第8話 馴れ初め紹介 4


 放課後教室に残っての旗制作は私とミカちゃん二人だけでも順調だった。

 しかし、


「海原 美夏はインフルエンザで休むことになった」


 ミカちゃんがフライングしたインフルエンザにかかってしまったのだ。

 当然「旗制作大丈夫か?」と聞かれるわけだけど、


「大丈夫だよ。線画は出来てるから、後の塗は一人でも問題無い」


 当時の私は一度出来ると言った以上「やっぱり手伝って」とは言えなかった。若いねぇ~。



 そして放課後、


「一人だとB0がより大きく感じるな~」


 準備するだけでも大変だ。


「絵が描けなくても単純作業や雑用をしてくれる人が一人でも居れば助かるけど……描けなくても良いからって逆に言い辛いんだよね」

 

 考えても仕方ないと、コツコツ色を塗る。

 とその時、ガラっと教室の扉が開き、現れたのは、


「図師さん僕も手伝うよ!」

「如月君!?」


 皆さん予想通り誠一郎さん。


「帰ったんじゃないの?」

「一度帰ったよ、でも今の状況を母さんに話したら殴られた」

「え、殴られた!?」

「はははっ、そうなんだ。「何やってるのよ誠一郎!家の手伝いなんていいから、今すぐ学校戻ってその女の子を手伝いなさい!」ってね」


 パワフルなお母さんだな~。


「言わなきゃ良かったのに」

「良いんだよ、僕自身図師さんを手伝いたかったからね。バイトの時間もズラしてもらったから明日から体育祭まで僕も残って手伝うよ。


 正直言おう、私はこの時から誠一郎さんに惚れている。


 彼女を作らず友達との遊びも度々断って、バイトや家の手伝いを頑張ってる完璧イケメンがだよ。私を手伝う為に時間を作ってくれた。


 こんなん惚れてまうやろぉ~!!!


「ご、ゴホンッ、ありがとうございます」

 

 照れ隠しで敬語になる。


「気にしないで、元々僕が推薦したのが原因だしね」


 ここで「如月君も私の事好きなのかも?」とか勘違いしてはいけない。告白されることが多いのは完璧イケメンだからというだけでなく天然の誑しという理由もあるからなのだ。

 推薦した事に責任を感じてると言うならそれが唯一無二の手伝ってくれる理由と考えなければいけない。

 もし私が【眼鏡を取ったら美少女】もしくは【痩せたら美少女】といったヒロインであればこのまま恋愛に発展するのだろう。

 ところがどっこい。

 眼鏡を取ろうが痩せようが私は美少女ではありません。


「如月君は絵得意なの?」

「ごめん、自信無い」

「それだと単純作業や雑用やってもらうことになるけど」

「うん、良いよ!」

「だったら遠慮なく扱き使うからね」


 誠一郎さんとの恋が結ばれるなんてあり得ないと思っていたから遠慮なく雑用してもらうことにした。



 二人っきりの教室。

 作業していても全く会話がなかったら辛い。

 とは言え私から振れる話題は漫画だけだ。


「如月君って普段漫画読むの?私の描いたロゾは知ってたみたいだけど」

「買ってじゃなくて時間が空いた時に漫喫で読むんだ。一時間300円で二冊は読めるからお得だしね」

「一冊30分か…読むの速いね」

「僕が読む漫画はバトルやスポーツ、ギャグとか、ジャンル的にサクサク読めるから早いんだと思う」


 ん~…オタクと一般人の認識の違いが出て来たな~。

 バトルやスポーツは絵の迫力で魅せる漫画。ギャグ漫画は笑えて軽く読める漫画。

 だから考えさせられるミステリー漫画や設定をややこしくしたSF漫画よりサクサク読めることは否定しない。

 駄菓子菓子だがしかし


「ジャンルじゃなくて作家にヨリケリだよ。バトルやスポーツでも考えながら読まないと意味わからなく漫画はあるし、ギャグ漫画でもストーリ的にずっと先まで考えて練られてる漫画もあるから…」

「そうなんだ…」

「あ、ごめん。オタクの戯言だからスルーしといて」

「ん?漫画家志望なぐらい漫画に詳しい図師さんの言葉なら戯言じゃないよ」


 引かれてはないみたい…。


「私の言葉は私の感想だから戯言と大差ないよ」

「ふ~ん…図師さんのお勧めの漫画教えてよ」


 ま~た一般人が、オタクが困る質問して来たよ。

 

「う~ん、漫画にも好みがあるからねぇ~。先に如月君が読んだ漫画教えて」


 質問に質問で返す形になったが、


「え~とね…」


 誠一郎さんは素直に教えてくれた。

 出てきたのはどれもアニメ化された大人気漫画ばかり。

 ジャンルはさっき言ってた、バトル・スポーツ・ギャグの系統だが、掲載されている雑誌がバラバラ過ぎる……。


「如月君はそれらの漫画も友達に勧められたから読んだの?」

「その通りだよ、よく分かったね」


 当時スマホは愚か、ネットでの検索すら高校生ではパソコンに詳しい者のスキルだった。裕福ではないと聞いてたからパソコンはないと推測出来る。


「簡単な推理だよワトソン君」

「僕の名前は如月だよ」

「ごめん今のは忘れて。私のお勧め漫画だけど…」


 私は、『担任の先生が超生物で生徒が担任を殺さないと地球が消滅する漫画』を勧める。後にはアニメ化・実写映画化までされるヒット作。


「…聞いた事ある気はするけど読んでない漫画だ」

「なら試しに読んでみて、ジャンル的には学園ギャグだけど、バトルや色々な要素を織り交ぜた漫画なの。まだ単行本は3巻までしか出てないから、如月君なら一時間半で読めるよ」

「今度読んでみるよ」


 私は単行本持ってるから貸してあげようかと思ったけど、恥ずかしくて言えなかった。

 あと、。という私流の決りがあるしね。

 

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