第10話 馴れ初め 脱話編


 うちのクラスのカースト上位だけでなく、他のクラスの女子もいる。


 やっぱ来たか―って思ったよ。


 誠一郎さんは学年では最早アイドルの域にある。抜け駆けして仲良くなろうとしたら粛清されるという噂が私の耳にも入っていた。

 だが、こちらには正当な言い分がある。


「誰にも言わなかった理由は如月君が言ってたよ。気を遣わせたくなかったからって」

「それは轟君と武田君に対してでしょ。私達には教えてくれてもいいじゃない」

「でも私、天野てんのさんと話したことほとんどないし」


 天野さんはクラス女子のリーダー格。二年になって半年経つけど真面な会話はこれが初めてじゃないかな。


「私に直接じゃなくても誰かには話すでしょ」

「生憎とクラスで唯一の友達はインフルエンザで休んでるもので」


 因みにミカちゃんにはメールで教えてる。


『体調の方はどう?』

『インフル、マジ、ヤバイ…』

『片言!?しんどいのにメールしてゴメン、ゆっくり休んで』

『ううん、大丈夫。そっちこそ旗制作大丈夫?』

『大丈夫だよ。如月君が手伝ってくれてて、放課後二人で作業してる』

『マ!!?そっちもヤバいじゃん!』

『ヤバいね~』

『詳しく聞きたいけどしんどいから、回復したら報告よろ』

『二回目だけど大事なことだから、ゆっくり休んでね』


 てな感じで。


「これだからボッチは…」


 ボッチじゃないよ、友達が少ないだけで。

 学生時代の私はコミ障ではないが、漫画・アニメ以外にはあまり興味がなかった。なのでそういう話が出来る相手しか友達がいなかった。

 同じクラスではミカちゃんだけだが、違うクラスには友達もいるので今お昼ご飯はその子達と食べてる。


「さっきから色々言い訳してるけどさー、結局如月君と仲良くなりたかっただけじゃないの」


 おっと、別の所からストレートが来た。

 これをどう打ち返そうか考えてると、


「え~?こんな見た目で~?」

「もしそうなら鏡見た事ないんじゃない」

「その上キモオタなんでしょ」


 おぉっ!?打ち返す前にデッドボールが三つ来たよ。しかも他クラスの全然しらない女子から。


「はは……まぁ、如月君とは漫画の話ぐらいしかしてないから、そういう心配はいらないよ」

「はぁ、何それ?」


 あ、言葉を間違えたみたい…。


「心配って何?私達はあんたに嫉妬してるって言いたいわけ、あんたみたいなブスに」


 いや、嫉妬してるから集まってるのでは?と言いたいのだが囲いが狭まってきて怖い。

 暴力か?私はこう見えて腕っぷしは……弱いよ。オタクだけど実は強いとかはないよ。

 しかしここで、ガチャっとトイレの扉が開き、入って来る女子が。

 

「今取り込みち…!?」


 比較的扉に近かった女子が追い出そうとするが、相手を見て言葉を止める。

 

「メッチャ混んでるやん、皆順番待ち?…あれ、でも個室空いてんで?」


 あ、この声で関西弁は…、

 囲まれている状況だけど、相手の頭の部分は見ることが出来た。


「サクラちゃん!」


 私がその女子の名前を呼んだことで怖れるように囲いが左右に分かれる。


「アスカちゃん、何してんのそんな隅っこで?」


 助かった~。

 救世主の名は春野 はるのさくら、私の中学からの友達。

 何故女子達が怖れるかと言うとサクラちゃんは身長180㎝、体重70後半の立派な体格。

 さらに柔道部で二年にして全国大会2位の猛者。オリンピックでメダルを狙えるとまで言われており、物理的な意味で我が校の女子最強。

 

「あははっ……何してるんだろうね…」

「周りのは友達……って感じじゃなさそうやね、寧ろ敵か」


 サクラちゃんは大まかながらに私の状況を察してくれたようだ。



 サクラちゃんは指一本動かしてないけど、周りの女子達の腰が引ける。私もちょっと背筋がゾクってなった。サクラちゃんは覇気の使い手の様だ。


「分かったなら、もう行き」


 スゴスゴとトイレから出ていく女子達。


「ありがとう、助かったよサクラちゃん」

「何があったんか詳しく聞きたいけど…、先に用を足してええか?」

「もちろん」




 サクラちゃんがスッキリした後、事の成り行きを話す。


「ふ~ん、如月と放課後二人で旗制作してただけで嫉妬されたんかい。…ウチからしたら何であんなヒョロっとしたのがモテるんか理解出来ひんわ」


 サクラちゃんの好みのタイプは漫画で例えると、世紀末に邪魔する奴を指先一つダウンさせるあの主人公だ。主人公だけじゃなく宿敵ライバルのキャラ達も好きだ。

 つまりガチムチ系が好みで、恋人にするなら自分より強い男だそうだ。


「ウチの好みはともかく、何かあったらいつでも言うてや。さっきも言うたけどアスカちゃんの敵はウチの敵やからな」

「ほんまおおきに」

「…大阪出身に下手な関西弁使うんは止めた方がええで」

「あ、ごめん。本当にありがとう」

 

 サクラちゃんが味方ってことであの達もしばらく様子を見るはず、


「体育祭が終われば、誰も気にしなくなるよ」



 その時は本気でそう思っていた。

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