第一の犯行

一年前、ある男が忽然と姿を消した。


その男の名は、澤田 凛。

26歳の会社の営業マンだった。


澤田は彼女に会いに行くと言って職場を後にし、その後行方が分からなくなった。

警察は彼女である三島 瑞葉が怪しいと調査を進めるも、彼女にはアリバイがあり結果犯人ではなかった。


今まで行方不明になったのは澤田を含め、6人。


二ヶ月に一度のペースで姿を消していることから、何らかの事件性があるとみて署内でも捜査が行われている。


俺は半年ほど、バディを組み共に捜査していた男がいたがあろう事か、そいつが捜査中にパチンコに言っていたことが発覚し左遷され、新たに新人が来ることになった。


俺は新人の待つ部屋の扉をノックする。


「失礼します。」


「藤川か、入れ。」


ガチャリと扉を開けると、神田警部と新人であろう男がいた。


「神田警部、お疲れ様です。」


「お疲れ様、まあとりあえず座れ。」


俺は二人の正面の椅子に腰掛け、新人の顔を見た。


「紹介しよう、今日からお前の新しい相棒になる男

猿渡巡査だ。」


「は、初めまして!俺…じゃなくて私は猿渡 矢次(さわたり やつぎ)と申します!」

「よろしくお願いいたします!」


緊張しているのか、少し震えながら挨拶をする。

整った顔立ちに、良く通る声。それにスラッとした健康的な身体。


見るからにモテそうな感じの男だ。


「俺は藤川 礼一郎(とうせん れいいちろう)だ、こちらこそよろしく頼む。」


俺は猿渡と軽い握手を済ませる。


「これから猿渡には藤川が行っている『連続男性失踪事件』の捜査についてもらう。頼んだぞ。」


「お任せ下さい!」


猿渡は笑顔で警部に応えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おはようございます、藤川巡査部長!」


「あぁ、おはよう。」


俺は挨拶を返し、猿渡に事件の資料を渡した。


「これが『連続男性失踪事件』の資料ですか…

想像していたよりあまり多くはありませんね。」


「まぁな、証拠が無さすぎて犯人が同一人物かさえ怪しいと言う人も中にはいるくらいだ。」


この『梶浜町連続男性失踪事件』は、とにかく証拠が無さすぎる。


未だに犯人はおろか被害者の生死すら分かっていない。

そんなほぼ迷宮入り確定な事件の捜査なんざ誰もやりたがらない。


だからこそ俺にほとんど押し付けられたも同然にこの事件がまわってきたのだ。


「被害者は全員男性…しかも年齢はかなりバラバラなんですね。」


「あぁ、10代から30代までの範囲だな。」


「犯人は所謂、ゲイ…というものなんでしょう か?」


猿渡が首を傾け、耳たぶを掻く。


「さぁな、少なくとも被害者の中にはゲイの奴はいないな。

彼女持ちやら既婚者やらが多いからな、そこは関係ないのかもな。」


俺は椅子から立ち上がり、珈琲を入れに向かった。


「あっ、俺が入れますよ!」


「いい、お前は座ってろ。」


立ち上がる猿渡を止め、俺は二人分の珈琲を持ち席に戻る。


「砂糖いるか?」


「はい、貰います!」


角砂糖の入った小瓶を手渡し、席に着く。


「そういえば藤川巡査部長は…」


「藤川でいい。」


「なら、藤川先輩。

先輩のご家族とか今どうされてるんですか?」


家族のことを聞かれ、俺は一瞬固まってしまう。


「先輩?」


「…………さぁな。」


俺は言葉を濁した。


「さぁなって、教えてくださいよ〜!

俺、先輩のこと知りたいし仲良くなりたいです!」


「嫌だ。」


「そんなこと言わずに〜!先輩!──」


「嫌だと言ってるだろっ!!!」


俺は思わず声を荒らげる。

気づいた時には、猿渡は酷く驚いた顔でこちらを見ていた。


「す、すまん…。」


「いえ、俺こそしつこかったです…すみません。」


しばらくの間、沈黙が続く。


「あの、せんぱ──」


「猿渡、藤川!いるか!」


その沈黙を破るが如く、神田警部が扉を開け駆け足で現れる。


「どうかしたんですか!神田警部!」


「それが、例の失踪事件の被害者と思われる遺体が発見された!」


「「っ!?」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「発見された遺体は、失踪事件の最初の被害者である澤田 凛のものであると判明しました。」

「遺体は既に白骨化しており、死後から一年近くは経っていると思われます。」


一年…

澤田が姿を消してからすぐに殺されたという事か?


だがなぜこんなに月日が流れてから遺体が発見されたんだ?

発見された山付近はしっかりと調査していたはずだ。


雨やらの自然現象で埋められた場所の土が薄くなった?

それならもう少し早く見つかるはずだ。


ここは登山客もそれなりにいる場所だぞ。


「先輩!

先程電話があり、ご遺族の方が署の方にお見えしているそうです。」


「そうか…分かった、すぐ向かう。」


その後、俺達は被害者の遺族に会い報告や説明などをしてその日は終わった。


だが、これではっきりとした。

これは殺人事件だ。


単なる行方不明事件ではなく、誘拐殺人だ。


犯人の目的は?

被害者は無差別なのか、それとも警察も知り得ない何か繋がりがあるのだろうか?


謎が一つ消える度に、どんどん増えていく。

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