3月28日

 西暦2023年3月28日


 はああ~、ここまでひどいとは思わなかったよ。正真正銘のクソゲーだわ、これ。

 パッケージには剣と魔法と冒険のRPGとか書いてあったのに、いきなり主人公の日常から始まって、コンビニがどうの、貯金がどうの、投資詐欺がどうのと、とにかく転生するまでの長いこと。

 で、ようやく死んだと思ったら宇宙船だよ。なんだよこれって思う間もなくまた死亡。そしてようやくファンタジー世界が始まって、よし本腰を入れてプレイしようと思ったら魔王討伐パーティ全滅であっちゅう間に死亡。しかも絶望による主人公の自死。クソ過ぎる。


「ゲームはまだ終わってはいません。まずは『日記』と『航海日誌』と『オレの冒険の書』を読んでください」


 主人公死亡の後、いきなりこんな画面に切り替わりやがった。読まないと先に進めないらしい。面倒だが読む。


「読み終わりましたね。ではこの続きはあなたが綴ってください。その内容でこれからの展開が決まります」


「オレの冒険の書」が「あなたの冒険の書」に変わりやがった。続きを書かないと先に進めないようだ。どんだけ手を焼かせりゃ気が済むんだ。こんなクソゲーの続きなんてクソに決まっているし、適当に書いておくか。


「永遠の眠りについた主人公のために盛大な葬式が挙行され王都に記念碑が建てられた。現在この勇者の記念碑は毎年1950万人の弔問客が訪れるピハボ王国一の観光名所である」


 おっ、続きが始まったぞ。


 GAME OVER!


 なんだよ、瞬殺で終了だよ。やっぱり死んだままじゃそうなるか。


「もう一度やり直せます。新しい続きに書き直しますか?」


 書き直すよ。生き返らせりゃいいんだろ。


「胸を刺して命を落としたと思われたその瞬間、主人公は息を吹き返した。魔王城へ乗り込む前に親友のエルフからもらった秘宝『身代わりの羽』によって復活したのだ」


 これなら即GAME OVERは回避できるだろ。おっ、続きが始まった。よしプレイするぞ。


 * * *


 この内容でもダメだった。生き返った主人公はすぐ魔王に殺されるんだけど、女神がすぐ生き返らせ、それを見た魔王がすぐ殺し、また女神が生き返らせ、また魔王が殺しってのを延々と繰り返す無限ループに入っちまったんだ。100回くらいループを見てもう電源を落とそうと思ったら、画面が変わった。


「もう一度やり直せます。新しい続きに書き直しますか?」


 書き直すよ。魔王と女神をどうにかすりゃいいんだろ。


「自ら命を絶った主人公の潔さに感動した魔王と女神は心を入れ替えた。『これからはともに手を取り合って良き世を作りましょう』『うむ。心得た』こうして世界には平和が訪れ、復活した主人公は末永く平穏な日々を送りましたとさ」


 ほれ、書き込んだぞ。これならどうだ。

 おっ、続きが始まった。よしプレイするぞ。


 * * *


 ダメだよ。平穏すぎて何も起きないんだ。主人公は起床、労働、食事、就寝を繰り返すだけ。コマンド入力も受け付けない。毎日同じことを繰り返す主人公をボヘーっと眺めているだけなんだ。

 そして主人公が88才になった朝、老衰で死亡してGAME OVER。茫然としていると画面が変わった。


「もう一度やり直せます。新しい続きに書き直しますか?」

「書き直すわけないだろ、こんなクソゲー。金返せ!」


 思わずコントローラーをディスプレイにぶん投げてしまった。画面にヒビが入る。火花が散る。大爆発。警報音が鳴り響く。


「うわあ、ヤベえ!」


 と叫んだオレはベッドから転がり落ちた。枕元で目覚ましが鳴っている。どうやら夢を見ていたらしい。


「なんだ。日記も航海日誌もオレの冒険の書もクソゲーも夢だったのか。それにしても長い夢だったな」


 オレはベッドから起きると机に向かった。そこには「あなたの冒険の書」と書かれた日記が置いてあった。




 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る