3月25日

 銀河連邦暦2023年3月25日


 非常事態発生。緊急レベル5。取り敢えずメモ。


 今一段落したところだ。

 現在、異常検出ユニットを稼働させて損傷個所と原因の特定を調査中。


 調査結果が出た。超高速の飛翔体と衝突したらしい。なんてこった。衝突回避センサーは最新式の装置を採用しているはずなのに。

 冷凍睡眠中の5人を起こすべきだろうか。いや、やめたほうがいいだろう。睡眠解除システムが正常に稼働する保証はないからな。


 被害状況判明。最悪だ。動力炉及び推進機関破損。自力航行不能。救援要請を発信。

 即応答あり。最短時間45タムで救助船が到着の予定。


 追加の被害報告。環境維持システムに不具合発生。船内温度、気圧ともに低下中。予想される生存可能時間は30タム。救助が間に合わない!


 非常脱出艇に損傷あり。自力での切り離し不能。



 ふう。ようやく落ち着いて航海日誌が書ける。

 やれるだけのことはやったよ。オレ以外の5人は冷凍睡眠装置ごと脱出艇に運び込んだ。オレも乗り込みたかったんだが、どうしたことか脱出艇から分離信号を発信できなくてな。これだからボロ船はイヤなんだ。宇宙のゴミとぶつかったくらいで簡単にイカレちまうんだから。


 こうなったら覚悟を決めるしかない。オレが本船に残って脱出艇を発進させることにしたよ。もちろんうまくいった。これでもオレは6人の中じゃ一番優秀な下っ端乗組員なんだぜ。


 宇宙船の窓から外を見る。救難信号灯を明滅させながら暗い宇宙空間を滑るように遠ざかっていく脱出艇が見える。方向も速度も計算通りだ。こちらに向かっている救助船に無事拾われることを祈っているぞ。


 寒くなってきた。呼吸も息苦しい。船内の全エネルギーを操縦室の環境維持システムに振り分けてもこの程度か。冷凍睡眠装置の起動がもっと低電力で高速なら救助船到着まで眠って待っていられたんだがな。今、装置に入っても冷凍状態になる前に全エネルギーを消費して死んじまうだろう。こうして星空を眺めながら最期の時を過ごすしか今のオレには選択肢がない。


「結局ロールケーキは買えませんでした」


 ふふふ、あいつの妄想駄文を読み返しちまった。実はオレたちはあの惑星で食ったんだ、盛り過ぎロールケーキ。食えなかったのは宇宙船居残りのあいつだけだった。もちろんそれもレポートにまとめた。かなり美味であることも報告した。それがよっぽど悔しかったんだろう。妄想の中の主人公にロールケーキもシュークリームも食わせなかったのは、あいつの口惜しさを反映させたんだろうな。


 ああ、吐く息が白い。手も足も痺れてきた。こんな宇宙の片隅で永遠の旅に出るのか。下っ端宇宙飛行士にはお似合いの最期だな。まあこうなることはわかっていたんだ。辺境星域探査の生還率は5割を切る。2人に1人しか帰ってこない。危険極まりない任務だ。それでも希望したのは見返りが大きいからだ。下層市民のオレが成り上がるには大金を掴むしかない。衛星間航路の乗務員のままじゃ一生かかっても貰えない報酬が手に入るんだ。伸るか反るかの大勝負、その勝負にオレは負けた、それだけのことさ。


 こんなことならあの下等惑星に残ってもよかったな。たまにいるんだ。探査対象の惑星が気に入って住み着いちまうヤツが。あの妄想を書いたあいつも、もし居残り組でなかったらあの惑星に永住しちまったかもしれないな。そういやあいつ、持ち帰った図書のデータを熱心に読んでたな。ラノベとか言ったか。下等惑星の脳天気な小説でも読みながら最期の時を迎えるのも悪くないな。

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