第9話 馴れ初め紹介 5
翌日、休み時間。
「……視られてんな…」
とか一人で言ってみる。ミカちゃんがいてくれたら「こっちは素人じゃないね」と返してくれるんだけどな~…。
オタ発言は置いといて、
誠一郎さんの視線を感じていた。視線というか、話しかけようと思うもやっぱ止めとこう、みたいな雰囲気。
……ひょっとして「やっぱり放課後手伝えなくなった」とかかな…?
気になるけど声をかけられてもないのに私の方から「何か用?」とか自意識過剰なこと出来ない。
でもこっちからも用事あるんだよね。実はお勧めした漫画を持って来ているのだ。
有難迷惑になるかなって思ったけど、無駄なお金使うよりはいいかなと思ったのと、出来ればゆっくり読んで欲しいんだよね。
放課後タイミングがあれば渡そう、タイミングがあれば。
時は過ぎ、放課後になる。
帰り支度をして友達と教室から出ていく誠一郎さん。
だがこれは昨日の時点で聞いていた「一旦外出るけど、すぐ戻って来るから」と。
理由を聞いたら「騒々しい中で作業するのは図師さんも嫌でしょ」と答えた。
誠一郎さんは天然でもバカではない。自分が残れば手伝う気ないのに五月蠅くする連中も残ると解っている。
これで戻って来なかったらより寂しく感じるな…。
とか考えてたけど、
「お待たせ図師さん」
要らぬ心配だった。
「ううん、私も今来たところだよ」
「ん?図師さんもどっか行ってたの?」
調子に乗ってデート風のボケをしたけど通じない…、女子と思われていないと考えた方がいいかな。とかこの時思ってた。
「気にしないで」
「うん…。あ、図師さんが勧めてくれた漫画ちょっと読んだよ」
「もう読んでくれたの!?」
「昨日30分だけ漫喫寄ったんだ。でも一巻の半分ぐらいしか読めなかったよ。冒頭から先生の正体とか教師になった理由とか謎があるから、ギャグだけど集中して読んじゃうね」
くぅ~っ、勧めた日に読んでくれただけじゃなく、こっちの欲しい感想を言ってくれるなんて、さすが完璧イケメン。
「早く続き読みたいな」
このタイミングなら良いよね。
「実は貸そうかなって思って、単行本持ってる来てるの」
カバンから漫画を出す。
「え、持って来てくれたの?」
「三冊だけでかさばらないし、漫喫よりゆっくり読めるかなって…迷惑かな…?」
「ううん、早く読みたかったから嬉しいよ。ありがとう」
ぐはぁ~っ、完璧イケメンの笑顔感謝は破壊力高いぜ!
「でも読むのは帰ってからね、今は旗作りを頑張ろう!」
「おう!」
それから放課後は、思いを寄せる誠一郎さんと二人っきりで楽しく旗作り。
想像もしていなかった甘い青春のひと時。
は、割と早く終わりました。
授業が終わりHRで担任の中畑先生が突然言った。
「お前等、旗の制作を如月と図師に任せっきりらしいな」
先生の言葉に皆の視線が如月君に向けられる。
「絵の上手い者を軸に制作するのと、制作を絵の上手い者に任せっきりにするのは意味が違うぞ」
中畑先生はかなり放任主義だ、競技決めの時も教室に居もしなかった。多分本人の考えじゃなく学年主任とかに指摘されたんだろうな。
これだとみんなに悪いな…。
「違います先生。私が任せてくれて大丈夫って言ったんです」
「そうなのか。…だが旗制作はクラスのチームワークを高める為のもの、手伝える者は手伝え。私からは以上だ」
中畑先生は具体的には何も決めず教室を出て行った。
一瞬静まり返ってから、何人かが誠一郎さんの周りに集まる。
「どういうことだ?如月」
「如月も帰ってたじゃん?」
直ぐに質問したのは轟君と武田君。
「あ~…戻って図師さん手伝ってたんだ。推薦したのは僕だしね」
「帰ったふりしてたのか?」
「何でそんなこと?」
「轟と武田は大事な試合が近いって言ってたから、気を遣わせたくなかったんだよ」
そういう理由もあったんだ!?
「気を遣ってんのはお前じゃねぇかよ。…俺も旗制作に参加するわ、今からキャプテンに部活遅れるって言ってくる」
「でも轟…」
「如月は関係ない、元々図師一人に任せてることに罪悪感を感じていたからな」
「轟君、旗制作は順調にだから…」
「図師、体育委員長命令だ」
「りょ了解であります」
命令じゃしょうがない。
「俺もキャプテンに部活休むって言ってこよ、担任命令じゃ仕方ないよね。図師っち、絵心零でも出来る作業用意しといてー」
武田君は返事も聞かずに教室を出て行った。
如月君、轟君、武田君の三人が旗制作に参加。
となれば、
「「「「「「「私も参加する!」」」」」」」
女子も黙って無いよね。
放課後の旗制作は想像通り騒々しくなった。ダジャレじゃないよ。
増えた人数の割に作業スピードは上がってないけど、これはこれで青春っぽさはあったかな。
だだし…、
翌日私は、
「何で如月君が放課後残ってるの言わなかったのよ」
女子トイレでカースト上位の女子グループに囲まれることになったんだけどね。
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