇよそんなもん。おらぁひとりで帰る。ヒック、うぅ…』
『一人でなんて危ないからせめて俺も…』
『ついてきたらぶっ殺すかんらぁ〜。ヒック』
『翔く──』
ドンッ
『あっ、すんません〜!ぶつかっちゃった!』
『いえ、お構いなく。
あっ!翔…ってもうしないし。はぁ…まぁ仕方ないか。』
『僕も早く帰ろ…あれ?なんかビデオになってる。』
───────────────────────
そこで映像は終わった。
確かに画像はブレているが、しっかりそこで別れた音声が入っている。
「この時別れたっきり彼には会ってません。
でもまさか行方不明になってしまうなんて、僕がしっかり家まで送っていれば…。」
この後も柚牧から話を聞くが、有益な情報はもうでては来なかった。
「それでは、ご協力ありがとうございました!
また何かありましたら、よろしくお願いいたします!」
「はい。」
愛想良く柚牧は笑う。
「では、これで。」
「あの、藤川さん。」
出ようとする、俺を柚牧が引き止めた。
「何か?」
「少し、お話があって。」
なんだ、話?
俺は猿渡を先に帰し、柚牧宅に留まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます