第40話 先行きは不安です

「ノエちゃん。今日も早くから精が出るねぇ。」

「あ、アマラさん。おはようございます。働かざる者食うべからずですから!」

「元気なのはいいが、無理しないようにねぇ。」

「はい!」


 十数日後。

 私はまたオビダットに居た。

 正確には

 あれから帰っていくお父様達を見送って、私は一人オビダットに残る決断をしたの。

 何故なら折衷案としてお父様が出してきた課題が…半年後の誕生日までに、私がプレゼンしたいくつかの商品を開発した後、お父様の顔が利く店で流通させてみて、前向きな結果が出たら廃村保留が誕生日プレゼントになる。

 その次の1年で赤字を黒字に戻せたなら、来年の誕生日プレゼントは村の権利書になるだろう。って事だったのよね。

 つまり私は半年で、オビダットの可能性を世に知らしめないといけなくなった訳。

 一日だって無駄に出来ないじゃない。


 という訳で、お父様に動いてもらって、名前も恰好もノエリアのまま。村民として花の手入れの仕事を貰って生活を始めたの。

 仕事内容は主に森の巡回だから、毎日森に出かけては1日中商品開発のヒントを探しているわ。

 タイムリミットがあるから、なるべく手間を掛けないで出来るもの、例えばポプリなんかが有力よね。だけど、ありふれたものでは既存品には勝てないから、付加価値を付けて目を引かないといけない。

 とはいえ、商品を卸す店は主に庶民をターゲットにしているお店だから、コストはなるべく削減しないといけないし……。


「今日も悩ましげじゃのぅ。上の空で芽吹きかけの花をふみつぶさぬようにの。」

「え? わっ。ありがとうポッドお爺さん。全然気づかなかった。」


 ギリギリの所で植物の芽を踏むのを回避する。

 考え事をしながら歩いていて、気づけばポッドお爺さんの前まで来ていたらしい。

 あんまり踏み荒らすのも良くないから、ポッドお爺さんの根っこで一休みする事にしましょう。


「して聖女よ、何をそんなに悩んでおるんじゃ? 匂い袋に入れるに相応しい花ならば、教えてやったじゃろう?」

「えぇ。今部屋で乾燥させているけれど、見た目も香りも良い感じよ。そうじゃなくてね。なんて言うか…その…」

「頭を整理するには口に出すのが一番じゃよ。大丈夫じゃ。儂はただの木。ここには主の秘密を知ろうとする人間はおらぬ。」

「…じゃぁ、これは独り言だけど…。一番の問題は、村の人たちに向上心が無い事なのかもしれないわ。この数日、それと無く村人と会話をして思ったのよ。彼らは現状に満足しているの。ボロであっても服を着て、簡素だけれど家もあって、その日生きるだけの食があって、最低限暮らしていけるからね。困ったことがあったらお父様に泣き着けば対応してくれるんだもの。それなら自分たちで村を盛り上げる必要は無いのよ。彼らは、オリバレス公爵にとってこの村が、手放したいほどの負債になっている事を知らないの。理解できないの。公爵が村を守る事は当たり前だと思っているから。」


 ―――オビダットへの必要支援は惜しまない


 それは、不法占拠民と共に村を築きあげた曽祖父が掲げた決め事で、彼らの生活様式を変えなければこの地を護る事が出来ないと判断した曾祖父の優しさでもあった。

 しかし時は流れ、当時の人間もいなくなった今、その決め事はただただ、負債を増やすだけの枷となっている。

 オビダットの屋敷に残っていた近年の会計報告書の数字が、全て同じであることから、おそらく村長はじめまともに勘定ができる人間もいないみたいだし。


 そりゃ、お父様だって手放したくもなるわよねぇ…。


 ただでさえ忙しい上に、魔物の侵略が続き、こんな村に構っている場合じゃなくなったのでしょう。

 正直な話、お父様にはちょっと同情した。

 でも、だからこそ、私がここを請け負う事で、お父様の頭痛の種が一つでもなくなればいいなとは思う。

 尤も、今の私は頭痛の種を一つ増やしただけなんだけれど。


「やっぱりプレセアとして管理しに来た方が良かったかしら?」


 それも検討したけれど、それはお父様に却下されたのよね。

 事情も村人に一切話してはいけないって。

 鬼か! とも思ったけど、上手くいかなかった時に村人達が全ての責任がオリバレス家に、私に押し付けて来る未来が見えたのかも。

 

 お父様に偉そうに反抗しちゃったけど、やっぱり現場を、国をているお父様に、部屋に引きこもっていた私が勝るわけ無いのよね。

 まぁでも、せっかくのチャンスだもの。

 若気の至りを許して貰えるうちに、取り返していきましょうか。


「よし! 考えても無駄な事はひとまず考えない!!!」

「ふぉっふぉっふぉ。結論が出たようじゃのぅ。儂としても、この場所が切り開かれることは望まぬ。出来る事があれば協力するぞ」

「ありがとうございます。あ、じゃぁ早速一つお願いがあるんですけど、あの青い薔薇について教えてください。」


 自生する、サファイアで出来た彫刻のような、透明感ある青の薔薇。

 それは多種多様な植物が並ぶ森の中でも異質な美しさを放っている。

 あれが流通するだけできっと、この村の収入は何倍にも跳ね上がるのだけれども、摘み取ると途端に色があせ、香りが飛び、花弁が散ってしまうために流通は難しいのだと村民から聞いた。


「サファリーローズか。あれは残念じゃが、この森から出す事は出来ぬ。儂の魔力が行き届かない所では枯れ散ってしまうんじゃ。」

「そうらしいですね。方法があれば必ずオビダットの名産品に化けるとは思いますけど、ポッドお爺さんの魔力が無いと駄目なら仕方ないので、今は諦めます。そうではなくて、あの花が咲いた経緯を詳しく教えて欲しいんです。」

「経緯か。うむ。」


 森にある花は、ポッドお爺さんが村人たちの思いを汲んで咲かせているらしい。

 優しく語り掛けて来る様な花、寂しさに寄り添う花、愛らしい花…咲いた花には全て、ポッドお爺さんと村人の物語がある。


 特に青い薔薇=サファリーローズは、少し前まで死期が近かったポッドお爺さんが一時期危篤に陥り、森の植物の大半が元気をなくしていた時に、村人たちが利益のある花だけでなく、森の草木をも大切に思い行動してくれた事のお礼として咲かせた特別思い入れのある花だという。


「あの時は村長が腰を痛めておってな、代わりに娘が指揮をとって働いていた。じゃから儂はその娘の心に咲く花を芽吹かせる事にしたんじゃ。それがあの、サファリーローズ。しかしまぁ、彼女の内にある熱は一つの花に集約するには大きすぎてのぅ。辛うじて芽吹き咲いたが、この場所からは動かせないものになってしまった。」

「じゃぁ、あの花は未完成品なの?」

「どうじゃろうなぁ…或いは、それも含めて完成品なのかもしれぬ。」



 ポッドお爺さんは経緯を離した最後に意味深な言葉を残し、「少し休む」とただの木に戻ってしまった。

 仕方が無いので、私は暫く森の木々を眺めながら座り込んで考え事。

 そういえば、村長の娘さん…ヘラさんは遠出しているとかでまだ出会えていないのよね。

 帰宅予定は昨日だったはずだから、戻ったらご挨拶に行ってみよう。

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