第38話 魔物たちは秘密が多い

 あの後、朝食の時間などすっかり忘れてポッドお爺さんと聖女談義していた私を、お父様が鬼の形相で迎えに来たわ。

 そのまま昼までは屋敷の部屋から出るなと言われた上に、レオガディオ様の別宅に帰って来てからも私はしばらく部屋での待機を命じられちゃった。

 いい機会なので、ここいらでスズキさんを問い詰めてみようかしら。


「ねぇ、どうして色々黙ってたの?」

「悪かったよ。だが、悪気があった訳でもねぇのよ。」

「どうだか。スズキさん。あの場所にトレントが住んでいる事分かってたでしょ?」

「ありゃ…出来れば会いたくなかったんだよ。」


 あ、そういえばポッドお爺さんの前まで行ったら急に黙って石になってたっけ。


「だがな、言っておくが、俺はあの爺さんよりよっぽど最近生まれた精霊だぞ。知らねぇ事のが多いんだよ。念じるように語り掛けたら嬢ちゃんと喋れた。嬢ちゃんから名前を貰った時、魔力が澄んだのは分かった。それは事実だが、その仕組みは俺もさっき知った。嘘じゃねぇよ。」

「そう。じゃぁ、他に何か気づいた事とかある?」

「………ねぇな。」


 その間は何よ。絶対何かあるでしょう。 

 全く。うちの魔物達は秘密が多いわね。

 とにかく、今これ以上の情報を出すつもりが無いって事は分かったわ。


「それより嬢ちゃん、ティナの方から連絡が来ている。」

「あら、話をするのは夜の予定だったわよね?」

「だから、空いた時間があればでいいって言ってるが、繋ぐか?」

「そうね。どうせやる事も無いし。お願いするわ。」

「あいよ。」


 一瞬、石からスズキさんの顔が消える。

 そして次の瞬間に


「プレセアー!! 元気―?」


 っと、元気な声でスズキさんがティナの真似を始めたわ。

 これ、毎回やってくれるんだけど声と顔はスズキさんのままだから、中々慣れない。

 でも、オジサン顔がキャピキャピ跳ねて頑張ってくれているんだもの…資格に頼らず、その先のティナを感じないと。集中集中っと。


「元気よ。ティナも元気そうね。」

「うん!!」

「それで、どうしたの?」

「うん! プレセア、いつ帰って来る~?」

「予定では明日こっちを出るから、明後日の午後には着くと思うけど。」

「えー、今日は帰って来ないの?」

「そうね。今日は無理だわ。」

「むー。じゃぁティナ、今からプレセアに会いに行っていい?」


 とっても残念そうなティナ。

 もしかして、寂しくなっちゃったのかしら?


「気持ちは嬉しいけど、この後も移動するかもしれないし、確実に会えるか分からないからお家で待ってて欲しいわ。」

「むー………早くプレセアに見せたいのに。」

「見せたい? もしかして、どうしてもやりたい事って、何か作っていたの?」

「あぁ!! 違うのよ! それは内緒だから知らない!! 別に見せたい物なんてなくて間違いで、とにかくプレセアが早く帰って欲しいの!」


 焦るティナ。癒される。もう100%何か見せたいものがあるんじゃない。

 でもじゃぁ、そういう事にしておきましょう。


「そうなのね。早とちりしちゃってごめんなさい。でも、私の独断では帰れないからもうしばらくルシアと待っててね。」

「はーい。」


 うん。良いお返事だわ。


「あ、それとねプレセア。ルシアがしたよ!」

「伝言? 何かしら?」

「んとね、レオレオが卵を貰った理由が分かったからお話したいんだって。」


 スタンピードの予告と共に、レオガディオ様がドラゴンから預かったという卵。

 そこから生まれたドラゴン、セアは今、人の姿となってレオガディオ様の側近を務めているけれど、その真意は謎のままだった。

 それを一人で突き止めてしまうって、ルシアってば、一体何者なのよ…。

 だけど、疑心感はないわね。

 相手がドラゴンなら、もしかしたら、ルシアならば突き止められるかもと思ってもいたし。


「教えてくれてありがとうティナ。帰ったら早急に時間をとれるようレオガディオ様とも相談しておくと伝えてもらえるかしら?。」

「でんごん?」

「そう、伝言。お願いできる?」

「任せて!!!」


 姿は見えないけれど、頭の中でティナがえっへん!と胸を張る。可愛い。


「じゃぁ、そろそろお茶に呼ばれるかもしれないから、切るわね。」

「うん…プレセア、早く帰って来てね!」

「えぇ。」


 そうして私はティナとの通信を切った。


「ありがとうスズキさん。」

「大したことはしてねぇよ。それより嬢ちゃん、続けざまで悪いが今セアの奴からちと厄介な情報が来た。嬢ちゃんの父親と王子さん、あの村を廃村にするつもりらしい。」

「廃村!? え、何で急に? あんなに温かくて素敵な村なのに…」

「恩情だけじゃ食っていけねぇからじゃねぇか?」


 確かにね。

 オビダットの資金源は主に花だけれど、あれだけ様々な花があるのに、村人の日銭を稼ぐ程度にしか売買はされていないらしい。だから老朽化した建物や設備の修繕は長年、オリバレス家が私財を投げうって支えて来たみたいね。


「廃村にした後は周辺を切り開いて軍事施設を作り、魔物討伐隊の強化に当てるつもりらしいぞ。」


 となると、廃村は初めから決まっていて、視察は確認作業みたいなものだった訳か。

 そんな計画を知っちゃったら、部屋で大人しくなんてしていられないわね。


「ちょっと、行くわ! 場所は何処?」

「ん-…ちと待て…。あぁ、んと、同じフロアの最奥にある王子さんの部屋だそうだ。」

「了解!」


 部屋のドアを開けると、丁度お茶のワゴンを押したアンナがドアの前にいた。

 驚いて声を上げるのも忘れているアンナに「急用なの!!」と言った私の顔は多分、鬼のようになっていたかもしれない。

 怖がらせちゃったかしら?

 でも、そんなこと言ってられないの。ごめんなさい。


 セアさんが何で情報を流してくれたのかは分からないけれど、正式に書類が整う前に、とにかく止めて見せるわ。

 だって、あの村はポッドお爺さんトレントが長年愛し見守っている村なんだから!!!

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